この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ てっぺん

「最近どーも猩影の様子がおかしくてなぁ〜…どう思う、鯉菜嬢。」


こんにちは、自称皆のアイドル鯉菜ちゃんです!ただいま、狒々様と一緒にクレープを食べています。というのも、先程大人気店のクレープ屋に行ったところ狒々様を発見したのです。マジ吃驚。


『どう思うも何も…私はね、クレープ屋さんにデカすぎて入れなかった狒々様のオロオロとした姿が未だに頭から離れないんだ。衝撃的過ぎて。』

「…昔はなぁ、ワシの後をいつもひょこひょこついて来て可愛かったのになぁ…今は髪の毛を染めたり夜遅くまで家に帰って来なかったり…ギャババ…」

『本当、私がたまたまここに来て良かったね、狒々様。来なかったらお店に入れないわ、せっかく並んでたのにクレープ買えないわで散々だったよ。』

「……どうやら学校で人間と揉めたりしてるようだし、暴力を振るいすぎているようでどうも不安でなぁ…」

『今更だけどさ、狒々様。テンション下がりすぎてさっき「ギャババ」って笑ってたよ、気持ち悪い。いつもの可愛いのがいい。』

「やや、それはいかん。
それとこれも今更だが…鯉菜嬢はもう少し人の話をちゃんと聞いた方が良いと思うぞ。」

『えっ、聞いてるよ〜失礼な!
猩影が最近反抗期って話でしょう?』

「ややっ あれは反抗期なのか!?」


突然、吃驚したような顔をしてこちらを振り向く狒々様。いやいやいや、私の方が吃驚だからね。普通に考えて思春期や反抗期が原因だと考えられるし、てゆうか狒々様口の周り生クリームだらけなんだけど。体デカいのにお口小さいの? 何をどうやったらそんなに汚れるの?


『…もうよく分かんないから見に行こうか。』

「…今からか?」

『今から。』

「……そういえば、鯉菜嬢は今日学校がないのか?」

『うん、自主休講にした。』


最後のひと口を味わって食べ、狒々様と共に向かうは猩影の学校。今くらいの時間帯だと…きっと授業も終わって放課後かな?


「よし、あそこで見守るとしようかのぅ。」

『……ぅわっ!?
…ちょ、狒々様、ここ民家の屋根! 確かに屋根なんか皆そうそう見ないだろうけど…つーか狒々様乗って大丈夫なの? 屋根がミシミシ鳴ってるけど。』

「キャハハ 大丈夫じゃ。
潰れたら他の民家に乗り移ればいい。」

『そういう問題じゃない。』


これは何を言っても無駄な気しかしない。
取りあえず狒々様にあまり動かないように告げ、学校の正門を2人で見守る。そして多くの生徒が出てくる中、一際背が高くてガラの悪い男子生徒が現れた。後ろにはぞろぞろと同じようにガラの悪い生徒が沢山ついてきてるし…何だアイツ。


「鯉菜嬢、どうする。」

『何が?』

「何がって…猩影が出てきたんじゃぞ。何もせぬのか。」

『……ぇえ!?? アレが猩影!?』


そういえば…最後に猩影に会ったのっていつだっけ。確かリクオが幼稚園児くらい…? 小学生にはまだなってなかったよね。リクオと鴆と猩影が仲良く遊んでたのを見て私も時々混ざってたけど…そうか、もう何年も会ってなかったんだ。いつの間にか猩影は高校生になってたのか…まぁ、そうよね。私も今中1だし。


『猩影は今何年生なの?』

「高3じゃ、だから来年の春卒業だな。」

『じゃあ卒業したら組継ぐの?』

「それだがなぁ…アイツ自分が人間だって信じ込んでんだよなぁ。」

『…は?』

「それどころか奴良組も家も普通のヤクザだって思ってるんだ。」

『…はぁ??』

「更に言うと、<てっぺん>取ったら組を継がして貰えると思ってるのか…この不良高校で暴力三昧よ。」

『はぁ〜!? どういう教育してたの!?
いやまぁ…リクオのこともあるし私もそんな強く言えないけれど!!』

「母親が人間でなぁ…もう他界したが、アイツを人間のように育てようって約束してたんじゃ。それでも薄々自分が半妖であることに気付く日がくるだろうと思ってたんだが…キャハハ! 困ったことに全く気付かねーんだよなぁ。どうしよう。」

『知らんがな、もう勝手にしてくれよ。』

「まてまてまて、さっきクレープ奢ってやったじゃろ!? 助けてくれ。」

『私にどうしろと!?』


聞けば、狒々様は猩影に、組を継ぐことや仲間の大切さを知って欲しいそうだ。猩影は、他を従えてトップを取れば組を引き継ぐ資格があると思っているようだが…いかんせん、彼が倒しているのは所詮人間だ。トップを取れてむしろ当たり前。しかも、暴力で周りを抑えてるだけだから、仲間の大切さなんかは知ることができないであろう。


『…面倒くさいから取り敢えず話し合えば?』

「ややっ!」

『先行って猩影捕まえてくるから。』

「やややっ!?」


後ろで狒々様が何やら言っているが、そんなの知ったこっちゃない。民家を降り、スタスタと猩影の元へ行けば、こちらに気付いた集団が凄い睨み付けてきた。猩影も例外ではなく、「あ"ぁ!?」とドスの効いた声でこちらを睨んできたが…


『……久しぶりだね、猩影♪』

「……? 
誰だテ…メ…………え、………鯉菜、…様?」

『当たり! 用があってこの近くに来ててね、久しぶりだから狒々様と猩影の顔が見たくなっちゃって。今から一緒にお茶しない?』


こちらを呆然と見る猩影に対し、後ろに従えていた不良らは何故かオドオドした様子で狼狽えている。
あぁ…そうか。
自分達の恐ろしいボスが、知らない女に「様」付けで呼んでたからか。
…ふっふっふ…ちょいと遊んでやろうかな。


