この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 鬼は外、福は内

『リクオ』

「何だ?」

『…罪もない鬼達を節分の度にイジメるのはいかがなものだと私は思うぞ。』

「いつものことだが…姉貴は今度はどうしたいんだ?」



2月3日と言えば節分の日。
例年、夜になると皆で奴良組中にいる鬼達に向かって豆を投げつけるこの日。そしていつも通り「そろそろやるか…」と暗黙の了解で立ち上がる皆に、否…三代目リクオに、待ったの声をかける。


『こんな2月のクソ寒い時期の夜によ? 何も特に悪いことしてないパンツ一丁の鬼達を、どうして豆で攻撃して外に出すのかね!』

「「「お嬢っ…!!!」」」


私のその言葉に感動する鬼達とは逆に、リクオは未だ呆れたような目を私に向けてくる。
悲しくなるからそんな目で見ないで!!


「じゃあ今年は姉貴が鬼をやんのか?」

『何で天使のように優しい私が鬼役をしなくちゃならないのかね。ここは体を張ってこその三代目がするべきじゃないのか?』

「三代目が直々にやる前に、三体目補佐がやるべきだと思うぞ。」


なんやかんやで始まった鬼役の醜い擦り付け合い。その様子にある者はニヤニヤとし、またある者はどうでも良さそうにし…そしてある者はー

「お前さんら二人一緒に鬼役をすればいいじゃねぇか。」

なんてふざけた提案をする。


『「お父さん/親父…」』

「ん? なんだい?」


そんな提案をしてきたのは私達の父親で、そしてそんな提案に…私とリクオはお互いの顔を見合わせる。
これは…やるしかない!!






「………ちょっと待て。何がどうなってオレが鬼役になった?」


そして今、庭先にポツンと立つのは鬼柄パンツと鬼のお面を装備したお父さん。


『さぁ皆の者!
今年の鬼は奴良組の2代目が努めてくれるぞ!!』

「だが今の親父は2代目じゃねぇ…鬼だ!
だから手加減なく鬼を外にやってくれ!!」


私達の言葉に、おおおおおお!!!と威勢のいい掛け声をあげる皆。そして本当に躊躇いもなく、お父さんに向かって豆を投げ始める。


「鯉伴の悪戯が減りますようにいぃぃ!!!」
…首無、それは最早願望だよ。

「鬼よ、立ち去れえええええぇぇぇ!!!!」
…黒田坊、今日のふわふわパーマヘアーはお父さんの仕業なのね?

「つまみ食いはいい加減よしてくださいなー!」
……毛倡妓、その気持ちは分かるよ。

「手ぬぐいをあちこちに放置しないでください!」
…雪女まで…うちの親父がごめんね!?

つぅかさ…


『「アンタはいい加減大人になれよ!!」』


皆から豆を全力投球されるお父さん。
豆といえども全力で投げられれば痛いわけで…明鏡止水でひょいひょいと避けている。
余裕顔で避ける鯉伴に対し、皆の怒りパラメーターを徐々に上がっていき…


「鬼なんだから避けてんじゃねー!!」

「大人しく当たりやがれ!!」

「ズルいですよ!!」


節分の呪文「鬼は外、福は内」を言う者は一人もおらず、皆日頃の鬱憤を晴らす為に必死である。


「…親父が鬼っつーよりも、怒り狂ってる皆の方が鬼だな。」

『…計画通り☆
これで皆の中の鬼は外に行くよ。』

「…外に行くよりもむしろ…避ける親父に苛ついて鬼が成長してる気がするけどな。」


必死に豆をお父さんへと投げる皆を見ながら、リクオと会話する私。


「…姉貴は鬼に豆投げなくていいのかい?」

『豆じゃ物足りないわ…投げるなら鬼自身をこう、ボキボキっと関節技かけないと。』

「ククッ、違いねぇ!」


二人でケラケラと笑いながらも、取り敢えず豆を数粒手に取る。
そしてー


「鬼はー外、」
『福はー内!』


皆の健康と幸せを祈って豆を投げた。




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