この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 小悪魔姉弟(猩影side)

オレには歳の近い友達が3人いる。
鯉菜、リクオ、そして鴆だ。本当は皆…任侠における「兄弟」なのだが、まだまだオレ達は幼いから「友達」と言っても問題はないだろう。今日は、そんな3人のことを軽く紹介していきたいと思う。

まずはー


「猩影? お前何してんだ、こんな所で。」

「鴆か」


タイミングが良いのか悪いのか分からないが、ちょうど今現れた鴆から紹介するとしよう。


「オレは親父に連れられてここに来たから…ついでに2人に顔出そうと思ったんだ。あんたはどうなんだ?」

「オレも親父に連れられて来た。定期的に2代目の容態を看に来てるんだが、今日がその日でな。親父の手伝いとして来たんだ。もう終わったけどな。」


鴆の一族は、医者として重要な一族だ。
だが…自身の毒羽根が身体に負担をかけ、その寿命は短く儚い。コイツの親父ももう永くはないようで、最近の鴆は少し忙しそうだ。親父さんを心配しているのと同時に、親父さんから薬学全般について引き継がなければならないからだろう。まだオレよりも幼いのに…一生懸命勉学に励んでいるコイツの後ろ姿はもう立派な鴆一派の主と言えよう。


「それで、どうなんだ。2代目は。」

「変わりない…な。日常生活に支障はないが、やっぱ昔のように戦うのは厳しいな。反応はできても腕がついてこれねぇし…力も弱い。」

「そうか…。
鯉菜とリクオはそのこと…」

「…鯉菜には話した。本当は2代目に口止めされてたんだが…鯉菜にはそれもお見通しらしい。2代目の容態を吐かないと羽根を毟るぞって脅された。」

「……そりゃあ仕方ないな。脅されたんじゃ…」

「あぁ…」

「………」

「………」

「………で、その2人はどこにいるんだ?」

「あ? あいつらならさっきそこに…」

「アハハハハハ!!!」

「「!!」」


ドタバタという足音と共に聞こえてきたのは悪魔の笑い声。そして曲がり角から現れたのは、首無の頭を抱えた満面の笑みを浮かべたリクオ。ちなみに抱えられている首無さんは白目むいて泡を吹いている。実に可哀想だ。


「あ、鴆と猩影だ!! 見て、首無ゲットしたよ!」

「おいリクオ…」

「そ、それ、大丈夫なのか…?」

「え? 何が〜?」


バムバムと床にドリブルをするリクオは「鬼の子」や「天使の仮面を被った悪魔」と裏では呼ばれている。アハハと笑うその顔は無邪気そのもので、やってることは鬼レベルなのに何故だか恨めない。それはきっと質の悪いこの純粋さ100%の笑顔のせいだろう…恐るべき兄弟だ。
仮にこれを狙ってやってるとしたら、リクオは「鬼の子」どころか「鬼」そのものだろう。


「…リクオ、医者として言わせて貰うが、そろそろやめた方が良いと思うぜ」

「えー? どうして? いつももっとやってるよ?」

「いつも!? もっと!!??」


鴆の助言に対して、不満気な顔で告げられた真実。
首無さん…アンタ大変だな。
しかし、同情の目を向ける相手は最早意識が飛んでいる。しかもリクオはまだ止める気はないようだ。これ…どうやったら止められるんだ?
鬼よりもガチな「鬼」であるリクオを…一体誰が止められると言うのか。アイコンタクトを取って悩むそんなオレ達のもとに、救世主が現れた。


『こら〜、リクオ〜、そろそろ止めてあげなさ〜い』


これが最後に紹介する、鯉菜。
リクオの姉にして、まだ子供とは思えぬ程のずる賢さを持つ…通称「影の支配者」「腹黒大魔王」「堕天使」の奴良鯉菜。ちなみに本人達はこんな名称がつけられていることを知らない。


『首無だって家事で疲れてるんだから…そんなにドリブルしたら可哀想でしょう。』

「えー…」

「「………」」


オレ達は知っている。
そうやって優しい発言をする彼女には、何か裏があることを。オレ達は知っているのだ。


『ほら、他のことをして遊ぼう?
取りあえず首無は疲れてるだろうから…暗くてよく眠れそうなところで寝かしてあげよう?』

「はーい……」

「「(えげつねぇ…!!)」」


ドンっとリクオの前に差し出したのは、樽に入った糠漬け。臭い。美味しいけど、臭い。そしてあろうことか…鯉菜は天使のような笑みを浮かべてリクオに促した。
え、何を促したって?
そんなのー


