この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ バレンタインデー

『台所、お借りしま〜す♪』


時刻02:30!
昼の2時ではなく、夜中の2時に台所に立つのは…寝着にエプロンを装備した私。


『よっこらせっと…ふぅ、準備万端!』


小さい体で椅子を引き摺り、それを冷蔵庫の前やシンクの前、テーブルの前へとセットする。
…え? 何でこんなことするのかって?
7歳児(しかもチビ)の私がシンクや台所、冷蔵庫なんかに手が届くわけなかろう! だからと言って、毎回毎回椅子を引き摺り移動させるのも面倒なため、こうやって設置しているのだ。


『お母さん達が起きてくるのは早くても6時か6時半くらい…それまでに何とか終わらせなければ!!』


椅子によじ登り、机の上にバンっと開いたのはチョコのレシピが書かれている料理本。


『お父さんとリクオ、おじいちゃんに…首無とか青、黒にもあげたいしな〜。
…あれ、急がないと意外と時間ない?』


そう、今日はバレンタインデー。
今まではチロルチョコをプレゼントしていた私だが、今年は一年生にもなったし、手作りをあげようと思ったのだ。

というわけでー

小さな身体で広い台所を駆け回り、レシピ通りにチョコを作るのだが…


『……また失敗…何で!?』


何がいけないのが分からないが…とにかく上手くいかないお菓子作り。
何回目だよコレ!
子供だから仕方ないって許されるレベルじゃない程失敗するんですけど!!
そして失敗を繰り返しているうちに、いつの間にやら朝になっていたらしい…


「鯉菜? 何してるの?」

『…ぅっ…お母さあ〜ん…』


何歳児なんだ私は。
自分でもそう突っ込みたくなる程恥ずかしいけれど、今は外見上の年齢に甘えて…お母さんに抱き着く。


「あらあら…随分と台所散らかしちゃって、どうしたの?」

『チョコ…っ、お父さんやリクオにあげたいのに…!』

「失敗しちゃったの?」

『…ちゃんと、…っく、やって、のに…っ!!』


嗚咽も涙も止まることを知らず、お母さんに背中をぽんぽんとあやされながら泣く私。


「大丈夫よ、鯉菜。
お母さん達も皆のぶんを作らなくちゃいけないし、一緒に作りましょう?」

「そうですよ! 失敗したからって捨てる事ありません! これもちゃんと使えます!」

「失敗作を失敗作にしないのも、料理の技の一つですよ♪」


お母さんに続き、起きてきたのであろう雪女や毛倡妓もそう言ってエプロンを身に着ける。
そして、朝ご飯の準備は他の料理人に任せ、私達4人でバレンタインチョコを作った。










「ごちそーさまでした!」

「おっ、よく言えたなぁリクオ。偉いぞ!」

「鯉伴、お前もリクオを少しは見習ったらどうだ?」

「何が言いてぇんだ? クソ親父。」


皆で作ったチョコを渡してないのは、この三人。
首無や青、黒などの他の妖怪達は既に朝食を食べ終わった為、食器を下げに来た時にチョコを渡した。
お父さんもおじいちゃんも本当は既に食べ終わっているのだが、1番食べ終わるのが遅いリクオに付き合っている為、まだチョコがスタンバイしてあることを知らない。


「お義父さん、鯉伴さん、リクオ!
今日はバレンタインデーだから、食後にデザートがあります♪」

「おっ、そりゃあいいねぇ♪」

「今年は鯉菜も一緒に作ったのよ!」

「…その鯉菜は何でそこに隠れてるんだい?」


私達が作ったのは、チョコと言ってもチョコレートケーキ。私の失敗作を上手く隠せる…というか利用し易いのがケーキだそうで、皆が頑張ってチョコケーキを作ってくれたのだ。

…私は最後の切り分けるしかしていません。

そんなわけで、堂々と『私も作ったよ』と言えない私は障子の後ろに隠れているなう。既に食べ始めているリクオの「おいしいー!」という声を聞きながら、思い返す事は今朝のこと。


『(…せっかく驚かそうと思って、夜中に起きてまで頑張ったのに…)』


思い返せば、またもや目に涙が浮かんで来た。
その涙が溢れないように慌てて上を向けば…


『!』

「! 
な、何があったんだ? 具合でも悪いのか!?」


おっふ、なんてこった。
目の前にお父さんがいたよ。しかもバッチリ顔見られたから、泣きそうになってるのバレちまったよ。
そして、さっき散々泣いたくせに…またもや抑え切れないこの感情。


『ぅ…ぅう…』


ついついまた泣き始めてしまった。
何があったのか分からずにアタフタするお父さんに、お母さんが今朝あったことを説明する。
すると、お父さんも私が泣いている理由が分かったようでー


「泣くなって、鯉菜!
お前が失敗したそのチョコも、こん中に入ってるんだろう? さっきリクオも言ってたが、このケーキ美味いぞ! 味がよければ見た目なんて関係ないし、もっと言えば、気持ちの問題だから味なんてのは二の次だ。
オレはお前のその気持ちだけで充分嬉しいよ。」

「そうじゃ。そんなに落ち込まずとも、お前さんの気持ちはよぉく分かっておる!」


お父さんとおじいちゃんの言葉に、私の涙は止まるどころか勢いを増すばかり。
さっきまでは悲しくて泣いていたけど…今は嬉しいというか安心したというか、うまく説明できないけれど、そんな感じの涙だ。


「お姉ちゃ…何で泣いて…っひく、うぅ、…
うわああああああああんん!!!!」


そしてリクオの素晴らしき貰い泣き。そんなリクオにお父さんも「おおい!!? どおしたあ!!?」とタジタジになるけれど…


『…う…ふぇえ…うえええええぇぇぇん!!!』

「鯉菜!? ちょ、リクオも…
若菜ァ! 助けてくれー!!」


私も…貰い泣きの貰い泣き☆
いつもはチロルチョコをあげてほっこりするバレンタインデーだが、今年は少し…いやだいぶ、甘酸っぱい思い出になったバレンタインデーとなりましたとさ☆




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