▽ 報復戦?
ある日の逢魔が時ー
私は今リクオにレクチャーしてもらっている。
「数百も生きてきた父さんと真っ向から渡り合おうと言うのがそもそも無謀、寧ろバカなんだよ。」
バ…っ…!?
まぁ、うん…そうかもしれんけど。ハッキリ言うな。姉ちゃん今HP一気に減ったよ。
「それなら、子供に若返らして僕等と同じ土俵に引きずり出してしまえば、或いは勝機が…」
『…なるほど。』
リクオ、お前…敵に回すと1番怖い奴かもしれないな。つうかやり方が汚い。しかし、私はどんな卑怯な手を使ってでもお父さんをギャフンと言わせてやるんだ! 前回の報復戦の最後…やつは私にとんでもない事をした…!!
虫だけはやってはいけないことだろ!! 許せん!!
『ということで、鴆よ。何か寄越せ。』
「ねぇよそんな薬!!」
鴆の所へ行き、事情を話す。だがそんな私に言われたのは非情な一言。なんと…子供になる薬はないだと!?
『それじゃ私の復讐劇はどうなるのよ!!』
「知らねぇよ!!」
どうすればいいんだ…これではお父さんに復讐が出来ない…!!
「あ…待て。そういえば変わったキノコがあるって聞いたことあるぞ」
『…キノコ?』
鴆の言葉に首を傾げれば、鴆はそのキノコについて説明をしだす。
「あぁ。年の数茸っていうキノコでなぁ、茸の大きさによって年齢が変わるものだ。5cmのを食べれば5歳になるし…20cmのを食べれば20歳になる。」
『何それ。聞いたことあるんだけど…ら〇ま1/2のやつじゃん。…てことは元の年齢に戻るためには、400cm以上のを食べなきゃいけないんじゃね?』
無理だろ。そんな茸ねぇよ。あっても誰も食べられねぇよ…食べ終わるのにどんだけ時間かかるんだよ。
「いや、そこは時間で戻るらしい。確か1日で効果が切れるはずだぜ。」
『でもその茸、どこで採れるの?』
「確かここの近くの…」
ー そんなこんなで茸をゲットした私。
鴆の情報を頼りに茸を探し、何とか見つけたものの…家に帰ればもう夜の10時。皆も夜ご飯を食べ終えり、それぞれの時間を過ごしている時だ。
『お母さん、ちょっと台所借りてもいい?』
「ええ、いいわよ。でも使い終わったらちゃんと片付けといてね?」
『勿論!ありがとう〜』
洗濯物を畳んでいるお母さんに了承を得て、フライパンを取り出す。
さぁ、調理の時間だ!
採った茸を他の普通の茸と混ぜて調理をし、お父さんの元へ持っていく。ちなみに例の茸を取りやすいようにてっぺんに置いてある。
『お父さん、野菜炒め作ってみたんだけど…味見してくれない? お母さんと同じ味付けにできてる?』
「? おぅ、いいぜ。どれどれ…」
そう言って何も疑わずにパクパクと食べていくお父さん。
「うん、うめぇじゃねぇか」
『本当っ!? 茸はどう? 小松菜も食べてよ。』
そう促せば、例の茸は箸で摘まれ…お父さんの口の中へと運ばれる。
そしてー
「……あん?」
『………かっ!!』
「「「え…」」」
驚き固まる数人…その視線の先には
『かっわっいいーーーーー!!!!』
緑と黒の縞模様の着物をダボダボになって着る…クセのある黒髪をもった子供。
そう、子供鯉伴だ。
いつもの長い頭がなく、ぬらりひょんと言うよりも、まさに人間の子供のようだ。大人の色気もなくなり、子供独特の可愛さが前面に出ている。
「…おい…何でオレ縮んでんだ…」
フルフルと震えてこちらを睨むその姿は全く恐ろしくなく、むしろ自然と上目遣いになって可愛らしい。殺傷力百倍だ。萌え死にそう。
「…本当にやるとはな。姉貴の行動力って怖ぇな」
そう言うのは夜のリクオ。
実を言うと、リクオが野菜炒めを横から摘み食いしてたから冷や冷やしていた。リクオが食べなくて良かったよ…うん。だって…
『リクオの小さい頃も可愛かったけど…お父さんのこれ、可愛過ぎだろ!!犯罪級だよ!!』
「やっぱお前ぇか鯉菜!!さっきの野菜炒めか!?何なんだコレ、どうやったら戻るンだよ…」
『お父さんが食べたのは年の数茸です。3cmの食べたから、お父さんは今3歳だね! よっと…』
そう説明しながら、ぶかぶかになった衣服ごとお父さんを抱っこする。
「お、おい…!離せ!」
『ううん…中身も3歳になると思ってたのに…。
まぁいいか。これはこれで楽しいし。』
「楽しくねぇよ! てか降ろせ!!」
