この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 寝相(鯉伴side)

ただいまの時刻、深夜1時。
場所は奴良組本家、奴良鯉伴、オレの部屋。




「……あぁ〜…クッソ、また書き間違えちまったぜ。最初から書き直しだな。面倒くせぇ…」


クシャクシャ、と丸めた紙は大事な大事な報告書…の失敗作。筆で書いているため、誤字脱字したら最初からやり直し。それ程重要な書類なのだ。
オレとしては誤字脱字くらい良いじゃねぇかって思うんだが…それを許してくれないくそ真面目な奴等が奴良組には何人もいる。


「ったく……はぁー…」

「んー…」

『グハッ!!』

「……またか。」


隣の寝室部屋から聞こえてきた声。
それは見るまでもなく、愛する息子と娘の声だと分かる。リクオが成長してからはほぼ毎晩聞こえてくる…最早定番になりつつあるやり取りだ。
若菜や息子達を起こさないように静かに寝室の戸を開ければ、やはりそこには予想通りの光景があった。


『う〜ん……う〜ん……』

「スヤァ」

「ククッ……綺麗にこれまた決まってんなぁ。」


リクオの踵が鯉菜のみぞうちにジャストフィット。踵落としした当の本人は気持ち良さそうに寝ており、一方のそれをくらった被害者は魘されている。


「よっ…と、」

『……ん…』


リクオの足を除けると、顰めっ面をしていた鯉菜の顔が少し穏やかになった。コイツも毎晩毎晩リクオの寝相で苦労してるよなぁと思いつつ、リクオの足を布団に押し込む。布団をかけ直して顔を見れば、天使のような可愛い寝顔をしていて、そこからは悪魔のような寝相が全く想像できない。


「……さてと、もうひと頑張りするかねぇ。」


若菜と鯉菜の額に口づけし、最後にリクオにも口づけしようとしたらアンパンチ。リクオ…お前本当に寝てるのか? 本当は起きててオレのキスを避けるためにアンパンチしてるんじゃねぇのか?

ジンジンと痛む鼻を押さえながら寝室を後にし、再び机の上にある報告書と向き合う。筆を手にして、オレはサラサラと紙に筆を走らせた。


「(この報告書を書けば終わりなんだ、頑張ろう!)」


チラッと視線を横にずらせば、大量の紙が机の上にタワーを作っている。今日の昼…つってももう昨日か。昨日の昼からやり続けてるこの書類仕事。今日の朝までにやり終えるように、と鴉天狗に激怒されて嫌々やっているオレは可哀想かつ偉い。


「……まっ、書類を貯め込んでサボってたのはオレなんだけどな!」

「おねーちゃん……あぶ、ない……
……さい…しょは……グー!!!!」

『ぶふっ!!』

「!!
リクオ、それは…!!」

「あい……こ、で……」

「待てリクオぉっ!!」


サッと戸を開いて2人を見れば、鯉菜はリクオに顎をアッパーされた後だった。そしてリクオはチョキの手をしており、いつでも攻撃に入れる態勢だ。
慌ててリクオの手首を取り、勢い良く布団の中にプットイン。鯉菜…安心しろ、リクオの必殺☆ジャンケンはオレが防いでやったぞ!!


『………いた、い…………』

「……あ、起きた………アレ? 寝て………
…アレっ!? こいつ口から血ぃ流してね!?」

『………スー……スー……』

「寝てる……取り敢えず治しておくか。」


アッパーで口の中を切ったのだろう傷を治癒で治し、2人を布団に寝かせて部屋を去る。
……つぅか鯉菜もスゲーな。よく寝続けられるよな。前に、寝相で起こされてもまたすぐに眠りにつくって言っていたが…本当すげぇ。どんだけ眠たいんだよって話だよ。

そして、再び机と向き合うこと1時間半。

ようやく報告書を書き終えた。背筋を伸ばせば、ポキポキと関節やら骨が鳴る。ちなみに言うと、リクオのアッパー後、再び鯉菜がリクオに攻撃された回数は2回。不思議でたまらない…若菜、鯉菜、リクオ、オレの順で布団を並べているが、リクオの被害にあうのはほとんど鯉菜だ。まず若菜は場所的に被害にあうことはない。被害者はオレと鯉菜だが、何故か鯉菜の方が被害数が多い。


「さてと、もう2:30じゃねぇか。
ふぁ〜ぁ……やっと寝られるぜ。」


スッと忍び足で寝室に入り、自身の布団に潜り込む。こりゃあ遅寝遅起きになるなぁなんて思いながら、目を閉じて、意識を底に沈めようとした時。


「アハハハハ!」

『……んぅ〜……』

「首無の頭ゲットー!!」

『…駄目、人の頭をボールにしちゃ……駄目……』

「アハハハハ! シュートー!」

『げぅっ!? ゲホッゴホッ!!』


楽しい夢を見ているのか、寝言を言いながら笑い出すリクオ。そして、リクオの寝言に答える鯉菜の寝言。
……よく言うもんなぁ。寝言に返事しちゃダメだって。こういうことか? 知らねぇけど。


「はいはい。
大人しくて寝ようなぁ、リグオ"ぅっ!?」

「アハハ!」

『……う"ん……寝る……』

「お前じゃねぇけどな、うん。皆寝ような。
……つぅか地味に痛いんだけど。」


これで何度目かも分からないが、再度リクオを布団におさめて自分も布団に入る。スヤスヤと先程までの騒ぎが嘘のように、部屋は寝息のみの音でいっぱいになった。


「(…リクオが暴れずに静かに寝ますように。)」


目を閉じて、くだらない平和を願いながら、今度こそ眠りにつく。きっかけはオレが今まで仕事をサボりためてたことに過ぎないが…オレの長い長い1日はこうして幕を閉じたのであった。






おまけ☆

翌日

「お姉ちゃん、お父さんまだ寝てるよ〜!」
『もうお昼なのにねぇ…起こしに行く?』
「行くー!!」

ダダダダダダ……

「『お父さーん!!!』」

ドスッ!!

「ぐほぅっ!??
……お、おはようお前ら……朝から逝きそうな目覚めだったぜ……」
「えへへー♪」
『どういたしまして♪』
「ほめてねぇ……!」




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