この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 年明けから罰ゲーム

〈デレー♪ 浜地、アウトー!〉


『……………。』

「……………。」

「……………。」

『……………ンフッ』

「「姉貴/鯉菜、アウト!!」」

『だあぁっ! またかよ!!』


こんにちは。
ただいま例の年末番組「笑っちゃいけない24時」のやつを皆と観ている鯉菜です。


「それではお嬢、失礼します!」

『いってぇぇえ!!?
ちょ、も、後で覚えてろよ! 首無!!』

「ええっ!! 何でオレ!?」


番組が始まると共に、「オレ達もこれに参加しようぜ」と言いだしたのがリクオ。結局参加者はリクオ、お父さん、私の三人だけ。他の皆は「こんな辛いゲームに参加したくない」と傍観&審査員にまわっている。


『…あー、これ絶対今ケツが真っ赤だわ。』

「お嬢、ケツじゃなくてお尻です。」

『変わんないって、何も。』


私の言葉遣いを注意する毛倡妓は、私が笑った時にお尻を叩く役目。お父さんやリクオのお尻を叩くのは首無や黒、青などが交代で務めている。
流石にね、男にケツを叩かれるのは嫌だったので…ここは毛倡妓に叩かれています。ちなみに氷麗は私のケツを叩きません、否、叩かせません。さっき叩かれた時にケツが凍ったので。マジ寒いし痛かったわー。


『……………。』

「……………。」

「…ブハッ!!」

〈デレー♪ 田村、タイキック!〉

「げぇっ! まじかよ!!」

『ざまぁ! お父さんタイキック〜!』

「首無、日頃の鬱憤をここで晴らしてやれ。」


頬を引き攣らせるお父さんに、ニコニコとドス黒い笑みを浮かべながら歩み寄る首無。その様子をニヤニヤと見守る皆。
奴良組の年末はとても平和ボケしております。


「いってぇえええ!!! ケツが割れたぁ!!」

『えっ、お尻が3つになったの? 気持ち悪っ! 顔はいいのに、脱いだらお尻が3つとか…気色悪っ!! どうやってパンツ履くの?』

「ククッ…嫌われたなぁ? 親父。」

『デレー! リクオ、アウト!』

「………はぁっ!? 今のはナシだろ!!」


叩かれる度に、正の字が増えていく紙。
1番叩かれた回数が少ない人には商品があるらしい…いつの間に用意したんだろうか。そして酷い事に、1番多い者には罰ゲームがあるらしい。
妖怪屋敷なだけに、鬼の所業である。




そして、
なんやかんやで漸く終わった地獄の番組。


『あ〜やっと終わった〜、表情筋痛い〜』

「ケツが…痛え…っ」

「…つぅか年明けてんじゃねぇか。」


例年はちゃんとカウントダウンをし、年が変わった時には盛大に「あけましておめでとう!乾杯☆」となる筈だが…今年はこのゲームのせいで年越しを逃してしまった。


『取り敢えずあけおめ〜、今年もよろしく。』

「よろしく頼むぜ、おめぇら。」

「そういやぁ、誰が勝ったんだ?」


周りにいる皆と互いに挨拶をしつつも、叩かれた回数が気になる皆。
結果はー


「…叩かれた回数が少ない順に発表しますね。
一番は…リクオ様です!!」

「ふっ…賞品はオレが戴くぜ!」


ドヤ顔で私とお父さんを見下ろすリクオ。可愛い弟ながら、新年早々ちょっと殺意が湧いちゃったよ…
ちょっとだけね☆


「次に多いのは…」


ワザと、そこで言うのを止める毛倡妓。
これで名前を呼ばれなかった方は罰ゲームが待ち受けている。
そのため、
シーンとした部屋の中心では今…


「オレノナマエオレノナマエオレノナマエオレノナマエオレノナマエ……」


ぶつぶつと呪文を唱えるお父さんと、


『(私の名前を呼べぇぇえええ!!)』


熱心に毛倡妓へと念を送る私がいた。

そして待ちに待った結果はー


「……次に多いのは…2代目です!!」

「っしゃあああああああ!!!!」

『嘘おおおおぉぉぉぉ!!!』


最悪。
ビリで罰ゲームがあるのは私でした。


「じゃあ、もう新年を迎えちゃいましたが…今から年越し蕎麦を皆で食べましょう!
優勝者のリクオ様には賞品として蕎麦のあとにデザートが出てきます♪」

「先に甘い物が食いてぇ。」

「ダメです、蕎麦を食べ終わってからです。」


ピシャッと断る首無に舌打ちするリクオだが…そのくらいいいじゃないか! デザートが出てくるだけいいじゃないか!! 私はむしろ罰ゲームなんだぞ!!


「2位のオレには何かないのかい?」

「何もないです。」

「…………………。」


…いいじゃないか!
罰ゲームがあるよりかは、何もない方がいいじゃないか!! 何なら私と変わってくれよ!!


『…ちなみにさ、私の罰ゲームって…何?』

「…お嬢の罰ゲームは、これです。」


恐る恐る聞いた私に、毛倡妓がそう言って持ってきたのは年越し蕎麦。
…でも臭いが何か凄い。


『…………何を入れた?』

「からし、わさび、もみじおろしを大量に混ぜて入れました♪」

『マァ! ステキデスワネ☆』


年越し蕎麦って健康と長寿を祈って食べるんじゃなかったっけ。これ逆に私の寿命を縮めにかかってるよね。
…あれ、何か目の前が霞んで見えるや。
ツゥーンとするこのわさびの臭いのせいかしら。




「「「「いただきまーす!!」」」」

『イタダキマス…』



嬉しそうに年越し蕎麦を食べる皆を見ながら、私もこの殺傷力ありそうな蕎麦に箸をつける。
もちろん、


『…………ッッ!!
ブフっ!! ゲホッ、ゴホッ!!』

「ちゃんと残さず食べて下さいね☆」

『…死ぬわコレっ!!
ちょ、食べてみ!? 一口食べてみ!!?』


私の様子に試食する者は誰一人としておらず…
皆が見守る(見張る)中、新年早々私は人生初の最凶最悪な破壊力を誇る年越し蕎麦を、涙を流しながら食べたのだった。





(『…………。』)
(「………姉貴、デザート一口いるか?」)
(『…いや、いい。今は何も食べたくない。』)
(「………そうか。なんつぅか…お疲れさん。」)




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