この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ お互い知らなかったこと。

事件は夕方頃に起きた。


『…ん?』

「あん?」

「…は?」

「…む?」


リクオとお父さん、おじいちゃんの4人で居間で飲んでいたのだ。
世間話をしながら、時々真面目な話を交えつつ、そしてお互いをからかいあう。そんないつも通りのやり取りをしていただけなのに…


『…生えた』

「「「…失った…」」」


何が生えて、何を失ったのか。
それはー


『…何かあんたら私より色っぽくない? ムカつくんですけど。』

「それ言うならお前だって何で男のくせにそんなに色気があるんだよ。」

「おい…誰だこんな事したやつ…」

「…何か…変な感じじゃのぅ…」


女にはなく、男にはあるものだ。
私は男になり、リクオ、お父さん、おじいちゃんは今何故か女の体になっている。
リクオはいつもの髪型にボンキュッボンな体をしていて超セクシー。赤く細長い目をしてるし…正にクール美女と言ったところか。
一方のお父さんはいつもの髪型に…これまたナイスバディな身体付きだ。胸は大きくお尻は小さい…ウエストは勿論細い。リクオはかっこよくてセクシーって感じなのに対して、お父さんは何だか妖艶でエロイ…。


『…ちょっと2人とも崖から飛び降りてくんね?』

「何でだよ!!」

「オレ達を殺してぇのか!!」


魅惑的な身体で突っ込みされてもムカつくんだよコノヤロー!! 何で(元)女の私よりエッロイ身体してるんだちくしょー!!
いや、それより…


『つぅか私年老いたらこんなんになっちゃうの!? 嫌だぁぁぁぁ!!!!』

「何じゃと!? ワシの魅力が分からんとは…お前の目は節穴か!!」

「いやいやいや、親父…その容姿のどこに魅惑を見出せって言うんだよ」


リクオとお父さんが美女になったのに対し、おじいちゃんは老いぼれババアになりました。ぶっちゃけ外見はそんなに変わっていません…強いて言うならまだ残ってる髪の毛が柳のように垂れていることだろうか…。
いずれにせよ、


『私自分の未来が一気に恐ろしくなってきたわ…』

「姉貴、オレ達はジジイの姿を毎日見ては、未来の己の姿を想像して落ち込んでるんだぜ…」


おじいちゃんの女体化で私の未来は絶望的になったよ。

まぁ、それはさておき!
性別が転換した原因はどうやらお酒にあったようだ。先程、鴉天狗にお酒の追加を頼んだのだが…どうやらその時に反転酒が混ざっていたらしい。性格もしくは性別が反転するお酒なのだが、どうやら全員、効果は性別に出たようだ。
まぁいずれはこの効果も切れるのだから、今はこの状況を楽しもうではないかっ!!


『ってわけで、リークオ♪』

「なん…のわぁっ!?
やめろこの変態野郎!!」

『ぐえっ!?』


リクオちゃんのたわわに実った胸を鷲掴みしたら、のどチョップされました。お姉…お兄ちゃん吐きそう!


『ええじゃないか、ええじゃないか!
両手に花とはこのことよ!! ワハハハハー!!』

「おいっやめろこのスケベが!!」

「…せっかくのイケメンでも中身が鯉菜だと台無しになるな。」


おじい…じゃない、ぬらばあちゃんは最早蚊帳の外。
エロティックボディのリクオちゃんと鯉さんのお腹周りに腕を回し、グイッと自身の方に身を寄せる。せっかくイケメンになったうえに、こんな美女が2人もいるんだ。やってもらうことといったら1つしかないだろう!!