『…にしてもっ、可愛いぃぃぃぃ♪』
ギューッと抱きしめれば、さっきまでジタバタと暴れていたのに大人しくなる。きっと抵抗しても無駄だと諦めたのだろう。いくら男の子でも、3歳に負ける程私はそんな貧弱じゃない。
『はい、あーん。他のは全部安全だし、せっかくだから食べてよ。』
「お…おぃ…ぁぐっ……ンクング……」
『…おじいちゃんもきっと親バカだっただろうな。可愛すぎだもんコレ。よくお父さん攫われなかったね、私だったら攫ってたよ。あっ攫われてもおじいちゃん達がブチ切れて全力で探すよね!だから無事だったのか。ふーん。』
「姉貴…自問自答が声にもろに出てんぞ。」
『おっと。』
そんな会話しながらも、子鯉伴への私の餌付けは止まらない。
『…野菜炒めよりももっと可愛いデザート的なもんあげたかった。』
シャクシャクと小松菜を食べる子鯉伴は…
『…うさぎみたい。(ボソッ)』
「うさ…!? …やめろ!オレ男なんだぞ!」
『可愛い…ホンマ可愛い…!!』
「ちょっ…!」
スリスリと頬擦りする私から、子鯉伴は逃げようともがく。あぁ…お父さんが小さい頃の私に頬擦りしてきた気持ちが分かったわ。
『…あぁ…これがマイナスイオン…』
子鯉伴を抱いて離さない挙句、ベタベタとくっつきまくる私達に痺れを切らす者が1人…
「…姉貴。いい加減親父を離してやれよ」
夜リクオだ。
頬杖をついて、どこか面白くなさそうにこちらを見ながら言う。
『どうして? だって効果1日だけじゃん。今のうちに癒されておかないと…』
「でも親父が疲れてるじゃねぇか」
『…いいじゃん。元はと言えば復讐なんだから! 疲れててもOK!!』
ケラケラと笑う私とは反対に、益々ぶっすーとするリクオ。何だ…何が不満なんだお前は。
「…リクオ。お前さん、オレに嫉妬してんのかぃ?」
そこでニヤニヤと口を開く子鯉伴。
…その容姿でそんなニヤニヤしながら大人口調で話さないでもらえますか。違和感が半端ないです。一方、その言葉にリクオは「ンなわけねぇだろ」と言いながら子鯉伴を睨む。
『…あらあら。じゃあどうせならリクオも小さくすれば良かったね』
「何でだよ!アンタが親父を離せばいいだけだろ!!いつまでくっ付いてんだ…てか親父は何ニヤニヤしてんだよ腹立つな!!お前ぇら2人して腹立つなっ!!!」
そう怒るリクオの頬は若干赤い。
『まぁまぁ、そう怒んないで! 可愛いんだからしゃあないやん?』
「そうそう。オレが可愛過ぎるから仕方ねぇよ。
いやぁ…可愛いってのも罪だねぇ。」
もはや開き直ってウンウン頷きながら言う子鯉伴。
…ませたガキだ。いや、中は大人だけど。
「てめぇら…っ」
拳をフルフルと震わせるリクオ…あぁこれは面倒な事になりそうだ。私の膝の上に座る子鯉伴の頭を撫でながら、これじゃあお父さんよりもリクオをギャフンと言わせてるなぁ…だなんてぼんやり考える。
「鯉菜姉ちゃんやぃ。リクオ兄さんが怒ってるぞ。怖いなぁ…。」
『…そうねぇ。お兄ちゃん怖いわねぇ。』
私にキュッと抱きつく子鯉伴に内心萌えながらも、少しリクオに同情する。だってめっちゃニヤニヤしてリクオを見てるんだよ!? あれは腹立つな…私がリクオだったら激おこだな。そして子鯉伴にニヤニヤする私にも…きっとリクオはイライラしてるだろうな。でも無理…このニヤニヤは止められない止まらない!!
「てめぇら…表に出やがれ!かっさばいてやるぁ!!特にくそ親父!!」
「鯉菜姉!! 逃げろー!!」
『えっ…ぇええ!?? そういう感じ!?』
キャッキャッはしゃぐ子鯉伴を抱えながら、リクオから一心不乱に逃げる。癒される筈だったのに…何でこんなことになった!?
『…あれ。そもそも私って復讐するつもりだったんだよね。』
なのに何で鬼の形相したリクオに追われなくちゃならないんだ。しかも子鯉伴なんか暢気に楽しんでるし…!!
ギャフンと言わすどころか、むしろ姉弟揃ってお父さんの手のひらで転がされてる感じがする。
そんな事を思いながらも、腕の中で笑う子鯉伴を見れば…
『まっ…いっか! 逃げろー♪』
だなんて一緒にはしゃぐ私もやっぱり甘い。
報復戦…これにて終了。
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