この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 君のアドレスは

「おい、連絡先教えろ。」


羽衣狐を倒し、皆で花開院家にてやんややんやしていた時のこと。1人になりたくて…コッソリ庭でぼんやりしていたら、声をかけられた。1番思い当たるのは、お父さんと坂本先生。でも彼らじゃないことは声で直ぐに分かったし、かと言ってリクオの声でもない。


『…何アンタ、私のこと好きなの?』

「冗談は寝てから言え。
祢々切丸、秋房に頼んだだろうが。戦において1番鍵となるものは情報だ…気に食わんが、お前らしか知らない事もあるだろうからな。秋房が祢々切丸を鍛え直す代わりに、お前ぇらはオレ達に全ての情報を与えろ。
それが交換条件だ。」

『……あぁー……』


ジャリと砂の音を立てながら現れたのは竜二で、片手に携帯を持っている。
嫌だわぁ…もう、素直じゃないんだからっ!!


『素直に「お前とメル友になりたい☆」って言えよ、ドS詐欺陰陽師。』

「あ"?」

『情報についてはどうかご安心を。リクオとゆらちゃんが、お互いに情報交換しよう、ってタッグ組んでたから。その時にね、携帯を持っていないリクオの代わりに、私がゆらちゃんとメルアド交換しましたから。
まぁ…それでも?
私とお近づきになりたいのならば?
メルアド教えてさしあげても宜しくてよ?』

「……言言」

『え"っ、ちょ、んなっ……にすんねん!!』

「似非関西弁使うな、たわけ。」


バシャッと襲い掛かる水飛沫を避けながら、似ても似つかぬ関西弁でツッコんだ。すると、返ってきたのは人を馬鹿にした台詞と…


『ちょ、それ防水機能クソだから!!
水に弱いであろう携帯だから!!』

「何で推定なんだよ、自分の携帯だろうが。
あと言言は水だが普通の水とは違う。式として使ってんだから心配無用だ。
まぁ…それ以上ふざけたこと言うならコイツの命はねぇがな。」


いつの間に言言で盗ったのやら…
人の携帯を勝手に開き、カチカチと何やらボタンを押す竜二。まぁ、真面目な顔をしてるから悪いことはしていないだろうけど…心配だ。人の携帯を弄くられて「心配するな」って言う方が無理ある。
…そうだ!


「…おい、これでもういい……
てめぇ…なに人の携帯盗ってんだ!」

『え? そっちが先に盗ったんじゃん。
それに、私は親切にも自分のアドレスと番号を君の携帯に登録してるだけだよ〜多分ね!』

「多分かよ! さっさと返せ!」

『ハイハイ、ほらよっと。』


ポイッと竜二に携帯を返せば、竜二も私の携帯を投げ返してくれた。カチカチッとボタンを確認して電話帳を確認すれば、そこには「オレ」なんて名前で連絡先が登録されている。「オレ」って誰だよ、オレオレ詐欺してんじゃねーぞ詐欺陰陽師が。


「…ぉぃ……何だコレは……」

『あっ、それー?
リクオとゆらちゃんと竜二の仲をもっと深めたいと思って☆』


竜二が見せてきた携帯画面には、メール送信済みの内容が映し出されている。そして最新の送信相手はゆらちゃん。内容は…


『「ゆらへ
ゆら、心して聞け。お前に相談するのも何だが…お前以外には考えられなかった、スマン。
…オレはどうやら…奴良リクオに恋してしまったらしい…。ゆら、オレはどうすればいいと思う。」
……これで君らの仲が親密になり、より一層一致団結して鵺を倒せることを祈るよ。アーメン。』

「…そうか、分かった。
お前ぇは相当死にてぇようだな。」


だいたいこんなメール送ったら3人の関係がギクシャクしてしまうだろうが!
そう言いながら言言で襲ってくる竜二の顔は相変わらず不機嫌モード。お怒りモードではなさそうだけど…つーかあの人のご機嫌モードな顔って見たことないかも。見ても悪そうな顔してるから気付かない気がする。


