この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 七夕A

『ねぇリクオ、これ見て。』

「何…って、これ…」

『うん…これ絶対青だよね…』

「だね…青しかいないよ。」


ざわざわと辺りが騒がしい中、私とリクオは青色の長方形の紙を見ていた。笹に括り付けられたそれには、黒く乱暴な字で「黒がモテなくなるように」と書かれており、裏をめくれば「今年こそ黒よりモテてやる」と謎の決意表明を発見。


『相変わらず青は黒へ対抗心持ってんね。』

「仲は良いけど…まぁ、良きライバルって感じなんじゃない?」

『にしても何でこんな所にこんな願いを下げてんだろ。』

「家だとその願いが黒本人にバレるから、敢えてここに短冊下げてんでしょ。」


そう。
青のものと思われるこの短冊を見ている私達は、今ショッピングモールのゲーセンの所にいる。買い物ついでにフラッとゲーセンに寄っただけなのだが、そこで発見した七夕の笹。

7月に入ってあちこちで見かける短冊を、まさかゲーセンでも見掛けるとは思わなかった。何となく興味を持ったので、知らない人の願いを適当に見ていたら…発見してしまったのである。青の短冊を。
そして冒頭に戻る。


『何つぅか…もしかして他の皆も本当の願いをあちこちに提げてるのかな。本家だと他の皆に見られちゃうし。』

「それあると思う。何か…気になるね。」

『…気になる。非常に気になる。この上なく気になる…!』

「……探してみる? まだ時間あるし。」


こうして始まったのは、奴良組の隠された短冊を探せ☆という品がないイベント。服が入った買い物袋を手に、取り敢えず色々なお店を見て回る。
服…ゲーム屋…家電…
なかなかそれらしき物がないなぁとキョロキョロ見わたしていると、隣を歩いていたリクオがアッと声を上げた。


「姉ちゃん! 短冊見つけたよ!!」

『文房具…!
なるほど。試し書きもできるから七夕イベントを見逃すわけがないわな!行こう!!』


七夕の短冊を見つけてパンとハイタッチをする姉弟…何てシュールな光景だろう。
でも止められない抑えられない!
もしかしたら奴良組の誰かの秘密が分かるかもしれないのだからっ!!


『あったー?』

「うーん…なかなか見当たらな…あ、あった!
…これは……」 

『嘘っ、見せて見せて!
……これは…完璧に氷麗ですね。女誑しのリクオ君。』

「…お、女誑しって…いつボクが誑かしたって言うのさ!!」


涼しげな淡い水色の短冊に書かれていたのは、凍ってしまいそうなくらい風流ある達筆な字。力強さよりも軽く、けれどどこか鋭さがあるような字は、「家長がいつか雪山に登るように。雪女」と書いていた。一見意味不明な文だが、妖怪である私達は分かる。


『「(氷麗は一体何を企んでるんだ…!??)」』


遭難させるつもりなのか、凍死させるのか。
取り敢えずカナちゃんには私からエールを送ろうかな。幸運を祈る!!

