▽ 前世の姿2〈下〉(リクオside)
『…………誰?』
気が付いたら、知らない人が目の前に居た。
何がどうなってこうなったのかは分からない。いつも通りに寝て、目が覚めたら、知らない場所に知らない人達。
……ん? 人……?
あれ、目の前に居る人は(変な髪型だけど)人間だろう。
でもその後ろに居る人は?
『首が…え、手品??』
「鯉菜…じゃあねぇようだな。
お嬢ちゃん、どこから来たんだい?」
それからと言うものの、事情聴取のように色々と聞かれた。出身を聞かれたので住所を言えば、しばらくして小さい黒い鳥が「そのような地名、ございませんでしたぞ」とか報告してきた。
そこで私はあることに気付く。
『あぁ…何だ、夢か。』
「夢?」
『鳥が話すわけないし、霊感ないはずなのにさっきから変なのが視界に映るし。夢だなこれ、変な夢。』
「…………夢ではないと思うけどなぁ?」
完璧に夢を見ているんだと思っていた私だが、なかなか夢から目覚めないことに焦るのは3時間くらい経ってからのこと。
見たこともない変な生き物達が現れ…叫び、逃げ回り、転けて…痛みや息切れがすることからようやく夢ではないのでは、と思い立ったのである。
結局、
原因不明だが、違う世界から来たのだろうと結論付けられた私は、元の世界に帰れるまでここでお世話になることになったのだ。
「アンタ、嫌なことを嫌って言えねぇタイプだろ。
それ直した方がいいぜ?」
二日目の夜、廊下を歩いてたら後ろから急にそんなことを言われた。(ちなみに1日目は状況理解だけであっという間に過ぎた。)声の主を確認すれば、頭の長い人間。
いや、ぱっと見人間でもこの人も妖怪かもしれない。
人間はほとんどいないって言っていたし。
『…誰。何で初対面の人にそんなこと言われなくちゃいけないのよ、私の何が分かるっての。』
「初対面、ねぇ…。まぁ確かにこの姿で会うのは初めてだな。」
『…この姿?』
開口一番言われた言葉にイライラしながらも、誰なのかを問えばリクオ君だと判明。どうやら妖怪姿らしい…あまりの激変ぶりに、先程のイライラも驚きですっ飛んでしまった。
「目ェ死んでるぜ。そこらの妖怪よりも堕ちてるんじゃねぇか?」
『墜ちてるって…何が言いたいの、さっきから。』
「…さぁな。」
さぁな、って何だよ。
何で昨日の今日で、侮辱されなくちゃならないのか…訳が分からない。
何を言いたいのかを見極めようとリクオ君を見るが、こちらを探るようにして見てくるその目を堪えきれず…つい目をそらしてしまう。
「(…これが、前世の姉貴なのか? 何もかも諦めたような目をして…ふて腐れたようなコイツが、あの姉貴なのか?)」
何を考えてるのか分からないが、眉間に皺を寄せてこちらを見るリクオ君に私は居たたまれなくなった。
そして、そそくさと去ろうとする私にリクオ君は言う。
「…忠告だ。
周りのせいにしてふて腐れても何も変わらねぇ。幸せになりてぇんなら、自ら幸せを掴む努力をするこったな。」
『ふて腐れてなんか、』
「ふて腐れてるじゃねぇか。もしくは、嘆いている、とかだな。だが…どっちにしろ同じ事だ。変えようと努力しねぇ奴に、てめぇの置かれた状況を嘆く資格はねぇよ。」
『……』
何も言い返せない。
私のことを何も知らないくせに、
私の苦しみを知らないくせに、
そう思っても…その言葉を口にすることはできなかった。
だってー
『幸せを掴むための…努力…』
そんなこと…したこともなければ、思い付きもしなかったから。
「…周りをてめぇの手で変えるか、もしくはてめぇ自身が変わればいいだけのことだ
ーって、オレの姉貴がいつか言ってたぜ。」
『…受け売りかよ。つぅかお姉さんいたんだ。』
「まぁ…今は留守にしてるが、な。」
さてと、オレはパトロールにでも出掛けるとするか。
そう言ってリクオ君は去り、私も借りている部屋へと戻る。そしてその日はさっきの言葉を思い返しながら、私は眠りへとついた。
最後の日には、若菜さんやぬらりひょんさん、鯉伴さんなどと話して時間をつぶし…夜には最終的に元の世界へと帰ることができた。
目を開けば自分の部屋。
携帯で日にちを見れば、やはり3日が過ぎていた様子。学校とかはどうしたのだろうか…まぁ、それは明日の朝に母から探るしかない。今はもう夜遅いから寝よう。
そう思って布団に入ろうとすれば、ベッドから何かが落ちる。落ちた物は1冊の本で、それを拾って見れば、表紙に書いてあったのは〈ぬらりひょんの孫〉。
『ぬらりひょん……の、孫……
……あれ? えっ…ええええっっ!!?』
そこで私の頭に溢れかえるのは、その漫画のストーリー。逆に何故今まで忘れていたのか謎でたまらない。
『…もしかして…さっき居たところってぬら孫の世界!? 何で気が付かなかったんだよ!! うっわ、戻りたい…』
大好きな漫画を忘れるはずがない。況してや、好きなキャラクターを目の前にして気付かないはずがないのだ。
だが、現実は違った。
まるでそれが世界の意思だと言わんばかりに、ぬら孫の世界に居たとき、私の記憶からぬら孫の知識だけが綺麗さっぱりに消えていたのだ。
『…あれ、でも…リクオって一人っ子だよね。
お姉さんがいるって……』
作品に出てなかっただけで、本当はいたのか?
そんなことを考えるも真実は結局分からないのだし…
まぁ、いっか! と考えることを放棄する。
『……すてきな家族だったな……温もりがあって。』
生まれ変わったら奴良組に生まれたいなぁなんて、叶うはずもない事を口にして私は瞼を閉じる。それが近い未来、叶うなんてことを知らずに…私はゆっくりと意識を沈めたのだった。
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