この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 入れ替わり(リクオside)

「いい?
私の姿になったからには、私らしくしてね。決して他の人の仕事を奪わないこと! パシリとか論外だから!」


そう言ったのは、奴良リクオの姿をした奴良鯉菜だ。ボクと姉ちゃんが今朝激突したことで、ボク達は入れ替わってしまったのがきっかけ。
今日1日、ボクは姉ちゃんとして、姉ちゃんはボクとして過ごすことになったのだ。


『…ちゃんとやってくれてるかな…』

「鯉菜ちゃん、おはよう!」

『お、おはようございます!』

「……何で敬語?」

『え、あっ、な、何となく?
あは、あははははは……』


早速ミスしたかもしれない。
姉ちゃんにとっては同級生の友達だけど、ボクにしては見知らぬ先輩なのだ。ついつい敬語を使ってしまったけど…敬語だとおかしいに決まってる。


「あ、そういえば先生が呼んでたよ。」

『……先生?』

「坂本先生。奴良が来たら職員室に向かうように言え、だって。」

『……ぼ、わ、私、何かしたっけ??』

「……ごめん、思い当たることがあり過ぎてどれか分からないわ。」

『(そ、そんなにー!? 何してんだよ姉ちゃん!!)』


坂本先生はボクでも知っている。数学の先生で、若くて面白い性格から生徒にも人気だ。
そんな先生に呼び出されて怒られると思うと少し緊張する。ドキドキしながらも職員室へと向かっていれば…


「あ、おはよう奴良!
ちょうどお前のことを待ってたんだ。」

『お、おはようございます!』


バッタリと階段のところで坂本先生に出会ったボク。慌てて挨拶をすると、何故かキョトンとする坂本先生。


「……お前何か変な物でも食ったのか? 今日はえらくテンションが高くね?」

『そ、そうですか?』


普通に挨拶しただけなのに…これだけでテンションが高いって勘違いされるなんて、普段の姉ちゃんはどんだけテンション低いんだ!
そんなことを考えていれば、場所を変えようと坂本先生は歩き出す。前方を歩く先生の後ろ姿を追いながら、一体何の話なんだとボクの心臓はドキドキと早鳴る。
だが、そんなボクの不安はいとも簡単にぶち壊された。


「…よし、ここら辺なら大丈夫か。
奴良! 頼む!!
ここんステージ、どうしてもクリアできねぇからやってくんねぇか!? 攻略見ながら何回もやったが、それでもできねぇんだよ。てかこれをクリアしなかったら次に進めねーし!!」

『……ロックメン!? 
いや、てかゲーム……ええっ!!?』


何なんだこの先生は! 
人気の居ない所に連れて行くから、色んな意味でドキドキハラハラしてたのに…話の内容は「ロックメンやってくない? 進めないんだ☆」って…


『それでも先生なんですか!?』

「先生にだってできないことの一つや二つあるんだよ! 何でもできると思うな!」

『そっちじゃないです!! 先生なのに何ゲームを持ってきてるんですか! しかも生徒であるボ…私に助けを求めるって…もう、何考えてんですか!』

「…えぇ〜、奴良が言ったんじゃん!
オレがステージが進まないって相談したら『やってやるから遅刻とサボりのカウント減らして下さいね♪』って!」



………姉ちゃんのバカー!!
てゆうか、それにまんまとのってくるこの先生もバカじゃないのか!? 仕事しろよ、仕事!! この間受けた数学の小テスト、まだ返ってきてないんだから! それを先にしろよ!!


「それにほら。ブラックサ○ダーも持ってきたし? これ食べながら一緒にロックメン攻略しようず!」


駄目だこの先生……。
姉ちゃんがサボりをやめない原因はこの人にもある気がする。サボリと遅刻、全然咎める気がないじゃん。

結局、朝の朝礼が始まるまでの間は先生とロックメンを攻略した。そして、その日は吃驚なことが多かった。
例えばー
日直が黒板を消し忘れてた時、ボクが代わりに消したら…


「…珍しいね、鯉菜ちゃんがそんなことするなんて!」

「本当だ、いつもなら俄然せずって感じなのに。」

「むしろ、黒板を消すことから授業が始まるから『ラッキー、授業時間縮まるー』なんて言いそうなのに。」


などと言われ、
いくつかの授業ではー


「奴良はどうせサボリだなー?」

『えっ…先生! ボ…私、出席してますよ!?』

「…!!? わ、悪い、いつも居ないからどうせ今日も居ないと思ってたわ。」


…と、授業に出席しただけで驚かれ、
また時にはー


「おい、コルァ奴良。焼きそばパン買ってこいやぁ。」

「オレはカレーパンだコルァ。」

「オレはカツサンドとファ○タだコルァ。」

『分かった!』

「「「!!!!??」」」

「う、嘘です! 冗談です!」

『えっ、そのくらい買ってくるよ?』

「大丈夫ッス! むしろオレ達が買って来るッス!」

『で、でも…』

「調子に乗ってすいませんっしたー!」

『えええええっっ!!?』


快く受け入れた筈なのに、何故か全力で謝られた上に逃げられた。


『姉ちゃんって…一体…??』


自分の姉ながら、全く理解できない。


『(姉ちゃんはボクを変だって言うけど…姉ちゃんの方が絶対変だよな。むしろボクは普通だよ!)』


最初は、姉ちゃんがちゃんとボクの姿でボクらしく過ごしているかが不安でたまらなかったけど…
気が付いたら、姉ちゃんと姉ちゃんの周りが謎すぎてそんなことをスッカリ忘れていた。


『明日の学校…なんか行くの怖いな…』


その変な姉が今日は、奴良リクオとして、1日過ごしたのだ。嫌な予感がしても仕方がないであろう。
そんな新たな不安を抱えつつも、その日は何とか終わり…
そして翌朝にはー


「リクオ様、氷麗です!
朝ですよー! 起きてください!!」

「う〜ん…もう朝か、おはよう…」

「おはようございます! 
…ほらほら、どうぞ、私の顔を見て目を覚まして下さい!!」

「? 
う、うん…??」

「目ぇ覚めましたか!?」

「うん…ありがとう?」

「いえいえ! それでは氷麗は朝ご飯の用意をしてきますね♪」

「うん…(なんだったんだ?)」


氷麗の起こし方に少々違和感を感じたものの、無事自分の体に戻っていることにホッとしたのだった。




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