▽ 入れ替わり
「わ〜っ遅刻するー!!
…うわあっ!!?」
『…む?』
弟の
声がするよと
振り向けばー
『「いだあぁっ!!?」』
落ちてきたのは
大馬鹿リクオ。
奴良鯉菜、心の俳句。
…どうも皆さん、こんにちは。
ただいま学校に行く準備をしていたところ、階段から転び落ちてきたリクオに激突された鯉菜です。おでこがゴッツンコしたので超痛いです。一発殴らせろこの愚弟め。
『いつつつ…っ
…はっ! ゴメン姉ちゃん、大丈夫!?』
「大丈夫じゃねぇよこのバカ…リ…ク……」
『……え…!?』
「あ……え……?」
謝ってくるリクオに、何するんだと睨もうとするも、
そこにいたのはー
『「私!? / ボク!?」』
自分自身でした。
「な、何で…」
『あれー!? ボクが姉ちゃんになってる!?』
「…あ、私はリクオになってる。」
『そんなー!』
どうやら先程ぶつかった拍子に中身が入れ替わったようだ。
…なんて王道な話なんだ。
『よし、姉ちゃん!』
「ん?」
『もう一回ぶつかろう!!』
「ふざけんな。」
バシッとリクオの頭…いや、私の頭なのか?
取りあえず、リクオin私の頭を叩いて反論する私inリクオ。
あんな痛いのをもう一回したら頭蓋骨にひび入るっての。それかリクオの石頭に負けて私の頭蓋骨が粉砕するっての。
『じゃあどうしろって言うのさ!』
「ここは大人しく学校を休もうよ。」
『駄目だよ! ボク今日日直だもん。』
「お前はエブリデイが日直だろ。たまにはいいじゃん、サボろうぜZE☆」
『…よし、こうなったら…何とか隠し通して一日を無事過ごそう!』
「何でだよ、どんだけお前は日直が好きなんだ!
サボろうよ、この日直マニアが!」
『ほら、行くよ! 早くしないと遅刻しちゃう!』
「ぐえっ…ちょ、苦じぃ…!」
ズルズルと引き摺られながら、玄関へと向かう私達。鯉菜がリクオを学校へと引き摺りながら向かうその姿は、本来ならあり得ぬ光景で…
「お、おい…見ろよあれ。」
「お嬢が若を引き摺ってる…?」
「しかも若にしては珍しく学校をサボろうとしてますよ…」
「…本来なら逆よね、あれ…何かあったのかしら。」
周り者の頭にはハテナマークが沢山浮かぶのだった。
所変わり学校。
登校途中、リクオには散々色々なことを言われた。
要約するとこんな感じだ。
1、サボらないこと。
2、日直の仕事をちゃんとすること。
3、余計なことはしないこと。
2の日直の件については物凄く納得がいかないが…まぁ致し方ない。
「キャンキャン言われるのも煩いしね…」
「おはようリクオ君!」
「お、カナちゃんだー、おはよう!」
面倒臭そうに頭をボリボリ掻いていれば、後ろから声をかけてきたのはリクオの幼なじみであるカナちゃんだった。
久しぶりに会ったなーなんて思いながら返事を返したのだが…流石は幼なじみ、もう違和感を感じたようで、
「リクオ君…なんか今日、いつもと違う?」
なんて聞いてきました。
…ふむ、
これはなんというか…
実に面白い!!!
「そう? ボクはいつも通りだけど…
むしろカナちゃんの方が変わったんじゃない?」
「え? 私はいつも通り…」
「いつも可愛いけど、今日は一段と可愛いよ!!」
「…ぇ、えええっ!!!?? リクオ君!!??」
「あ、ボク日直の仕事があるから、先に行ってるね!」
顔を真っ赤にして狼狽えるカナちゃんを横目に、私は内心ニヤニヤとしながら職員室へと向かう。
ふっふっふっ…
私のすべき事はもう理解したぞ、リクオ!!
安心したまえ!!
そうドヤ顔をしたまま職員室へ寄り、日直冊子などを持ったまま教室へと向かう。
途中、
「奴良〜、今日も数学の宿題見せてくれよ〜」
なんて当たり前のように言ってきた奴には
「分からないところがあるなら教えてやる。だが、宿題くらい自分でやりやがれ。いつまでもオレに頼るな…面倒くせぇ。」
とちゃんと律儀に返してあげました。
ちゃんとリクオ(夜)っぽいだろう? リクオっぽくしてる私は偉いよ、うん。
最早隠しきれていない笑みを浮かべながら歩いていれば、ようやく教室へとたどり着く。
だが、ガラッと教室のドアを開けたところで後ろから聞き慣れた声がした。
「リクオ様! どうして私を置いてっちゃったんですかー!? 一緒に出るの待ってたのに、酷いですよー!!」
「氷麗…ごめん、忘れてた。」
「忘れてた〜!? お弁当持って待ってたのに、あんまりです!」
「ゴメンゴメン」
ぷんぷんと怒る(というかイジケてる)氷麗に苦笑いしながらも、お弁当をありがたく受け取る。
…冷たっ!
お弁当凍ってね!? ご飯だけじゃなくてお弁当箱ごと凍らしてね!?
「もう! 次置いて行ったら、朝起こしませんよ!?」
「えぇ…それは困るよ。」
グイッ
「…へっ…?」
顔を横に逸らしたまま未だ怒る氷麗。
そんな彼女の左頬に右手を添え、無理矢理こっちに顔を向かせれば…私(リクオ?)と氷麗の視線がバッチリと合う。突然の状況に氷麗は顔を赤く染めながら慌てるけど、その様子もとても可愛らしい。
そして、
そんな可愛い氷麗の様子に…私は口角がゆるりと上がるのを感じた。
「氷麗が起こしてくれなきゃ…
朝一番にお前の可愛い顔が見られないだろ?」
「…な、なななななっ…
何言ってんですかリクオ様ーーーー!!??」
カアアアッと林檎のように一気に顔を赤くしたかと思いきや、バシンと教室のドアを閉めて走り去っていった氷麗。
突如大きい音を立てて閉まったドアに、クラスメイトがこっちを見て「どうしたー?」と聞いてくるが、「何でもないよ」と爽やかに答えた私は五つ星レベルのミッションをこなしていると思う。
そんな感じで一日は始まり、
「リクオ! 今日の昼、オレ焼きそばパンとカレーパンな!!」
「オレも同じの頼む! ついでにメロンパンもよろしくな!」
とか色々言って来る奴が度々現れたが、全部「自分で買え」と黒い笑みで返してやり、
一方で…
「あれ、中村さん…今日雰囲気違うね?」
「そうかな。髪の毛少し切ったからそう感じるのかも…?」
「あ、やっぱり切ってたんだ!
…うん、凄く似合ってるよ!」
「あ、ぁ…ありがとう…」
などなど、可愛い女の子達には声をかけるのを忘れなかった。そんなこんなで今日1日の学校生活はあっという間に終わりを告げ、
『ちゃんとボクらしく過ごしてくれた?』
「勿論! 安心しなって☆」
『(不安だ…嫌な予感しかしない)』
私とリクオが入れ替わった1日は、睡眠と共に終わりを告げたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーー
『よかった、寝たら元通りに直ったね!』
「うん、それは良いけどさ…
今朝、起こしに来てくれた氷麗の様子が変だったんだけど…何でだろう。
何かおもいあたりある?」
『さぁ? 知ーらない♪』
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