この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 惚れ薬(リクオside)

遠野勢が遊びに来たとある日の夕刻。
事件は起こった…


『イタク………好き。』

「…は?」


突如、頬を赤らめながら告白する姉貴。
さっきまでワイワイとご飯を食べていた皆が、一斉に静まり返る。


『イタクは…素っ気なくて冷たいように見せといて、実は優しいよね…』

「なっ…」

『皆のことをよく見て考えてて…頼もしいわ…』

「………おいっ…?」


身を乗り出し、イタクの目をじーっと見つめながら言う姉貴。一方、イタクは…顔が真っ赤になって戸惑っている、珍しい。


「ちょっ、鯉菜様…!?」


ここで、首無が姉貴の元へ行き、大丈夫ですかと問う。しかし…


『…首無…』

「……っ」

『首無には毛倡妓がいるのにね…分かってるのに、この感情…止められないわ』


首無の頬に手を添えながら囁く姉貴に、首無の顔が徐々に赤く染まる。
いったい何が起こってるんだ…。
部屋にいる者の視線が次々と、姉貴から親父へと移る。…やっぱ皆親父を疑うよな。


「おい、何でオレを見るんだよ…。
まぁオレがやったんだけどな!」


満面の笑みで答える親父に、「やっぱアンタか!!」と皆の心が一つになるのを感じる。


「んで…今度は何をしたんだ?」

「一昨日な、化け猫屋に行ったら変な婆さんに会ってよぉ…惚れ薬ってのを貰ったんだ。」

「惚れ薬…?」

「効果は1日だが、それを飲めば異性にすぐ惚れるらしい。おもしれぇだろ?」


ニイッと笑う親父に冷や汗が出る。もしその婆さんが悪いヤツで、危険な薬だったらどーすんだよ。


「ちなみに、ちゃんと安全な薬かどうかは検証済みだから大丈夫だ。」


…誰だ!?姉貴の前に、親父の犠牲になった哀れなやつは!!オレの親父がすまねぇ!!
一方、姉貴は首無からターゲットを変え、今は牛鬼を口説いている。
 

『ねぇ…牛鬼?』

「………」

『そんなに強ばらないでよ…あっ』

「……………鯉菜様…」


牛鬼のひざに座っていた姉貴が、急に妖の姿へと変わる。偶然変わったのか、意図的に変えたのかは分からない。


『牛鬼は大人だからね…昼よりも夜の姿の方がお好みかしら?』


意図的だな。


『…牛鬼との子供ができたらさぞ頭の良い子供ができるのでしょうねぇ?』

「ブフッー!」

『あら、大丈夫? 純粋なのねぇ』


クスクスと笑いながら、牛鬼の口元を拭う姉貴は、いつもにはない色気をまとっている。


「おぅ牛鬼…随分と鯉菜に懐かれとるようじゃのぅ〜」


そこでニヤニヤしたじじいが牛鬼の元へ現れる。


「総大将…」

『おじいちゃん…』


まさか…じじいにも惚れるのか? 皆が見守る中、姉貴は…


『今、牛鬼を口説いてる途中だから邪魔しないでくれる?』
 
「なぬーっ!??」


じじいをキッパリとふる。どうやら老人には興味がないようだ。…イケメン限定か、その薬は。
つーかじじいは何悔しがってるんだ。アホだろ。


「ぐぬぬぬぬ…ワシの格好良さに気が付かんとは!
お前の目は節穴か!?」


そう言ったかと思えば、じじいの姿が若い頃の姿へと変わる。


「そ、総大将…!?」

「お体に障りますよ!?」

「なぁーに、少しの間じゃ! 大した事無い!!」


心配する牛鬼や烏天狗を無視し、ハッハッハと笑うじじい。
…確かに孫のオレから見てもカッコイイな。


「どうじゃあ? 鯉菜!
若い頃のワシぁカッコイイじゃろ!?」

『わっ…』
 

牛鬼の膝に座る姉貴の腕を掴み、ぐいっと引き寄せるじじい。


『ちょっと、何すんのよ!』


バランスを崩してじじいの方へ倒れる姉貴。もちろんじじいに支えられて倒れることはないが、姉貴はじじいを責め立てる。だが、
 

『……ぬらり、ひょん?』


じじいの若返った姿に固まる姉貴。
…あれ? 顔赤くねぇか?


「何じゃい? 顔が赤ぇぞ?」

『…ぁ』


顔を背ける姉貴の顎に手を添え、グイッと上に向かせるじじい。


『……ッ』

「おぃ、さっきまで口説いてた威勢はどぉした?」


ニヤッと悪どい笑みを浮かべながら囁くじじいに、姉貴の顔は益々赤くなる。


『…は……』

「ん?」 

『………は、恥ずかしい……っです……』 

「………!」


目に涙を溜めながらもなんとか声を絞り出す姉貴…これは…殺傷力が半端ねぇ!! 現にじじいも少し顔を赤らめる。…何だこれ。段々と甘ったるい空気になっていくが、それを許さないヤツが一人いる。


「おい、クソ親父。てめぇ…何孫にムラっとしてんだよ。鯉菜から離れろ。」

「なんじゃい…オメーが惚れ薬を飲ませたんじゃろ?」


確かに…!  


「…それとこれは別だ。」


どんだけ我儘なんだよ、親父…!!


「鯉菜、こっち来い。」

『え?』

「鯉菜、ワシの元におれ。」

『え? え?』


左右から姉貴の腰を引き寄せようとする2人の間で、姉貴は引っ張り合いされて困惑する。


「鯉菜! オレと親父…」 

「どっちがいいんじゃ!?」

『…えっ…? えーっと…』


悩む姉貴に、2人はどっちかを選ぶように迫る。


『…私は………』


固唾を呑んで、答えを待つ2人。部屋にいる者もワクワクと姉貴を見守る。


『……皆のものだから……!』


頬を赤く染めながらニッコリと照れ笑いする姉貴に、部屋が静まり返る。
  

「……皆の…」

「……もの……?」


それってつまり…そういう事、だよな。


「………分かってると思うがてめぇら…」

「鯉菜に手ぇ出したら、タダじゃ済まねぇぞ?」


ユラっと立ち、皆を牽制する親父とじじい。
この後、2人から離れて鴆、猩影、黒…と次々に口説く姉貴だったが…口説かれる側は、姉貴へのドキドキと親父・じじいの睨みに別の意味でまたドキドキするのであった。



(『リクオ♪』)
(「姉貴…何人口説いてきたんだ?」)
(『さぁ?…もしかしてやきもち?』)
(「…別に。」)
(『クスッ…最後はリクオにしようと思って取っておいたのよ?』)
(「……っ…親父、もう姉貴に惚れ薬飲ませるな」)
(「あぁ…変な虫がついても困るからな。年1にしよう…!」)
(「おい…!!」)




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