この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 3時々4

私が産まれた時、猩影は大体5歳くらいだった。
彼と初めて対面したのは私がまだ歩けない頃で、彼はキラキラと目を輝かせて私を見ていた。その時私を抱えていたのはお父さんで、猩影の隣には狒々がいた。

「キャハハ、よかったなぁ猩影。お前にも歳の近い友達ができたぞ。」

「だがもう少し待ってくれな。まだコイツぁ歩けねぇ赤ん坊なんだ。」

2人の言葉と、「うん!」と嬉しそうに大きく頷いた猩影の声に…彼が歳の近い遊び相手を欲しがっていたのであろうことがうかがえた。私が歩けるようになったら早く猩影と遊ぼう。そう思う日々が過ぎ、そして遂にそれが叶う日が来たのだが…そこにはもう一つサプライズがあった。


『猩影君と…鴆君だね、よろしく!』

「呼び捨てでいい。」

「オレも、猩影でいいです。」


猩影に加え、鴆も遊びに来たのだ。鴆は私とほとんど変わらない歳だと思うが…何しろ本家に鴆が来たのは初めてなようだから分からない。耳に入ってきた話なためどこまで信憑性があるかは分からないけれども、どうやら鴆の父の容態が余り良くないらしい。ゆえに本家にあまり足を運ばなかったようだが…私と猩影が顔合わせすることを聞いた鴆父が、「それなら我が息子も」と鴆を連れてきたようである。

だが、所詮は男の子と女の子、だ。
私と鴆2人で遊ぶ時は…鴆に薬草類について教えて貰うことが多い。一方、私と猩影で遊ぶ時は…狒々様で遊ぶことが多い。ここ、間違いじゃないから。狒々様「で」遊ぶんだからね。
じゃあ3人の時はどうなるかって?
そんなの…


「見ろよ鯉菜様! カブトムシ採ったぞ!!」

『ちょ、それ持ってコッチ来るな!!』

「…あ、鯉菜、後ろにある蜘蛛の巣についてる葉を採ってくんねぇか? 傷薬に使えるんだ。」

『は? 蜘蛛の…ギャッッ!!!
ななな何で!! 蜘蛛嫌いーーーッッ!!!』


虫取り大好きな猩影と、ついでにとばかりに草花を採取する鴆。そんな彼らが向かう所と言えば森の中で…虫が大嫌いな私としてはマジ勘弁。
だから、リクオが産まれてからは正直助かった。
リクオの遊び相手は猩影と鴆になり、猩影と鴆の遊び相手もまたリクオになったのだ。
寂しいだろうって?
そんなことはない。何故ならリクオのエネルギーは底抜けだからだ。私だけではリクオの相手はできないし、それに私も絡みたくなれば混ぜて貰うから。
それに、リクオにとっても良い刺激になる。


「お姉ちゃん」

『なぁに、リクオ?』 

「鴆くんはね、草とか花について、たくさんスゴいこと知ってるんだ!」

『うん、凄いよねぇあの知識は。』

「猩影くんはね、力持ちなんだ。鴆くんが具合悪いとき、鴆くんを軽々ともちあげちゃうんだよ!」

『流石は狒々様の息子だねぇ〜』

「うん! それでね、ぼくは何ができるのかな?」

『…ンっ??』


ほらね…リクオが何か、難しいこと考えてる。
鴆は薬学を、猩影は力持ち。
じゃあリクオは何かって?
そんなの、私が正解を知るはずない。いや…考えたら分かるけど、でも今のリクオはまだ子供だし。子供が満足するような答えなんて知らないよ、こういうこと考えるのは良い機会だとは思うけれど。


『…リクオは2人を楽しませることができる。』

「…楽しませる?」

『…うん。笑う門には福来たる。つまり、幸せは笑う人の元に来るってこと。笑いは健康にも良いしね。リクオは2人を笑顔にできる…それは凄いことよ?』

「…そっか…。…そっかぁー!!
じゃあぼく、2人をもっと笑わせるように頑張るね!! 早速罠をしかけてくる!!」

『はい、いってらっしゃ………ンンっ!?』


いやまぁ……ね? 
こんなこともあるけれど。でもまぁ、うん…。
……あっ……早速悲鳴があがった。
今のは青田坊と黒田坊の声かな……?
2人を思って、お手々の皺と皺を合わせて合掌。
そんなことしていれば、部屋の戸がガラガラと開いた。現れたのは、鴆。


「……鯉菜、あのっ……その、」

『……どした? 汗凄いけど。』

「わ、悪いっ!!」

『きゃああああぁぁぁっっ!!???』


ブブブブと音が部屋中になったかと思いきや、今度はミーンミーンと大音量で鳴り響く私の部屋。
え、何で? 何を考えて蝉を私の部屋に放したの?
しかもこんな大量に!!


「すまねぇ!
これもリクオの命令だからよ!!」

『はぁぁあっ!??』

「ひぃぃぃぃっ 熱いいいい!!!」

『氷麗!??』

「…リクオだな」


私の悲鳴に続いて響いた声は、氷麗の悲鳴。
その後すぐに「猩影〜っ!??」と彼女の怒り声が聞こえた。
リクオ…だよな。猩影じゃないよね。
何故に猩影や鴆に嫌がらせをさせる命令を出した!? それがどう笑いに繋がるの!?

その後も……
アハハッと笑い響くリクオの声と、猩影、鴆の声が屋敷の彼方此方で聞こえた。猩影と鴆は時折哀れな被害者と(リクオのせいで)なっているが、それでもある意味真っ直ぐで迷いないリクオに着いていくのが楽しそうだ。


『(元気だねぇ……子供は。)』

「……おーい鯉菜、お前さっき何叫んで…
うっわ!! なんだこの部屋!! 蝉が……」

『……ミーンミンミンミン!!!(怒)』

「いや、(怒)じゃねーよ。
さっさと片付けろよ、ったく。
……って、何逃げてんだオメーは!!」

『ミンミンミーン!!(片付けよろしく!!)』


ひょこっと現れたお父さんは私の救世主。
蝉の鳴き真似をしながら部屋を飛び出した私に対して、きっとお父さんはツッコみながらも…部屋を綺麗にしてくれるだろう。私が虫が大嫌いなこと知ってるし。


『ミーンミーン……ん?
おやおや……まぁだ悪戯してんねぇ…。』


パタパタと廊下を歩いていると、庭陰に隠れる悪戯3人トリオを発見。今度のターゲットは…あぁ、達磨とひとつ目なようだ。哀れな。2人の近くの足下には落とし穴が…。


『…程々にしなよー!!』


私の声に反応してか、達磨達がこちらを不思議そうに見る。ナンデモナイヨと片言に誤魔化してはみたものの…ニヤニヤと私の口元が笑ってるのはまぁ見逃して欲しい。
元気なことは、良いことだ!!
……まぁ、虫系の悪戯はマジ勘弁だけどね。




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