ゲーセンで1つ、文房具店で1つ。
あと、このショッピングモールで笹が飾られてそうな場所と言えば…


「あ、広場行ってみる? イベントとかよくやってるし。」

『それだ。今すぐ行こう。』


テクテクと広場へ向かえば、やはり笹が飾られてあった。小さい子がわらわらと笹に群がり、自身が書いた短冊を必死に高いところへかけようとしている。


『可愛いな〜』

「可愛いね〜」

『……視界に変な物見えるけど、きっと気のせいだよね〜。ハッハッハ!』

「……気のせい気のせい! アハハハハハ」

『だよね〜!
大の男がまさか子供に混ざって短冊なんかかけに行かないよね〜!!』

「そうだよ!
子供を押しのけて自分の短冊をより高いところにかけようとする大人なんていないよ!!」

「…ん?
オメェら何やってんだい? こんな所で。」

『「…………………。」』

「おい、無視すんなよ。」

『「…まじねぇわー。」』

「……何かよく分かんねぇが、その蔑んだ目をオレに向けるな。地味に傷付く。」


残念無念また来年。
あ、アカン…来年もこんなのされたら困る。来年だけは却下。前言撤回。


「オメェらも短冊提げに来たのかい?」

『いや、ただ短冊を見てまわってただけ。』

「別に父さんみたいに、子供を押しのけて自分の短冊を上に飾ろうとなんかしてないから。」

『そうそう、そんな大人気ないこと私達はしないから。』

「鯉菜! リクオぉ!!
父さんが悪かったあああぁぁぁ!!!!」


突如、ズシャッと崩れ落ちながら懺悔をする我が父に、私とリクオは顔を見合わせる。
あぁ…リクオの口、引き攣ってるよ。そう言う自分の口も引き攣ってるんだろうけれど。

もちろん、そんなことをしてる父に周りの視線が集まらないわけがなく…



「みてみてー変な人がいるー!」

「本当だー! 泣いてるー!」

「あれー? この人、さっき一番高いところに、願い事をさげてた人だー!」

「本当だー、もうお願いが叶ったのかなぁ?」

「叶わなかったから、泣いてるんだよー。」

「かわいそー」

「アハハ、変なのー!」



子供は時に残酷である。
orz状態の我らが父を、ツンツンと突っついたり、髪を引っ張ったり、背中に乗ったり…と、とにかく遊び放題にしている。


「……姉ちゃん」

『うん…帰ろうか。』

「帰ろう。何か父さんが憐れに思えてきたよ。」

『同じく。さっさとコレを回収してもう家に帰ろうか。』


その後、
コレすなわち鯉伴を回収して、大人しく家への帰路についた私とリクオ。いや、大人しくとは言えないかもしれない。道中、駅の構内やスーパーでまたもや短冊を見かけた時にはちゃぁんとチェックしたし。何人かの短冊を見つけたし。


「それにしても、家では皆適当な願いを書いてるくせに…外の短冊では本音を書くんだね。」

『…きっと見られるの分かってるから、本音を書くのが憚れるんだろうね。』

「ははっ、皆意外と恥ずかしがり屋だよな。」

『お父さんはもうちょっと恥じらいというものを持つべきだと思うけどね。』

「何言ってんだい。オレァお前達のためなら恥だって捨ててやらぁ。」

「父さん、違うから。僕達のために恥じらいを身につけてって言ってんの。」


そんなこんなで、3人で盛り上がる七夕トーク。
家に着けば、既に皆は短冊を書くのに盛り上がっており…大きな笹には次々とカラフルな紙で埋め尽くされていた。
皆元気だなぁなんて見守っていると、私達に気付いた首無が何枚かの短冊を持ってくる。


「若、お嬢、おかえりなさいませ!
…あれ、2代目もご一緒だったんですね。」

「おぅ、途中でこいつらと偶然会ってな。そんまま一緒に帰ってきた。」

「そうですか、それは良かったですね。
…そうだ。早速ですが、3人とも短冊に願い事を書いてください。例年通り、また飾りますので。」


1枚ずつ紙を受け取った私達は、互いの顔を見合わせた。そしてお互いにニヤッと口角を上げる。


「おいオメェら。ちゃんと願い事は正直に書けよ?」

「分かってるよ。僕は正直者だし、言われなくても本当の願いを書くさ。
むしろ父さんと姉ちゃんこそ、嘘書かないようにね。」

『はぁ? 私がいつ嘘の願い書いたって言うのよ。毎年私は本当の願いを書いてるっての。』

「本当かよ。お前さんは勿論だが、リクオも怪しいな。本当は適当に考えた願いを書いてるんじゃねぇのかぃ?」


あくどい笑みを浮かべながら、お互いに槍を入れ合う親子。しかし、口は動かしながらも、夢を書く筆も止まることを知らない。

だがしらばくして…
私とリクオ、お父さんはお互い短冊を書き終えたのを確認しー


『「「いっせーのー……せっ!!!」」』


バッと己が書いた短冊を前に突き出す。
私の短冊には、食べても太らない身体になりますように。
リクオの短冊には、お爺ちゃんが無銭飲食をやめますように。
お父さんの短冊には、リクオと鯉菜がもっと構ってくれますように。

「本当の願いじゃないだろコレ」「何適当に書いてんだよ」なんてお互いに悪態をつけながらも、結局私達はその短冊を笹にかけた。

その夜、

細く小さい紙を手に、外へと忍び出て行く頭の長い者がたびたび…いたとか、いなかったとか。




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