『…ちょっとあんた達、いつまでここにいんのよ。さっきから人のことジロジロ見て鬱陶しい…
…さっさと失せな。』

「「す、すいまっせんっしたあぁぁ!!!」」

「「失礼しやす!!!」」


ギロッと睨み返してやると、慌てて頭を下げて去っていった不良達。「えぇ…」なんて猩影がどん引きしたような気がするけど、うん、私はあくまで虎の威を借りた狐ですから。君の日頃の行いの賜物だよ、うん。

結局、その後狒々様と合流した私達は人通りの少ないお店に入った。各自飲み物やちょっとした食べ物を頼み、それをつまみながら話を進めた。


『…へぇ〜!
ってことは、猩影は狒…お父さんに認めて貰うために、不良高校でてっぺん取ってんだ?』

「そッス。」

「キャハハ、鯉菜嬢に「お父さん」って言われると何だかくすぐったいのぅ〜」

『あ、狒々様、それ鯉伴の前で言わない方がいいですよ。牛鬼のように嫌がらせを受ける羽目になるかもしれないから。』

「…キャハハ…それは非常に嫌だなぁ…」

「(牛鬼様…いったい何をされたんだ…?)」


反抗期からか、最初は気まずそうにしていた猩影も慣れてきたみたいで、次々と話をし始める。それをふんふんと聞き、時々質問したりして雰囲気は良い。だが、狒々様の何気ない一言でそれはいとも簡単に崩れ始める。


「だがなぁ猩影…暴力はいかんよ、暴力は。」

「…あ"?」

「そりゃあなぁ…仲間を助けるためとか、暴力がどうしても必要な時は致し方ない。だが、意味のない暴力はいかん。そんなんじゃ誰もついてこんぞ。」

「…んだよそれ…親父、約束してくれたじゃねーか! オレがてっぺん取ったら組を継がしてくれるって!」

「む…」

『……そうなの? 狒々様』


確かに暴力は良くない。狒々様の云うことは最もだ。でも仮にこれが狒々様と猩影の約束によるものならば、説明不足な狒々様に問題があるような気がする。だって猩影はまだ子供だもん…私も外見上は子供だけれど。


「……そんな話したかのぅ?」

「……あ?」

『(あ、これアカンパターンや。)』


狒々様…「このパフェ旨いのぅ」じゃないから。猩影君の顔見てみ? 悲しそうだし、お怒りだし、震えてるし…って、え? 震えてる?
あっ…猩影や、スプーン…折り曲げてる…。


「ふざけんなよ! オレあん時言ったよなぁ!?
<約束>だって!! あれぁ嘘だったのかよ!!」

「……?」

『(やべぇ狒々様ってば思い当たることがなさ過ぎて無表情になってるわ…)
あ、あのさ猩影! その約束した時っていつ? 狒々様何してたの?』

「あれは…高校の入学式前日の時ッス。」

『…狒々様、何してた?』

「え?」

「わしか?」

『その話をしたのは、何処で、何時頃、狒々様が何してる時?』

「流石にそんな前のことわしは覚えてな…」

「……家で、夜寝る前、親父が爪切ってた時…。」


あぁ…成る程、何となく察した。
狒々様は未だに何も分かってないというか付いて来れてないようだけど、猩影は「まさか…」って顔が絶望的になってる。うん、きっとそのまさかだよ。


『多分さ、狒々様それ聞いてないよ。爪切るのに夢中で。』

「…マジかよ…」

『マジマジ。本家に狒々様が来てた時に1度だけ爪切ってるの見たことあるんだけどさ、凄い集中して切ってるよね、狒々様。』

「そりゃあなぁ。
わしの武器でもあるからなぁ、爪は。」

『…爪切ってる時に話しかけても「あぁ」とか「うん」としか言わなくて、ぬら爺に「狒々が爪切りしてる時にはいくら話しかけても無駄じゃぞ」って言われたの覚えてる。』

「「………………」」


小さくスマンと謝る狒々様に対して、猩影は未だ茫然自失。スイッチが切れたように反応しない。
あーあ…狒々様どーすんの?
残り少なくなったミルクティーをズルズル飲みながら、困り顔する狒々様に問う。
だが、その答えを聞くことはできなかった。



「すみません、ちょっといいですか?」

「先程連絡があって来たのですが…」

『連絡?』

「はい。こちらのお店で中学生らしき女の子が、不良とヤクザみたいな大きな男性2人に事情聴取されている…と。」

「失礼ですが、いくつか職務質問させてください。」

『「「………………」」』



目の前にいる警察官2人に、私は狒々様と顔を合わせた。(ちなみに猩影は未だ故障中。)そして小さく肯く。


『あっ! 食い逃げ!!』

「何っ!?」

「……? 食い逃げなんて何処にも……
って、あれぇ!? 3人が消えたぞ!??」

「本当だ!!
でもしっかり代金は置いてっている!!」


後ろを振り返る警察官2人の隙をつき、狒々様は驚きの速さで私と猩影を脇に抱え連れ去った。体はデカイけど動きが速いなんて…流石と言うか何と言うか。まぁ、表向きまだ妖怪に変化できない私としては大助かりだけれども。

そんなこんなで私達は狒々様の家に帰り、私はお迎えに来た朧車に乗って帰宅した。猩影は最後の最後まで上の空だったけど…でも久しぶりに会えたし、また原作が始まったら嫌でも会えるしいいや!
それまで、猩影がどのようにして暮らすのか見物だなぁと私は車内で一人ニヤニヤしていたのだった。




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