この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ バレンタイン2017

今日は2月14日、バレンタインデー。
女性がチョコをばらまく日だ。
義理チョコ、友チョコ、本命チョコ…それから何だっけ、家族チョコとか自分チョコ?


「あ! 先輩だー!」

「先輩、これどうぞ〜!!」

『おぉ、巻トリーじゃん。
ありがとう〜君達にもコレをあげよう。』

「アザース…って、先輩!」

「これチョコじゃないですよ!?」

『うまい棒だ。ウマイぞぅ〜チョコの味に飽きたらその塩味で気分転換しなさいな。』

「確かに。チョコばっかだと飽きるもんねー」

「塩味と甘味…手が止まらなくなる最悪最高のコンビネーションじゃん!」


お互いにお礼を言いながら、各々の教室へと向かう。私は次は…数学だな。お昼休み後の数学は一番眠くなる。


『ふぁ〜ぁ…』


欠伸しながら教室へと入り、席に着いたところで思い出す。
そういえば…坂本先生にいつチョコを渡そうか。
授業まではまだ時間があるのに…頬杖をついて1人思案していたところ、いつもより早く数学の教師がやってきた。


「奴良姉ー、今朝も遅刻した奴良姉ー、
君はもう包囲されている、大人しくこっちに来なさーい。」

「奴良さん、先生がお呼びだよ!」

「ま…今月何回目か分かんないし仕方ないさ。
いってらー! 生きて帰ってこいよ!」

『…いざ出陣するでござる。』


ケラケラと笑う周囲の子達に敬礼し、私を呼ぶ坂本先生のところへと向かった。そして廊下に出た私に、先生はすかさず「コラッ」と教科書で私の頭をポンと叩いた。


「今日で何回目かな? 遅刻は。」

『チョコ貰えました? 先生。』

「3個貰えたぜ。どやぁ。」

『本命のは? 正解はゼロ。』

「何でお前が正解を知ってるんだ?」

『坂本先生だから分かるんですよ、皆。』


遅刻の話はどこへ行ったのやら…。
バレンタインの途中経過について話は盛り上がる。
あ…そうだ。
私も今あげよう。


『そんな哀れな先生に施しをやろう。』

「何でお前は時々そんな上から目線になるんだ?」

『金のチョコ、銀のチョコ、銅のチョコ…
好きなものを選ぶが良い。』

「金!! …のチョコ!」

『よかろう。
人間の醜い欲望が実に出ておったわ…
受けとれ、これが金のチョコだ!!』

「これはっ……ただの五円チョコじゃねぇか!!」


ペイっと先生に渡したのは五円チョコ。
文句を言いながらも受け取って直ぐ様、袋を開けて食べる彼は流石と言えよう。食い意地がはっておる、うむ。


「モグモグ…銀のチョコは?」

『銀のチョコも欲しいの? はい。』

「…えっ、アルミ? アルミホイルなの?」

『開けてみてください。』

「あぁ…中に何か入れて…、
……何でチロルチョコ? 何でアルミでわざわざ包んだの? アルミは銀じゃないぞ?」

『でもアルミの色は銀色じゃないですか。』

「んー…まぁね? てかチロル久々食べるわ。」


またもやパクっとチロルを口に放り込む先生。
この人…遅刻の話はしなくていいのかな?
まぁ、私が話を変えたんだけどね!


「マグマグ…最後の銅のチョコは?」

『銅のチョコは…コレです!』

「何でまたチロル!? お前適当に選んだろ!!」

『んなことないっすよ〜。ほら、一番身近にある銅と言えば10円玉じゃないですか。だから10円のチロルにしたんです。』

「こじつけ感が半端ないな…モクモク…」


3つ目のチョコを食べたところで、ようやく本題に。今日の遅刻は今月何回目でしょう、というクイズを出された。
ふっ…そんなのー、


『7回目ですよ? 計画的にやりましたからね。』

「はぁ? 計画的ぃ??」

『今日は2月14日…即ち2/14、約分すると?』

「1/7…だな。」

『だから7回遅刻。ねっ☆』

「"ねっ☆"、じゃねぇから。
奴良姉、今の全然"ねっ☆"じゃ分からねぇから。」

『そんなわけで、チョコ7個用意してあります。』

「やりぃ!! 流石、奴良お嬢様だ!!」


小さいとは言え、今3つもチョコを食べたのに…だ。この人は指パッチンして喜んでいる。


『どーぞ。』

「おぉ…!? 今度はチロルじゃない!!」

『家に帰ってから食べてくださいね、お酒入ってるので。』

「おっ、洒落てんねぇ〜おませさんめ!」

『これで遅刻はリセットで。』

「それとこれとは別な。」


先生の言う通り、今度渡したものはチロルじゃない。個別包装されたチョコ7個を、小さめのお洒落な紙袋に入れてあるのだ。
それと…お酒入りだから、食べて運転すると捕まる。だからそれだけは注意しておかないとね。


