この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 親として、子のために。

「ねぇお父さーん、いつになったらお姉ちゃんと遊べるの?」

「さぁねぇ…あと1.2日は無理かもなぁ。」



山吹そっくりの娘に刺され…はや1週間。

左肩を刺されたことでオレは2日ほど寝込んでいたのだが…現在、今度は鯉菜の方が寝込んでいる。
原因は熱だ。
オレが起きた後なんやかんやで喧嘩してしまったオレ達だが…何とか仲直りしたのが二日前。そして鯉菜が高熱を出したのがその日の夜。


「みーんな遊んでくれない…お父さん遊んでよー!!」


そして鯉菜という遊び相手がいなくなった今、退屈そうにほっぺを膨らましてそう言うのはリクオ。


「…わりぃな、お父さんもちょいとこれから会議があるんでねぇ。終わるまで首無の頭で遊んで待っててくれるかい?」

「……また首無かぁ…。…わかった!」


今「また」っつったよな。もう既に首無の頭で遊んでたのかい…なんというか、大変だなアイツも。そんな事を思いつつもリクオの頭を撫で、親父達がいるであろう部屋へと向かう。会議の内容は勿論羽衣狐のこと…それと、最近頻発している襲撃についてだ。










「うわああああああああっ!!!??」

「あはははははははっっ!!」


こんにちは、現在リクオ様にドリブルされている首無です。ちなみに本日二回目です。


「お、おやめ下ぶふ…っ!!」


鬼だ。リクオ様は本当に鬼だ。
オレの顔面が廊下の床と激突したのがおもしろかったのか、アハハと楽しそうに笑っている…魔王だ。


「そうだ! お姉ちゃんのお見舞いに行こう!」

「えっ!? な、なりません!
お嬢は今寝だぁっっ!?」


オレの言葉に耳を傾けもせず、そのままドリブルしながら走るリクオ様。ちなみに、リクオ様の仕掛けた罠で離れてしまったオレの体は今…ダッシュでこちらへと向かってきている。早くこの鬼の子を捕まえて頭を取り戻したいものだ、切実に。


「アハハハ! お姉ちゃーん、お土産……
……………お姉、ちゃん…?」

「なっ…!!!!
何をしてるんですか! お嬢!!」


結局お嬢の部屋へとお邪魔してしまったオレ達だが…衝撃の光景がオレの目に入った。


『っ……くっ……!』

「お止めくださいっ!! 何をして…!!」

『……けほっ!! けほっ…ごほっ!!』


布団の中で寝ていたのは確かにお嬢だ。
だが、お嬢は自分で自分の首を締め付けていたのだ。運が良いことに、オレの体がやっと追い付いたためにそれを止めることができたものの…もしオレの体が来なかったらお嬢は本当に命を落としていたかもしれない。それほど、本気で己の首を絞めていたのだ。顔はもう真っ青で、目や口からは水が流れる程に。首には手の跡がしっかりと残っている。

何を考えて…!!

そうオレが叱りつけようとするとー



『「……チッ…邪魔が入ったか………」』



お嬢の口から、だが、どこか違う者の声が部屋に静かに響き渡る。


『「いくら負傷したとはいえ…奴良組の大将。子や愛する者の死でもう少し弱ったところを討とうと思ったが…残念だ。」』

「! …てめぇもそうか。」


ココ最近増えた奴良組への襲撃…原因は2代目の負傷だ。2代目を襲った奴が言いふらしたのだろう、あの日以来毎日のように襲撃が起こる。
2代目を直接狙う者もいれば、初代や若菜様、鯉菜様にリクオ様まで狙う者がいるのだ。特に寝込んでいる鯉菜様や幼いリクオ様には注意を払おうと言っていたのに…


『「フフ…まぁよい。よくよく考えてみれば、この娘を殺さずとも利用する手がある。貴様らではこの娘に乗り移った私を攻撃できまい?
ならばこの娘の手をもってして、奴良組を潰しにかかるとしよう。」』

「…くっ、卑怯者が…!」


確かに、この者の言う通りだ。
鯉菜様の体に乗り移っている以上…攻撃をすることはできない。どうするべきか、と頭を悩ましたところである事に気付く。

リクオ様は何処に行った!?

