この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ


▽ 父の日の贈り物

6月の第三日曜日。


『ねぇリクオ』

「んー?」

『今日の父の日、何あげるー?』

「んー、何でもいいでしょ。」


毎年毎年何でもいいって…
自分の意志をしっかり持たんかいっ!
そう意味を込めてリクオの頭をポカンと殴る私の脳は、父の日にお父さんに何をあげるかでパンク寸前である。


『去年は手拭い。一昨年はお酒。その前は…なんだっけ、お猪口あげたんだっけ?』

「そうだねー」

『今年は何をあげようかなぁ〜』

「んー、姉ちゃんでいいんじゃない?」

『いやいや、一緒に考えてよ。私だけの案じゃ…』

「うん、だから、贈り物は姉ちゃんでいいんじゃない?」

『………』


ゴツン!


「いてっ! 何するのさ姉ちゃん!」

『お前こそ一体何を言ってるんだ。狩り取るぞ。』

「何をっ!?」

『ナニを。』


リクオの石頭を殴った私の拳は真っ赤っか。
ズキズキとする手を擦りながらも、私はリクオを睨みつける。


『何で私が<プレゼントはわ・た・し♪>をやらなくちゃならないのよ。そんなの自殺行為だぞ。あまりの羞恥に死ねるわ!お前は愛しの姉を殺したいのか!』

「そんな大袈裟な。」

『それに、私よりむしろリクオをプレゼントしたほうがいいと思う!
リクオ×鯉伴…いや、鯉伴×リクオかっ!?
…想像したら気持ち悪っ!!』

「だろうねっ!!そりゃあ気持ち悪いに決まっ…」

『私は…鯉伴の相手は首無と黒、青が良いと思うっ!!そしてリクオの相手は鴆としょうえぶふっ!!?』

「人で勝手に卑猥な妄想しないでくれる!?」


ばふっと私の顔面に投げられた少し固めの枕。
…地味に痛い。痛む鼻を押さえながらも父の日のプレゼントを悩んでいれば、私達の会話を聞いていたらしい毛倡妓がニコニコとしてやって来た。
あぁ、この笑みは…嫌な予感しかしない。


「いいじゃないですかぁ〜。プレゼントがお嬢だなんて、きっと2代目も大喜びですよ!」

『嫌だよ、何をお父さんにしろって言うのよ。気まずいよ。日頃鬱陶しくてウザいお父さんに、改まってパパありがとう♪なんて言いたくないよ。』

「そういうときはお酒の力を借りればいいんですよ! ってわけで、はいどうぞ。」


テレレッテレ〜!!!
そう効果音がつきそうな勢いで出されたのは、反転酒。性格もしくは性別が反転する不思議なお酒だ。
賢い私はもうこの先の展開が読めたぜ!


『私の性格を変えようってか。だが甘い。今回は性格じゃなくて性別が変わるやも…』

「その時はその時です!」

『んぶふっ』


すっげぇ良い笑顔で反転酒を私の口にツッコんできた毛倡妓は鬼だ。絶対こうなることを分かっていた。もしくはリクオと手を組んでいたはずだ。
つぅかせめて猪口に入れて飲ませてくれたらいいのに、酒瓶の口をそのままツッコんでくるなんて…ドS鬼の所業だ。こんなこと口には決して出せないけど。


『ぅ…も、無理…』


留まることなく入ってくる度数の高いお酒。最早これで私死ぬんじゃないかなんて思いながら、重くなる瞼に逆らえず…私はそのまま意識を手放してしまったのだった。












「なぁリクオ、鯉菜はどこ行った?
夕飯だってのに見当たらねぇんだが。」


ご飯だぞーって呼ぶと、いつもなら喜んですっ飛んでくる腹減り娘が今日は来ない。先に来たリクオに問えば、リクオはギクリと怪しげな反応をしてみせた。
…またくだらねぇ喧嘩でもしたのか。


「あー…その、姉ちゃんは…うん。」

「いやいや、うん、じゃ分からねぇよ。またお前ら喧嘩したのか?」

「や、喧嘩してないよ。ただ…」

「ふふ、そろそろ2代目に差し上げたらどうです? リクオ様。」


言い淀むリクオに対し、にまにまと意味深な事を言う毛倡妓。
差し上げる…?
別にオレァ今日誕生日でも何でもないけどねぇ。いったい何をくれるってんだか。
嬉しさ半分ワクワク半分で待っていれば、リクオがズルズルと大きいプレゼント箱を持ってきた。予想以上にでけぇ…オレは子供か! デカイ熊のぬいぐるみとか入ってたらどうしよう。


