この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ ホワイトデー2017

3月14日。
まだ少し肌寒いけれど、今日はポカポカと陽が暖かい。そのため、私が今いる屋上はとても心地いい。陽で体は暖まり、でも暑くなる前に、冷たい風が時折私の熱を奪う。
なんて気持ちのいい日なんだろう。


『ふぁ〜…クソねみー…』

「おいコラ。女の子がクソねみーとか言うんじゃない。」

『じゃあ、お手本を見せてください、坂本先生。』

「…春の陽気が私を眠りの世界へと誘うわぁ〜♪(裏声)」

『キモッ おかげで眠気が覚めました。』

「…それは光栄です。」


カップラーメン片手に現れたのは坂本先生で、また今日も私と一緒にご飯を食べに来たのがうかがえた。気にしなくていいのに…でも、その心遣いは嬉しい。それに坂本先生と一緒に食べるのも楽しい。


「…それより、ほら。」

『?
…何この袋。賄賂? テストの採点手伝えって?』

「違ぇよ! いや違わないけど! 是非とも手伝って欲しい!」

『中は…チョコだ、ちょっと高そうなチョコだ。』

「お返し期待されちゃぁなぁ…男としては頑張るもんだろ?」

『へー! 坂本先生、男だったんだ。』

「えっ、オレが女に見えるほど美人だって? やだぁ〜う、れ、し、い〜!」


坂本先生の言葉を聞き流しながら、ガサガサと袋の中から箱を取り出す。リボンをほどき、蓋を開ければ美味しそうなチョコが並んでいた。どれから食べようかな。


『…あ、美味しい! これはアーモンドが入ってた。』

「へぇー…この丸いのは?」

『それはねー…。 …うん、これも美味しい! 生チョコみたいな感じだった!』

「ほぅ、じゃあこれは?」

『…食べたらどうですか?』

「バカ言うな。オレがあげたものを貰うわけにはいかねぇだろ。」

『別にいいのに…ん、これはオレンジ風味だ。』


パクパクと口に入れてはそれを味わって。美味しいからと先生にそれを差し出すも、彼はやはり1つもつまもうとしない。
アレか? 大人と男のプライドなのか、これは。


『ん! 今の!
ウイスキーボンボンだった!』

「あ" 悪い…まさかそれも入っていようとは…」

『大丈夫です、これ好きなので。チョコの中でもずば抜けて好きなので。』

「言っておくが、お前まだ未成年だからな?」


チョコの甘さと、お酒のほろ苦さ。
口の中がそれに支配され、春の陽気さと共に私の頭も麻痺する。酔っぱらう程じゃないけれど、この酔いの始まりみたいな感じは気持ちがよくて好きだな。
そんなことを思いながら同じものをもう一つ口に入れた時、坂本先生が何故かこちらをニヤニヤと見つめていることに気付いた。…怪しいな。


『…何ですか。』

「別に? 奴良姉は美味しそうに食べるなぁと思って。」

『美味しいですからね。』

「それは良かった。
…そういえばさ、チョコの効果について知ってるか?」

『…もしかして痩せるの?』

「さぁな。それは知らねぇけど…昔は催淫効果があるって信じられてて媚薬代わりに使われてたこともあるんだぜ。」

『へぇー…』

「…それで?」

『は?』

「今どんな気分なんだ?」


いい大人をした教師が、小学生男子みたいにニヤニヤして聞いてきた。ハッキリ言ってバカだと思う。私がそこで照れるとでも思ってんのかコイツは。
…あぁ、でも、ノッてやるのも悪くはないかな。


『…ど、どうしよ…先生…』

「ん?」

『心臓が…バクバクしてっ、』

「ハッハー! お前でもそんな話してドキドキすることがあるんだなぁ、奴良!」

『ん…、…身体も…何だか、熱いのっ…!』

「…?
それはウイスキーボンボン食べたからじゃ…」

『違うっ! そんなんじゃなくて…、それに…ムズムズするというかっ…』

「…………」

『ガマン…できない、ような…
変な感じなの…っ!』

「………ぉぃ…ちょ、嘘だろ…? だってそんな…え? 待って待って待って、オレそんなチョコ買ってなくね!? 入ってたの!?」


私の様子がおかしいと思ったのか…
坂本先生は慌てて私にくれたチョコの箱裏にある原材料表示シールを見ている。その顔は焦っていて、明らかに困惑している表情だけど、仄かに紅く染まっている。
本当…少しは疑うことを知った方がいいんじゃないの、この人は。


「やべぇ…どーしよ…
薬で何とかおさめる方法とか…」

『そう簡単にはそんな薬手に入らないでしょう。』

「だよな…あーっ! このままじゃオレ、興奮剤を投与したとして教師クビだぁー!!」

『いやらしい先生もいたもんですね…』

「…本当だよ…。…………ん?」

『ん?』

「…あれ…奴良さん?」

『はい先生?』

「お前…ピンピンしてね?」

『ピンピンしてますよ?』


次の瞬間、坂本先生は騙されたと大きな声で嘆いた。自分の頭をボサボサになる程掻いて、悔しそうに、ジト目でこちらを見る。
ちょっとやり過ぎたかな…?
でも先に仕掛けてきたのはそっちだもんね。


『催淫だの媚薬だの…そんな話で私が恥ずかしがると思います?』

「…いや、全く。だから最初は恥ずかしがってんのかと驚いたよ…本当、騙された自分を殴りてぇ。」

『私が代わりに殴ってあげましょうか?』

「やめてください。
殴りたい相手は過去の自分でnot now!!
つぅかオレお前を倒せる日が一生来ねぇ気がする!」

『待って。なに私を倒そうとしてるんですか。』


軽く冗談を言い合って、笑って、時々軽く突き合って…そんなことをしていればあっという間に昼休みは終わってしまった。
チャイム音に慌てて屋上を一緒に出て、『教師なのに時間管理できてない!』「るせぇ、お前は遅刻を減らせ!」とか言い合いながら、それぞれ教室と職員室へ向かう。

いつもとそこまで大差ないけれど…
それでも今日はいつもより楽しかったし、この先生に会えて良かったと思った。







(『あ、先生さよーなら。』)
(「おぅ、気をつけて帰れよー。
…にしても、アイツいつか男を騙しそうで怖いな。」)




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