一気に血の気が下がるのを感じるが、直ぐに知ってる声が耳に入る。


「てめぇ…誰の娘に手ぇ出してんのか分かってるんだろうな?」

『「!! ……ほう、お姉ちゃんを想ってお父さんを呼ぶとは…随分とできた坊主じゃないか。」』

「……っ…」


そう言って、ソイツはリクオ様をジロっと睨む。
いつもと違う鯉菜様にリクオ様も怯えているのだろう…2代目と一緒に来た初代の影に隠れ、事を見守っている。


「それで、さっさとソイツから出ていってくんねぇかい? できれば傷付けたくないんでねぇ。」


そう言いながら、鯉菜様の首筋に当てた刀にぐっと力を込める2代目。慌てて2代目に、本気か、と問うものの…本人は表情を変えず一言も発さない。その様子にリクオ様も不安になったのだろう…小さな声で2代目を呼ぶ。


『「傷付ける…?
一人娘を傷つけることなんてできまい! 残念だけど、この娘の体はもう私のもんだよ!!」』


そう言う奴に、2代目は静かに目線を下に向ける。そして次の瞬間…


「わりぃな鯉菜、ちょっと痛てぇかもしれねぇが…我慢しろよっ!!」

『「ぐぁっ!?」』 

「に、2代目!?」

「お父さん!? お姉ちゃん!!」
 

きっと目を鋭くして、一気にお嬢を斬った2代目。あまりの予想外なことに、オレだけでなくリクオ様、敵も戸惑う。
斬られたことでパタンと床に倒れるお嬢だったが、斬られた筈なのに血は全く出ていない。それどころか、そのお嬢の体から離れるように出てきた黒い霧…その霧が人の形を成したかとか思うと、それは苦しそうに話し出した。


「まさか…本当に斬るとは思わなかったよ。」 

「痛みはするから、あまりこの手は使いたくなかったんだがねぇ……」


そうか、祢々切丸で斬ったからだ…!!
祢々切丸は人を斬らずに妖怪だけを斬る妖刀だ。だから斬られた鯉菜様は無事で、でもアイツは鯉菜様の体から出ざるを得なかったんだ。
結局、あっという間にそいつを2代目が倒し、なんとか無傷で助かったお嬢だが…
それ以後もなかなか襲撃の勢いは収まらず、お嬢だけでなく若も度々狙われることがあった。

これでは、いつか本当に危ない目に遭ってしまうかもしれない…

そう思った2代目は、ついに〈2代目〉を捨てた。
確かに片腕が以前のように動かなくなったのも理由の一つに入るが、一番の理由は家族の安全のため…。








「実際、2代目を降りたことを回状でまわしたら…だいぶ襲撃の数が減りましたよ。〈奴良鯉伴が死んだ〉〈もう奴良組は終わった〉〈あとは組が消えるのを待つのみ〉…
あの時は色んな噂がされましたね。」

『じゃあ…お父さんが2代目を降りた理由って、』 

「怪我だけじゃなくて、オレ達を守るためだったのか……」


お昼頃、2代目が降りた本当の理由を教えて欲しいとやってきたお嬢と若。あの頃の2人がこんなにも立派に育つとは…感動ものだ。


「お二人が変に責任を感じてはいけない、と口止めをされていたのですが…本当はきっとそのことを知られるのが恥ずかしかったのでしょう。」


安倍晴明を倒して平和が返ってきた今、リクオ様率いる奴良組は以前のように最盛期を迎えている。若もお嬢も奴良組を継がないと言っていた時は、「あの時2代目を降りるべきじゃなかったのでは…」と2代目はよくボヤいていた。だが今は全くの逆である。リクオ様が率いて、影で鯉菜様が支える奴良組を誇らしげにいつも見守っているのだ。


「まさかあの時のがきっかけだったとはな…」

『私とか全然そんなことがあったの知らなかったんですけど…』

「なんか、見直したぜ…」

『うん…なんか、お父さん、って感じだね。』


きっとこの言葉を聞いたら2代目は苦笑いしながら「何だよそれ」とでもつっこむのだろう。どこか照れ臭そうに、でも嬉しそうに笑いながら。


『……さてと、もう暗くなってきたし、そろそろご飯でも作ろうかな。』

「…そういや首無、この話をした事は親父に言うなよ。」

『それね。この感動と感謝、尊敬の気持ちは心のうちに綺麗にしまっとくから。』

「…クスッ、安心してください。
オレ最近物忘れが激しくて…さっきまで何の話をしていたのかもう覚えていないので。」


2代目に隠し事なんて本来ならしたくないが……
こんな和やかな秘密なら、隠し持っていたって問題ないだろう。





(「……あり? 今日のご飯、オレの好物ばっかじゃねぇか」)
(『たまたまだよ』)
(「親父、酒いるか?」)
(「お、おう。
なぁ首無…あいつら何か企んでるのか? 何かいつもより優しい気がして逆に怖いんだが。」)
(「クスッ…さぁ? 何があったんでしょうね。」)




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