「…父さん、これ、姉ちゃんと僕からの父の日のプレゼント。」

「あ、そうか…今日は父の日か。ありがとうな!
…だが鯉菜はどうした?」

「…開けたら分かるよ。」

「は?」


贈り主のもう一人がいないことに不満だが…リクオは頑固だからこれ以上何も教えてくれねぇだろう。仕方ねぇがこの箱を開けるか。



パカッ


「………」

『……あっ! いつもありがとうパパ♪
今年の父の日のプレゼンどぶほっ!!?』

「…オレは何も見なかった。オレの視界には何も入らなかったぞ…!?」

「ゴメン父さん。今父さんによって箱に押し戻された姉ちゃんは偽者でも何でもないから。
それが現実だよ。」
 
「何でだよおおおぉぉぉ」

『よい…しょっと! ぷはー…もう父さん酷いよ。ずーっと箱の中にいて只でさえ身体が痛いのに! それをまた押し戻すなんて!』


これ父の日の贈り物ではなく、父の日の罰ゲームだよな。何が悲しくて箱を開けたら、リボンでラッピングされた男を貰わなくちゃいけねぇんだよ。
プレゼントはワ・タ・シ☆は女がするからいいのに、何でプレゼントはオ・レ☆をされなくちゃいけねぇんだよ。


「つぅか何でコイツァ男になってんだ。」

「いや、本当は<プレゼントは私>を姉ちゃんにして貰おうと思ってたんだけど…それをさせるために反転酒を飲ませたら、性格と性別両方が反転しちゃったんだよね。」

「…てことはアレかい。今コイツは、ただのツンデレ男じゃなくて素直で甘えん坊な男になったってことかい。」


嬉しくねええええぇぇぇぇ!!!!
さっきから横で『パパ〜』なんてスリスリくっついてくる奴がいるけど…男だから嬉しくねえぇぇ!!
まだ昼の男バージョンだったら可愛げがあって良かったかもしれねぇが、コイツ夜のバージョンだから筋肉ついてて体格良いし…嫌だあああぁぁぁ!!!


『パパ。今日は父の日だからオレ何でもしてやるよ! ナニして欲しいっ!?』

「やめろ。そのナリでニコニコしながらくっつくな。そして何もしなくていいから離れろっつぅかナニする気だよっ!」

『……ナニはナニだろ?』
 
「リクオおおぉぉぉぉ!!
助けろっ!! オレを今すぐ全力で助けろっ!!
お前がオレを助けることが父の日としての今年最大の贈り物だっ!!」

「えー……仕方ないなぁ…」


天使だ! リクオが天使に見える!!
鯉菜が今いつも通り女だったらスゲェ嬉しかったのに、コイツが今男である以上、こうやって今助けてくれるリクオが滅茶苦茶愛くるしいぜっ!!


「ほら姉…兄さん、父さんも少し嫌がってるから…」

『むっ、そんなことないもん! いつも父さんベタベタしてくるじゃん。』

「男の姿で『もん』って言わないでよ気持ち悪い。」

『あ、分かった。リクオあれでしょ。やきもち妬いてるんでしょ。父さんにオレを取られて妬いてるんだろ〜ハハッ仕方ないなぁ!』

「ちょっ、やめ…
やめろ鬱陶しい!! さっさと離れろこの変態!!」


おっ。
ヒルオがヨルオになった。ガチで嫌がってんなぁ…ヨルオのやつ。
でもアレは仕方がねぇ…
鯉菜のやつ、リクオを大好きホールドしてるしな。いくらオレでもあそこまではしねぇぞ。
哀れ、リクオ…


「ふふ、微笑ましい光景ですね。2代目。」

「…これが微笑ましい光景か?」


温かい目で遠くからリクオ達を見守っていれば、紀之っぺが隣にやってきて嬉しそうに笑っていた。


「どうです、2代目。記念に撮られたらどうですか?」

「何の記念だ。…てかそのカメラ今どこから出したんだ?」
 
「そうですねぇ…<父の日に仲良くじゃれあう息子達>記念です。」

「(オレの質問は無視かぃ…)」


この際、胸の谷間からカメラが出されたことは見なかったことにしよう。
毛倡妓から受け取ったカメラを持ち上げ、レンズを通して、未だじゃれ合うリクオ達を見る。リクオの顔がさっきよりだいぶ疲弊しているのに対し、兄の鯉菜はまだ元気満々なようだ。


「…クッ」

「? …何笑ってるんですか?」

「いや…もし鯉菜が女じゃなくて男だったら、本当にあんな感じだったんだろうなぁと思ってよ。」

「…そうですねぇ。お嬢はかなりブラコンですから、きっとあんな風に若を可愛がっていたでしょうね。」

「ハハッ、違いねぇ。
…リクオは全力で嫌がってるけどな。」


ボタンを押す度にパシャと鳴るシャッター音。
撮った写真を見返すと、どれもまるで仲の良い兄弟のように見える。
いや、双子と言っても納得かもしれねぇ。


「娘もいいが…双子の男兄弟ってのも良いもんだねぇ。」

「2代目、今すっごくいい<父親>の顔をされてますよ。」

「何当たり前なこと言ってんでぇ。性別も性格も関係ねぇ…どんな姿してようとオレはあいつらの父親なんだから、当たり前だろ?」

「ふふ、そうですね♪」


いつもは父の日に何らかの贈り物を貰うが…
たまには「オレはあいつらの父親なんだ」と改めて感じることのできる父の日もいいかもしれねぇ。

そう思いながらオレは持ってるカメラを毛倡妓に預け、ワーワーと騒いでる兄弟の元へ向かった。



「おいオメェら。

父さんも混ぜてくんねぇかぃ?」




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