▽ 前世の姿〈下〉(リクオside)
「おーい、ちょいとコイツも混ぜてやってくんねーかぃ?」
『ちょっと、その言い方やめてくれない? まるで私がイタイ子みたいじゃない。』
イタクや淡島、冷麗たちと楽しくお酒を飲んでいれば…突如後ろから聞こえてきた声。その声の主は親父と前世の姿をした姉貴だった。
「…なぁ、本当にお前鯉菜なんだよな?」
『そうだけど。』
「…何だか…外見だけじゃなくて中身も大人っぽくなった気がするわ。」
『いや、変わったのは外見だけだから。中身はいつも通りの大人だから。』
「…ケホケホ、やっぱり中身は鯉菜だわ。」
鯉菜にいつも通り接する淡島、冷麗、紫に対し…
「「「………………。」」」
イタク、土彦、雨造は未だ慣れないようで心做しかソワソワしている。
いや、この3人だけじゃない。
猩影(はいつもの事だが)、青と黒、三羽鴉などなど…前世の姿の姉貴に戸惑っている。まぁ、人の事は言えねぇが。
「鯉菜、わりィがお酒注いでくれねぇかい。」
『ん、いいよ。
あっ、お酒いる人言って。ついでに注ぐよ。』
その言葉に、淡島や冷麗を筆頭にして土彦や雨造も名乗り出る。いつもと違う雰囲気の姉貴に酒を注がれ、「す、すまない…」と照れながら謝る土彦と「ギャハハ、サンキュ〜」と照れ笑いする雨造。その2人を見て、距離を取っていた青や黒達も各々の盃を持って姉貴の元へ来る。
「……親父、ワザとだろ。」
「うん? 何がだい?」
「惚けんな。ニヤニヤしやがって。」
『リクオは? お酒注いであげよっか??』
「あ? …お、おぅ、頼む…。」
皆の分を注ぎ終わったのだろう。ニコッと笑い、次にオレの盃に酒を注ぐ姉貴。いつもと違う雰囲気に何だか照れ臭くなり、どこか余所余所しくしてしまったオレ。そんなオレを見て横で笑っている親父は…後で処刑するとしよう。
『あ、イタクもいる? もう空でしょ?』
「……。」
オレに酒を注ぎ終わり、今度はイタクの元へ向かった姉貴。イタクは返事をするでもなく、ただ手元の注がれる酒を見ている。そして注がれた酒を一気に飲み干したかと思いきや…
「……さっきは悪かったな。」
『……え…?』
ボソッと何かを謝罪するイタク。対して姉貴は何で謝られたのか分かっていないようで、混乱しているようだ。
「チッ…腕だよ。………まだ痛むのか?」
『…あぁ、いや、もうそんなに痛まないけど…。
つぅか今舌打ちした??』
「…お前、前世ではどんな暮らししてたんだよ。力もねぇし、たった少し走っただけで息切れしてただろ…運動不足にも程があるだろ。」
『いやいや、確かに運動不足なのは認めるけど…普通の女はこんなモンだって。戦いとは所以も縁もない暮らしだったし。』
イタクの言葉に遠野妖怪は姉貴の前世について興味を持ったようで…「どんな世界だったんだ」「妖怪とかいなかったのか」「平和ボケってやつ?」などと色々と質問している。
そんな会話を聞いたからか…隣で親父が大きく溜め息をつき、「やっぱ鯉菜は普通の女の子として育てるべきだったかねぇ…」と小さな声で呟いた。
何を今更なことを言ってやがるんだこの親父は。
「…でも姉貴って元から妖怪任侠一家の道として生きる気満々じゃなかったか?」
「…そうだけどよぉ…
もし戦い方とか教えずに育ててたら、もしかすると怪我とかせずに済んだんじゃねぇかって。」
「…オレは怪我してもいいのか。」
「…よくねぇけど…男は怪我してなんぼだろ?」
何だそれ。
そんなことを内心突っ込みながら姉貴を見れば、パチリと目が合うオレ達。
そしてー
『…言っとくけど、私はお父さんが反対しても妖怪任侠一家の道に進んでたから。〈普通の女の子〉として育てるべきだったか〜なんて思い悩んでるなら、それ無駄な時間と行為だからやめた方がいいよ。』
「…聞いてたのか?」
『いや。聞こえなかったけど…その腑抜けな面と親馬鹿なお父さんの事を考えたら大体予想つくわ。』
相変わらず察しのいい姉貴の言葉に、親父も「末恐ろしい娘だぜ」と苦笑いする。そしてまたもや「お、お嬢っ、注いでくだせぇ!!」「オレも頼んます!」と注文してくる面々に、姉貴は忙しくもお酒を持って注ぎ回る。
「…よかったな、親父。」
「………おぅ。」
そんなこんなで、
急に前世の姿になった姉貴だが、結局1日でいつもの姿に戻り…
「…やっぱお前まだ子供だな。」
「…前世の姿の方が大人の雰囲気があったな。」
という親父とオレの発言で、オレ達の頭にたんこぶタワーができたのは言うまでもないー。
(「親父…」)
(「…イテテ、何だ…」)
(「今更だが…やっぱり姉貴は普通の女として育てるべきだったと思うぜ。」)
(「…奇遇だな、オレも今それ思い直してたところだ。」)
(「「普通の女だったら拳骨もこんなに痛くねぇ……」」)
(「怪力娘め…」)
(「青田坊かよ…」)
(『……誰が怪力娘の青田坊よ!』)
(「「!! イッテェー!!?」」)
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