この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ


▽ 年の数茸

『ふぅむ…にしてもこれどうしようかな』


私の手には大きな籠が…そしてその中には大量の茸。普通の茸じゃない…年の数茸だ。


『前回採ったやつ…余っちゃった。』


捨てるのも勿体ないし…誰かに食べさせるか?でも誰に…?
そんなことを考えていれば


「鯉菜、ほい」

『ぇぐ……』


いつの間に私の後ろに居たのやら、お父さんが私の口に茸を入れてきた。
そしてー


『あぅー』


ちょっと待てぇぇぇぇぇ!!
アンタ私に何cmのやつ食べさせたンだよ!!子供どころか赤ちゃんになってんじゃねぇか!!


「…!! すげぇ、本当に子供になった。てか懐かしいな〜!!お前の小さい頃は本当に可愛かったわ!!」


今は可愛くねぇのかよ。


「あっ、今も可愛いぞ?」


心読まれた…!?


『だぅ! あうあう〜!!』


赤ちゃんは流石にやだな…自分で歩ける年にして欲しい!!
そう意味を込めて訴えるものの…


「おう、分かってらぁ。抱っこだろ? よっと」


いや全然分かってないよアンタ。
抱っこしなくていいから私にもっと大きい茸食わせろ。


「さぁて…次は誰にしようかねぇ」


私を片手に抱き、もう片手には茸が入った籠。


『あぅ?(皆にも食べさせんの?)』

「ん? リクオがいいって? しゃあねぇなー」


それお前の希望だろこんにゃろー。
満面の笑みで小さい茸を取るお父さん。
…1cmくらいか。私と同じくらいになるのかな。
そんなことを思いつつ大人しくお父さんの腕の中にいれば、リクオの部屋にようやく着く。


「リクオ」

「? なむぐ……!?」


後ろからリクオを呼び、振り返ったところで口に茸を突っ込む。…不味そうに食べてる。当たり前だ。生だもの。


「ば……ぅ……?(…え…ナニコレ!?)」

『うー!(懐かしい〜超可愛い!!)』

「あぃ!?(姉ちゃん!?可愛いっ!!)」

『あぅ〜(年の数茸だよコレ)』

「むー…(あぁ…アレか…やられた)」

「…お前ら言葉が通じるのか…。」


何故か意思疎通ができる私とリクオに、お父さんが驚いた顔をしながらムービーを録る。
…そこは抜け目ねぇのな!


「…やむー(父さんにも食べさせようよ)」

『あいー!(そだね、小さいの食べさせよう)』


以心伝心って素晴らしい!!
ムービーを未だに録るお父さんにハイハイで近づき、お父さんに抱き着く。そうすればお父さんは私に気を取られるわけで…その隙をついてリクオが茸を取る。
後はお父さんがリクオを抱っこした時に、食べさせればいいだけの話だ。


「いやぁ、お前さんらの子供の頃…懐かしいなぁ〜! すっげぇ可愛い」


そう言って私とリクオを抱き上げるお父さん…
目が光るリクオ…
そして


「…あん?」


リクオがお父さんの口の中に…茸を投げ入れたぁー!!
スゲェよ…よく入ったな!!


「ぁ?」


シュンっと一瞬で縮むお父さん。
それに対して、支えをなくした私とリクオは床に落ちる。
痛い…!! そして痛かったりお腹すいたりしたら泣くのが赤子の仕事なので…


「うわあああああああんん!!」

『うええぇぇぇぇぇぇんん!!』


痛かったけど泣くほどではない。しかし自然と何故か泣いてしまう…。


「ふ…ふぇ…ぅああああああああん!!」


そして私とリクオに釣られ、何故かお父さんまで泣き出す。
大きな声で3人の赤子が泣けば、屋敷中に広がるのは当たり前で…


「!? 赤ちゃん!?」

「待て…あれ見覚えが…」

「てゆうかこの着物…お嬢と若と…2代目!?」

「何で赤子に…あっ」

「それって、この前の年の数茸…?」


そんなこんなで大体何があったかを察した皆。


「…な、泣き止んでください皆様〜!!」


そうワタワタして言ってきたのは氷麗で、


「え……ゴクン………あえぇ!?」


彼女の口に茸を入れたのは、言わずもがなお父さん。アンタ抜け目ないな。


「あう!?(氷麗…可愛い!!)」

「うえっ!!?(なっ、見ないで下さい〜!)」

『まふー(可愛いからいいじゃん!)』

「なぅー(次は誰にしようかねぇ…)」


そんな感じで…次々とベビー達の手によって増えてった赤子と子供。その日の夜…赤子や子供である事から、茸を食べた者は性別関係なしに皆でお風呂に入った。
そして…弱小妖怪たちは後に語る。


「昨日、敵が攻めて来たりしなくて良かったよなぁー」

「あぁ、昨日来てたら奴良組は終わってたな」

「戦える奴ほぼ全員子供になってたもんな…」




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