『よし、今から飲み直しに行くぞ!!』

「まだ飲むのかよ…」

「おいおい、明日お前さんら学校だろう? 遅くまで飲んでていいのかい?」

『いいだろ別に。それにもし体が明日までに元に戻ってなかったらオレ学校休むし。』


そんなこんなで今から化猫屋へと向かうオレ達。
美女2人に注いで貰うお酒はきっと旨いに違いない! そう期待を込めて化猫屋へと向かえば、良太猫が出迎えてくれた。


「いらっしゃいませー! …って、あれ!?
2代目…いや、えぇっ!!? あれぇぇえ!!?
若、じゃないし…お嬢…でもない…!?
ええっ!!?」

「落ち着け良太猫。」

『やぁ、反転酒で性別転換した鯉菜だよ!
ちなみにこれはリクオちゃんで、こっちは鯉ちゃんだよ!』

「…鯉菜、そのなりでその話し方は少し気持ち悪いぞ。」


鯉ちゃんにツッコまれるがそこはスルー。
オレは今ハイテンションなのだ、まさにあげぽよ!
男になってウキウキなオレに対して、オレほどではないけど少しこの状況を楽しんでる鯉ちゃん、そしてあるモノを失ってソワソワしているリクオちゃんを連れ…オレ達は奥の方へと足を進める。
着いた先は、煩すぎず、静か過ぎない場所。


『うーん…やっぱこの席が1番良いよな。』

「上から賑やかなのが見渡せるしな。」

「………(もぞもぞ)」

『「お前は早く女の身体に慣れろよ!」』

「無茶言うな!!
ってかお前らこそ馴染みすぎだろ!!」


若干頬を赤く染めながら反論するリクオちゃんはマジでベリーキュート!!
流石は私のおと…妹だ!! 悪い虫がつかないようにお兄ちゃんが守ってやっからな!!


「…お前さんは姉よりも兄になった方がリクオへの過保護が増すな。」

『む、何故分かった?』

「声に出てたぞ姉貴。」

『お兄ちゃんと呼びなさ……』

「きゃ〜〜〜♪ 本当だ〜〜〜♪」

「凄くカッコイイ〜!」

「お兄さん、私達と一緒に飲まなーい?」


なんだなんだ…オレと超絶可愛い妹の会話を遮るけしからん奴は何処の何奴だ。
クルッと声がした方に顔を向ければ、そこにいたのは女妖怪。逆ナンしてくるだけあって皆美人だが…うん、お父さんやリクオの方が美女だな。


『誘ってくれてありがとな!
でも…』

「いいのよん、私がお酒を注いであ・げ・る♪」

『(聞けよ人の話。)
いや、悪いけど…今日は連れがいるんでね。ありがたいが他の男に注いでやってくれ。』


角が立たないように爽やかにそう言うものの…女達はその〈連れ〉の存在に気付くや否や、目の色を変える。


「…貴方達は2人でゆっくりしてて♪
代わりに私達がこの人の相手をしてあげるから。」

「「………………」」

『(……女ってコワいなぁ…)』


表向きはニッコリだが…目は全く笑っていないその表情に、女ってやっぱこわいなぁなんてオレは改めて思い知る。
逆に…
いつも女からベタベタとされるリクオやお父さん達からしたら、女のこわい1面が見れて吃驚なんじゃないだろうか。現に今、物凄く顔が引き攣っている。
可哀想…、でも!


『(あんたらのせいで、私はいつもその視線に耐えてんだからな!)』


夜リクオやお父さんといる時は特に酷い。
私がこの2人の家族だと知らない第三者からは…嫉妬の目付きが半端ないのだ。


『(まぁ…それを楽しんで蔑み見る私もかなり性格が悪いけどね。)』

「はい、アーーーーーン…」

『…ん、これ旨っ!
良太猫、これおかわり〜。』

「お兄さん、良い食べっぷり〜!」

「ずるーい、 次は私がアーンてするぅ〜」

「貴方さっきやったじゃなーい!」


気が付けば多くの女に囲まれているオレは、おそらく一生分のモテ期を今費やしているに違いない。
産まれてくる性別間違えたなぁ…
なんて考えながら出てくる料理をむしゃむしゃと食べ続けていれば、リクオ達の気配がしないことに今更ながら気付く。


