この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 前世の姿〈中〉(鯉伴side)

前回のあらすじ。

オレに似た愛娘がなんと前世の姿になってしまい、オレとそっくりではなくなってしまった…。


「そこ!?」

「2代目、大事な事はそこじゃありませんよ。」

「…お前ら勝手に人の心読むなよ。」

「普通に声に出てたぜ、親父。」


遠野妖怪を含め、皆広間に集まっているなう。
勿論話の内容は鯉菜だ。何故前世の姿に変わったのか…ちゃんと父親似のいつもの姿に戻るのか…敵の攻撃なのか…
取り敢えず話し合いを行っている最中だ。


「本当に心当たりないのですか?」

『ないわ。』

「…何か変な物をお食べになったとか…」

『自ら変な物食べたりしないわ。…お父さんに食べさせられた事はあるとしても。』

「2代目、また何かお嬢に変な物を食べさせたのでは?」

「またって何だよ。今回はオレは何もしてねぇぞ。」


全く…失礼な奴らだ。事ある毎にオレを疑いやがって。お前らいつか燃やしてやろうか…。


「…とにかく…息子らにも調べさせますが、情報が入るまでは気を付けるのですぞ。敵の仕業という可能性が消えたわけではないのですから。」


そう言って、三羽鴉に指示を出す鴉天狗。
確かに、鴉天狗の言う通りである。鯉菜を前世の姿にすることで、奴良組は鯉菜の戦力を失うことになる。
やはり…誰かわからねぇが敵の仕業なのか?
そんなことを考えていれば、氷麗ちゃんが鯉菜を励ますように、明るく話し掛けた。


「にしても…何とか15日までには元通りになるといいですね!」

『15日…?』

「はい! 3月15日、お嬢の誕生日ですよ♪」

『………氷麗、今日って何日だっけ?』


そんな氷麗ちゃんの言葉に…鯉菜は何かを思い出したようで、眉を寄せながら問いかける。


「今日ですか? 今日は…10日です!」

『……3月…10日…』

「…? その日、何かあったかぃ?」


10日と聞いて驚愕する鯉菜に、3月10日が何の日だったか考えるも…何も思い当たらない。
誰かの誕生日でもねぇし…何の日だ?


『……が……んだ日…。』

「? 何だって?」

『前世の私が…死んだ日。』


鯉菜の言葉に、広間が一気に静まり返る。


『…あの日…確か旅行に行ってて……そしたら、空港でハイジャックが起きたんだよね…』

「…それで?」

『撃たれて死んだ。』

「…アッサリ言い過ぎだろ!!」


サクッと何事もないかのように言う鯉菜に、思わずツッコミをするリクオ。重い雰囲気になるのかと思いきやコレかよ。……いや、重い雰囲気にさせないよう、ワザと、軽く言ったんだ。


『…そっかァ、3月10日かァ…。
そういえばさっき部屋で身体中が痛かったんだけど…よくよく考えたら撃たれて死んだ時とほぼ同じ時刻だ。あっは、気が付かなかった〜。』

「…だが、今迄は変わったことがないのでしょう? どうして今回は…?」

『…さぁ? どうしてだろうね。まぁ、特に気にしなくても…そのうち元の姿になおるっしょ!』


牛鬼の問いに、ケロッとした様子で返答する鯉菜。正直…ポーカーフェイスが得意の鯉菜が、今一体何を考えているのか全く分からない。
だが、


『取り敢えず、外見は違えど中身は一緒だから! 変に気を遣わないで…いつも通りに接してね!』


同情や憐れみを嫌うコイツがそう言うのだから、いつも通りに接するとしようー









遠野妖怪が遊びに来ている事で、宴会が行われている奴良組。鯉菜が前世の姿に変わったことで一時は騒然としたものの、危険性が無さ気な事が分かり、再び和気あいあいとしている。そんな中、お酒を片手にボンヤリしている女が1人。


「なぁに黄昏ているんだぃ?」 

『……別に。』


その女はチラッとこちらを一瞥した後、直ぐに視線を盃へと戻す。
 

「………」


綺麗に塗られた薄紅色の唇がゆっくりと盃へと近付き、酒を含む。


『………おいしー。』

「…へぇ、前世のお前さんはお酒の味がちゃんと分かるんだな。」

『まぁ、結構飲んでたしね。…強くはないけど。』


その言葉はどうやら本当のようで、美味しそうに飲んでいる傍ら…目は眠た気である。


「せっかく遠野の皆が来てんだ。一緒に飲んで騒げばいいじゃねぇか。」

『やーよ。何か皆緊張してるんだもの。』


唇を尖らせながら言うその言葉にチラッと辺りを見回せば…なるほど、確かに皆緊張している様子だ。


「…まぁ、普段のお前と今のお前の姿が別人のように違うからなぁ。」

『…気にするなって言ったのに。』

「ハハッ、そう怒ってやんなよ。」
 

苦笑いしながら言えば、不満そうな顔をされる。
だがーその不満げに尖らせた唇も、眠た気な眼も、酔いで紅潮した頬も…化粧のせいだろうか、いや、化粧だけじゃない…
大人の雰囲気が、見る者を魅了している。


「(こりゃあ…仕方がないねぇ。)」


そして、大人の女性の雰囲気に所々まだ幼さが混ざっている。この独特の雰囲気はこの歳ならではのものだ…
しかもそんな彼女の中身が、高校生の鯉菜なのだから…皆が戸惑うのも無理はない。けれど、それを説明して「なるほど」と鯉菜が納得する訳がないので……


「鯉菜。」

『…ん?』

「あん中にオレ達も混じるぞ。」

『…はぁ? ……ちょっ、ちょっと!?』


グイッと腕を掴めば…いつもと違う腕の感触に慌てて掴む手の力を抜く。
そうかー
前世のお前は…戦いとは所以のない暮らしを送っていたんだな。鯉菜は妖怪任侠一家としての道を選んだから〈違う〉が、普通の女の子は簡単に折れそうなくらい腕が細いんだ。

そう思うと、〈普通の女の子〉として育てなくてよかったのだろうかという考えが頭を過ぎる。そんな疑念や後悔の気持ちに蓋をして、オレは騒いでいる遠野妖怪達の元へ向かった。





(「(リクオは男だからまだいいが、鯉菜は女だ。…本当にこれで良かったのか…?)」)
(『……?(…あれ…何か様子が変…?)』)




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