この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ サンタを捕まえろ!(鯉伴side)

24日午前1時。
今宵は、鯉サンタの出番だ!


「あなた、2人とも寝たわよ。」

「そうかい…じゃあ、クリスマスツリーのところにプレゼントを置きに行くとするかねぇ。」

「ふふっ、捕まらないように頑張ってね!」

「安心しろ。小さな狩人達に捕まるほど、オレァまだ衰えてねぇよ。」


赤い服、赤い帽子を被り、プレゼントが2つ入った白い袋を肩にかけて…いざ、出陣!!
例年やってるこのクリスマスのイベントだが、今年は特に気合いを入れている。
何故なら…


「よっ、…!?
危ねっ…こんな所にまきびし巻いてやがる。」


クリスマスツリーが飾られてある部屋には、いくつかの部屋を越えなければならない。それはサンタが通る道で、その道にはたくさんの罠が仕掛けられている。勿論、仕掛け人は4歳児リクオと6歳児鯉菜だ。
きっかけは些細な事だった。
例年通りさり気なく何が欲しいかを聞くオレ達に、鯉菜は漫画と即答、リクオはおもちゃと答えた。だが、今年はそれだけでは終わらず。


「そういえば、サンタさんも妖怪なの?」

『………確かに、一夜で世界中の子供にプレゼントを贈るなんて人間業じゃないものねぇ。何人かいるとしても、知らない家に無断でコッソリ入るなんて…無理よね。…お爺ちゃんみたいな妖怪じゃない限り。』

「もしかして…サンタさんもぬらりひょんなのかな!? ぼく捕まえてみるよ!!」


ふとしたリクオの疑問から出た鯉菜の発言が、リクオの何かに火をつけた。この時は特にそこまで気にしてなかったため…今日の昼間、せっせとサンタ捕獲作戦を立ててる2人にマジかよと事の重大さに気がついた。しかしもう手遅れなのだ。


「いくぜ……オレを普通のサンタなんかと同じにしてもらっちゃ困る!!」


散らばってあるまきびしを1個1個回収。
まったく、片付けるの誰だと思ってんだよ、オレだよ。スゲェ量なんだけど。
我が妖の血よ、滾れ!!
なんて1人無理矢理テンションをあげ、全力で回収するのにかかった時間は約3分。うぇーい。


「っし、それじゃ次行ぐぅおっ!??」


次の関門の戸を開こうと歩を進めたところ、何かが足に引っかかる。転ぶ前に慌てて体勢を整え、ギリセーフと思いきや、頭から何かが降ってきた。


バシャッ!!

「冷てぇっ!?? え、何コレ、水……
……え、何か、臭くね…? 嘘? オレ臭くね?」


ツーンとする臭い、だが、知ってる臭い。
もしやと思ってペロッと舐めてみれば…


「お酢かよ!! うっそ、クッソ臭ぇ!!」


ベトベトだし臭いし寒いし…
……あれ、今思ったんだが…良い子にプレゼントってあげるんだよな。こいつらプレゼント貰う資格なくね!?
いや…しかし、あいつらはサンタの正体を知らないんだ。ここは何とか試練を乗り越えて、プレゼントを置いてくるしかねぇ。
そんなこんなで、オレの戦いは再スタート。
丸太が飛んできたり、大量のビー玉がゴロゴロと転がってきたり、糸が張り巡らられて通り辛かったり、畳の底が抜ける落とし穴があったり、爆竹が暴発したり……



「や……やあぁっっっと着いたぜぇぇええ!!!」



赤いサンタ服は既にボロボロ。ゼェゼェと息があがりながらも、プレゼントを袋から出してツリーの下に置く。容赦の無い罠に疲れたものの、2人が喜んでくれる姿を思い浮かべれば、その疲れも吹き飛びそうだ。


「ははっ……取り敢えず今は、ひと休憩、だな。」


ドサッと座り、床にあるプレゼントからツリーのてっぺんにある星を見上げる。サンタの帽子を取り、煙管を口に加えて一服。


「……メリークリスマス、良い夢見ろよ。」







おまけ

翌日

『「プレゼントだー!!」』

「やったー!!」

『…にしても、流石はサンタ。これくらいの罠じゃ動じないか。』

「お姉ちゃん、来年はもっと凄い罠を作ろう!!」

「待て待て待て! サンタ死ぬ!! それサンタを殺しにかかってるから止めた方が良いと思うなっ、お父さんは!!」

「えぇ〜……」

『……クスッ…
それにしてもお父さん、酢の臭いがするね。』

「(ギクッ)あ、あぁ、若菜を手伝ってたらお酢を朝溢しちまってな…」




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