『よっ ほっ とっ』

「チッ…ぬらりくらりと躱しやがって。」

『ぬらりひょんの孫なんだから当たり前じゃん。竜二って意外と馬鹿?』

「餓狼」

『うわっ 何怒ってんの!?』


ドカンっと音を立てたかと思いきや、ガラガラと崩れ落ちる建物。その大きな音に徐々に人足が集まってきて…花開院家が竜二を、妖怪が私を止める。
ゆらちゃんは特に大混乱してた。
何でお兄ちゃんと奴良君のお姉さんが…なんてブツブツ呟き始めたかと思いきや、ハッとした顔で四角関係や!!なんて勝手に1人閃いていた。面白い子だなぁ。あんなメールを真に受けるとは…何てピュアなんだろう、可愛い妹がいる竜二が羨ましいぜ!


「竜二、やめないか! 鯉菜さんは僕達の恩人でもあるんだぞ!」

「せや! 先輩がおらへんかったら、今頃おじいちゃんは死んどったんやで!!」

『死ぬのは確定なんか。』


キリッとして言ってるけど、ゆらちゃん、おじいちゃんそこで地味にショック受けてるよ。可哀想だからやめてあげて!
あと、先輩を苛めたら奴良君に嫌われるでって言ってるけど…あのメール送ったの私だから! 竜二からは「意味分かんねぇ何言ってんだコイツ」って目を向けられてるぞ!!
そんなこんなでワイワイしていると、パチッと秋房さんと目が合った。


『そういえばさ、アッキー。』

「…アッキーて、まさか…僕?」

『そ。アッキーも連絡先交換しよう。さっき聞くの忘れちゃってたし。』

「!! そうだね…安倍晴明を倒すためにも、連絡を取り合おう。祢々切丸、絶対に完成させてみせるから。」

『ありがとう…
キツいかもしれないけど頑張って。きっと、君の頑張りはリクオの強さに比例する。姉が言うのもなんだけど…リクオは必ず君達の想いに応えるから。』

「……うん…必ず、成し遂げてみせる!」


連絡先を交換し終われば、差し出された手。
ぇ…私じゃなくてリクオの方がいいんじゃない?
そう思ったけれど、リクオがいないし、代わりに私がやろう。こうゆうの、やってみたかったしね。青春、的な。


「一緒に頑張ろう!」

『……うん、よろしくね。』


ギュッと互いの手を握りしめれば、その下をくぐり抜けるようにして秀元が現れる。何でこの人出してんの、ゆらちゃん。煩いから引っ込めて良いのに。


「えぇなぁ、青春☆ 僕も生きてたら皆と一緒に滅ッして遊んでたのになぁ!」

『滅して遊ぶの? 恐ろしいわぁ…』

「せや、鯉菜ちゃんに僕からもメール送っといたで!」

『はぁ? 秀元さん携帯持ってな……
……うっわ!! え、うっっっわ!!!
マジで着た!! キショっ!!』

「キショって酷な〜い? 僕からしたらこんなん朝飯前やし。」


ケラケラ笑いながら送られてきたメール…
その内容は、僕のことも秀ちゃんって呼んでいいんやで☆というくだらないものだったので、即消去。
その後……
いつの間にか秀元さんと仲良くなっていたらしい巻と鳥居が、「秀元からメール着た」と悲鳴をあげていた。言うまでもないが、キャー♪じゃなくてギャーッの方の悲鳴。そら死人からメール着たら怖いわな。

こんな感じでー、
色々とあった京都での戦いは幕を閉じた。
最初は緊張してたけど、最後には花開院家と仲良くなれたし、お父さんと乙女さんの件も片付いたし…来た甲斐があった。
電話帳のか行に加わった新たな4名…
花開院秋房、秀元、ゆら、竜二。
妖怪の血を持つ私の連絡先に、人間…それも妖怪を退治する陰陽師が加えられたのだ。皮肉というかシュールというか…まるで、人間と妖怪、そして妖怪と陰陽師が歩み寄ったような感じがして、頬がついつい緩んでしまう。


「姉貴、何携帯見つめてにやけてんだ?」

『別に〜』


変な目で見てくるリクオの視線を感じるが、それは無視。これで終いと言わんばかりに…携帯はパタンッと音を奏でた。




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