『(あいつら何処行った…?)』


2人で家に帰ったのだろうか…だとしたらオレ泣くぞ。かなりいじけるぞ。
そんなちっぽけな決意をしつつ、慌ててキョロキョロと辺りを見渡していればー


『…何やってんだあいつら。』


少し離れたところで何やら問題を起こしている2人。


『…悪い、ちょっと席外すわ。』

「えぇ〜どうして〜?」

「まだ沢山お話ししたい〜」

『ハハ、ありがとな。
また今度会ったら酒を注いでくれ。』


オレの服の袖を掴む女の頭をポンポンと撫で、明鏡止水でふらっと去る。
もう2度と会うことはないだろうが…まぁそこは気にしない気にしない。今はトラブルメーカーの2人を迎えに行くとしよう。

足音を立てずに2人に近付けば、


「おい! いい加減離せよ!!」

「いいじゃねぇか。どうせ連れも他の女に取られたんだろう?」

「女の力じゃオレ達にぁ敵わんて。諦めな。」

「オレ達ぁおとこだっつってんだろ!」


力の強そうな猪みたいな妖怪に、今にも連れ去られそうになっているリクオ達。


『…おいテメェら。
誰に手ぇ出してんのか分かってんのか?』

「あん? 誰だテメ…」

『その汚らわしい手でそいつらに触ってんじゃねぇよ。』

「なんだとゴルァ……ぐあっ!」

「あ、兄貴ぃ! 
てめぇ…よくも兄貴をぶふっ!!」


殴りかかってくる相手を取り敢えず沈ませ、『何やってんのおめーら』と2人に声をかけると…


『アダッ!?』


2人に何故かチョップされました。


「遅えよ助けに来るのが。」

「危うくか弱いオレ達が可哀想な目に遭うところだったじゃねぇか。」

『いやいや、あんな雑魚くらい…あんたら2人で何とかなるだろ。』


何でさっさと片付けなかったんだと問えば、うまく力が入らなかったとのこと。抵抗したものの相手の力の方が強くて敵わなかったらしい。


「何つぅか…やっぱ女と男じゃ力の強さが違ぇんだな。」

『そらーな。
…そういえば、オレも少ししか力出してないのにこいつら気絶してるし。』

「にしても女ってのぁ恐ろしいねぇ…。あの女、鯉菜にはいい顔してたが、オレ達はすげぇ目つきで睨まれたぞ。」

『ざまぁ。
これで女の本性を少しでも見られたんじゃない?』


ニヤッとして言えば、それが面白くなかったのか…2人とも苦い顔をする。
そしてー


「…でもお前さんもこれで勉強になったろ?」

『は? 何が…』

「モテる男も辛ぇってことが。」

『うっぜ。助けるんじゃなかった。』


言い返すようにドヤ顔で言ってくるお父さんには最早苛立ちしか湧かない。せっかく見た目がセクシー美女なのに中身が残念だ。

でもー


「…いい女連れてると男も大変だろ? しっかりと見張ってねぇと、直ぐに他の男に絡まれてるからな。」

『…フツー自分でいい女って言う?』

「いやいや、オレ達もお前さんを連れてる時は気ぃ使って大変なんだぞってことだよ。
なぁ、リクオ?」

「…姉貴は特にフラフラしてっから、尚更な。」

『……あれ、ちょっと待って。
今私褒められてるのか貶されてるのか分からないんだけど。』

「おい、主語が『私』に戻ってんぞ。兄貴。」

『あ………。…もういいや、面倒くさい!』


リクオ達が絡まれてるのを見て私が焦ったように、
私が絡まれてたらリクオ達も同じ様に焦るのかなと想像したら…何だかちょっぴり、嬉しかった。
そんなこと、決して口には出さないけど。


『…帰ろっか!』

「おぅ、帰ったら飲み直すぞ。」

『え、まだ飲むの?』

「姉貴は飲んだだろうが、オレ達は飲んでねーんだよ。」


性別が変わることで、新たに知ることも沢山ある。
反転酒を飲むのも…たまには良いかもしれない。





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