『ここなら涼しくて暗くて柔らかくて静かで…きっと気持ち良く寝られるから。これで首無も疲れが取れるだろうし、良いことしたね、リクオ♪』

「!!
うん…! 首無、喜んでくれるかなぁ?」

『きっと喜んでくれるよ。』


首無の頭を糠漬けの樽に入れるリクオ。そして、とどめとばかりに紐で封を固く閉ざす鯉菜。
コイツの質の悪いのはアレだ…
純粋なリクオを騙して、<良いこと>をしてるふりをして悪戯するところだ。ポイントは、ソレをリクオにさせていること。


「リクオにさせてるってところが狡いよなぁ…」

「ッスね…鯉菜がやったら悪戯だって諸バレだけど、(鯉菜に騙されて)リクオが善意でやってるからな…誰もリクオを叱ることができないんスよね。」

「あぁ…しかも鯉菜はあくまで手を出してないからな。更に言えば『いじめられている首無を助けよう』っていう善意を盾に悪戯をしてるから、鯉菜を頭ごなしに叱ることもできねぇんだよなぁ…本当、よく計算されてるぜ。」


リクオを上手く使いこなしてるし、自分の手を汚さずに悪戯してるし…
まだ小さいのにここまで悪巧みができるってのが恐ろしい。大きくなったらどうなるんだ? 世界滅びるんじゃねぇのか?


『…猩影、なんか失礼なこと考えてない?
もっと大きい樽あるけど?』

「え、えっ!? い、要らないッス!!
何も考えてないですスミマセン!!」

「アハハ! 猩影謝ってる〜!」

「(哀れ猩影…)」


何処から出したのか分からない大きな樽を足蹴にし、紐を両手にビシッと構える鯉菜は大魔女王のようだ。


「お姉ちゃん、次は誰で遊ぶ?」

「誰"で"…か」

『そうねぇ…誰がいい? リクオ』

「こうやってターゲットが選ばれてくんスね…」

「次はねぇ…牛鬼!!」

『それはねぇだろ…マジかよ…嘘だろ…』

「おい、素が出てんぞ鯉菜…」

「でも、流石に牛鬼様は無理ッスよ…」


キラキラとした目で「牛鬼がいい」と意気揚々に言うリクオ。そして、その目に弱いのがこの鯉菜だ。唯一の弱点といっても過言ではないかもしれない。
この後、「牛鬼がいい」と1歩も譲らないリクオに負けた鯉菜が…



『ごめんね、牛鬼様…』

「…? 何故鯉菜様が謝って…」

『リクオが、牛鬼に悪戯したいって。』

「……は?」

『だから、悪戯…します。ごめんね?』

「いや、鯉菜、それは……」

『ごめんね? 気を付けてね? ごめんね?』

「いや、だから…謝れば悪戯していいというわけでは…あの…(…行ってしまった…)」



申し訳なさそうに牛鬼に謝罪という名の宣戦布告をし、その後…



「…牛鬼? どうした、ビショ濡れじゃねぇか。」

「2代目…。リクオ様と鯉菜様の悪戯です。」

「ブハッ あいつらが?
まさかお前さんを選ぶとはなぁ…クククッ」

「笑い事じゃありま…」

『牛鬼様!』

「やったぁ〜牛鬼ゲットー!!
風邪引いたらいけないから、タオルあげるー!!」

「…リクオ様、ありがとうございます…(こんなにも嬉しそうな顔をされては怒れないな)」

『…牛鬼様、ごめんね?
お詫びに飴あげる…コレで悪戯は最後ですから、安心してください。』

「…フッ…あぁ、そうしていただけると助かる。」

「…牛鬼、お前…」

「? 2代目?」


リクオから受け取ったタオルで拭いた牛鬼様の顔が真っ白になり、「『白インクタオル大成功☆』」と奴良姉弟がハイタッチしたのが2回目。それからしばらくして、鯉菜から貰った飴を舐めて牛鬼が痺れたのが3回目。

その日だけで、あの牛鬼様に計3回の悪戯を成功させた奴良姉弟は…


「猩影、」

「鴆? どうした?」

「新しい名だとよ…
「悪魔の双子」「デビルトラッパーズ」「地獄の門番」」

「…遂に2人1組にされましたね。」


裏でそのように呼ばれてるとは露知らず、新たな通り名をゲットしていた。




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