『あっ、そうそう。さっきバレンタインデーを約分したら1/7になりましたよね。』

「ん? うん、それがどーした?」

『そのチョコも同じですよ。』


どういう意味だ、と不思議そうに首を傾げる先生。
プッと笑いそうになるのを堪えて、ポーカーフェイスを装いながら、坂本先生と目を合わせる。


『1/7…つまり、7個中1個のチョコだけが"当たり"ってことです。』

「ぇ"」

『"当たり"なものは、ちゃんとソレだって分かるようにしてありますから。"当たり"が出るまで…ちゃぁんと食べてくださいね♪』

「うそ〜ん…オレ食べるの怖くなってきたんだけど。当たり1個だけって…ハズレに当たる確率6/7じゃん。」


授業開始のチャイムが鳴る。
いつの間にやら廊下には誰もいない。残されているのは私と、目の前にいる頬をひきつらせている先生だけだ。
さてと…そろそろ教室に入ろうかな。
タタッと教室の後ろのドアへ小走りし、最後にくるっと先生の方へ振り返る。


『…楽しみにしてますよ! せーんせ♪』


ポカンとしてる先生の顔に、ついつい笑いがもれちゃったけど…仕方がない。
ニヤニヤする口許を隠すように押さえながら、私は自分の席に座った。






§






帰宅後、オレは奴良姉から貰ったチョコを食べた。
お洒落な紙袋の中には、1個1個包装されてあるお酒入りチョコ。

恐る恐る最初の1個目を食べた時、普通に美味かったからコレが"当たり"だと思った。
しかしー

『"当たり"なものは、ちゃんとソレだって分かるようにしてありますから。』

アイツが言っていたような、分かりやすい"当たり"マークはついていなかった。そのため、今のを当たりだと断定するのはまだ早い気がする。
…そう思って次のも食べてみたんだが、


「……おかしいな…やっぱコレも美味しい…。
アイツ1個だけ"当たり"って言ってたけど…どれも美味くね?」


気が付けば残り2個。
今までのはどれも美味しく、ハズレだとは全く思えない。


「…あ、もしかして、1/7個がハズレなんじゃね? アイツが間違えたか…それか、オレをビビらせるためにわざと逆を言ったか、だな。」


ということは、だ。
目の前にある2つのうち、どちらかが恐らくマズイやつなのだろう。


「…つーか、アイツにとって不味いのが"当たり"なだけじゃね?」


何気に悪戯っ子な奴良のことだ。
きっとそうに違いない、ようやく分かったぞ。
スッキリしたけど、内心ドキドキ。オレにとってのハズレが当たる確率は半分、五分五分だ。
…一応水の入ったコップも隣に用意してある。
勇気を出すんだ、オレ!!

勇気を振り絞り、残された2つのうち1個のチョコを手に取った。そして、その包装紙をペリペリと捲ると…


「……紙?」


出てきたのはチョコではなく、紙。
折られたそれを開いてみれば、そこには彼女らしい一文が。



"お返し楽しみにしてますにゃー(=・x・=)"



「ぶふっ! ちゃんと催促を忘れないとは…抜け目のねぇやつだなぁ。」


くつくつと喉を鳴らしながら、それを何度も読み返す。そして、その催促状を冷蔵庫に貼った時…ソレは偶然にもオレの目に入った。

小さく、薄い文字で書かれたソレ。


「…ハハッ 確かに、コレが"当たり"だったな。」


最後のチョコを口に入れ…
口の中に広がった、ほろ苦いけど美味いお酒の味。
例年通り本命チョコはなかったけれど、
教師を始めて…今年は過去最高のバレンタインデーだと思った。



("お返し楽しみにしてますにゃー(=・x・=)


先生、いつもありがとう。")




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