▽ 前世の姿〈上〉
「おーい、鯉菜ー?」
「何で出てこねぇんだよー!! せっかくオレらが来てんのにー!!」
『ちょ、本当、ゴメンけど出られないんだって!!』
どうも皆さんこんにちは。現在大大大大大ピンチに陥ってる奴良鯉菜です。
「…鯉菜のやつ、どうしたんだ?」
「具合でも悪いのかー?」
「ついさっきまでピンピンしてたのに?」
「ケホケホ…何か怪しいわ。」
部屋の前には遠野妖怪の土彦、淡島、冷麗、紫がいる。
何故彼らが奴良組にいるのか…それはただ単に彼らが暇人だからである。だって奴良組に来て開口一番「暇だから遊びに来てやったぜ!!」って超笑顔で言ってきたんだぞ! かなり暇だったに違いない……。
じゃあ何故彼らが私の部屋の前で騒いでいるのか…それはー
「引き篭らないで一緒に飲もうぜー!」
「せっかく美味しいお酒も持ってきたんだ。」
「無理に飲まなくてもいいから、取り敢えず一緒に話しましょうよ。」
私が急に引き篭り始めたからだ。
別に好きで引き篭もっているのではない…むしろ私だって本当は皆と混ざって盛り上がりたい。
だがー
『(何で私…前世の姿になってんだよ!?)』
鏡に映る自分は奴良鯉菜の姿ではなく、懐かしき前世の大人の私の姿…。何故この姿になったのかは全くもって分からない。ただ…雪女である冷麗の隣で話していれば身体が冷えてきたため、羽織りを取りに自室に行ったのだ。すると突如…謎の激痛に襲われ、気が付けば前世の姿になっていた。これぞ真の摩訶不思議!!
どうしよう
さっきからこの5文字の言葉がずっと私の脳内で繰り返されている。
何かいい言い訳がないだろうか…
必死に脳内で上手い言い訳を考えていれば、どこからともなく聴こえてくるドタバタ音。
…あれ、何か近づいて来てね?
「待ちやがれこのクソ親父!!」
「やだね、悔しいならオレを捕まえてみな♪」
大きくなる足音と共に聴こえたのは、夜リクオとお父さんの声。またお父さんが悪戯でもして怒らせたのだろう…リクオがお父さんを追いかけているようだ。
『(……いつもの事だから無視しよう。
それより今は…この状況を何とかしないと。)』
…後で思えば、この油断がいけなかったのかもしれない。
「このっ……
いい加減にしやがれこのクソジジィがっ!!」
「ぐえッ!!?」
『に"ゃっ!?』
突如、私の部屋の障子を突き破って現れたのは…フライングヤクザキックをしたリクオとそれを喰らったお父さん。
運良く障子から離れていた私は潰される事はなかった…のだが、
「……あれ? 誰だアレ。」
私の姿にいち早く気付いた淡島の言葉に、リクオやお父さんを含み、皆の視線が私に集中する。
『っ!!
す、すみません!!』
「えっ、あ……おいっ!?」
何で私謝ったんだ!?
自分で自分にツッコミながらも、なんとなく居た堪らなくなり逃げる。何処かへ逃げる。取り敢えず逃げる。全力で逃げる。
だが、前世の姿になった私はどうやら外見だけでなく、体力も前世のレベルになったようで…
『……ッ苦し……ハァッ…』
早くも体力切れ…(前世の)日頃の運動不足がバレバレである。息切れで苦しい胸を押さえながら、取り敢えずも廊下を歩く私…。
そして曲がり角を曲がろうとすればー
「……おい、誰だ? テメェ…」
『っ!!』
…スッと私の首に宛がわれたのは、よく研がれている鎌。顔を上げれば、眉を寄せながら私を見るイタクがいた。
今日は厄日かコンチクショー!!
そして更に悪いことに、どうしたものかと考えていれば…聴こえてくる数々の声。
「何処だー!? 何処に隠れたー!?」
「人間だし…そんな遠くには行ってないと思うけれど…。」
「にしても本当に見覚えないのかい? リクオ」
「ねぇよ。親父こそ…まさかどっかで作った女とかじゃねぇのか?」
「ちげぇよ。オレは若菜一筋だ。」
……なんというバッドタイミング。
目の前にいるイタクから「アイツらが探してるの…お前だよな?」という無言の視線をさっきから送られているなう。
こりゃあもう…一か八かだ。
『ごめんなさい!!』
「待て。」
一か八かで逃げてみようと思ったが…呆気なく直ぐに捕まりました。
つぅか……
『い、痛い痛い痛いっ! 放してっ!!』
「動くな。」
ギリギリっとキツく拘束される腕に、思わず漏れる苦痛の叫び。勿論、そんな大きな声をあげれば皆にも聞こえるわけで…
「!! いたぞ、あっちだ!!」
「イタクじゃねぇか、ナイス!!」
早くも皆に見つかり、遠野妖怪に奴良組の妖怪の面々も集まってくる。
そして私を囲む多くの妖怪…
あぁ、今日はなんて日なんだ。いつも見慣れている筈の皆が何故か…今日は何故か畏ろしく感じてしまう。
そして妖怪の群れの中から1人の男が出てくる…
リクオだ。
「ちょっと顔拝ませてもらうぜ。」
『ッ…』
長い髪で顔を隠すようにし、下を見つめていた私。そんな私の顎を掴み、クイッと強制的に顔をあげさせたリクオ…
セクハラ行為で訴えてやろうかコンニャロー。
「…やっぱ見覚えねぇな。誰だ、アンタ?」
「…鯉菜のお友達かい?」
「………そもそも姉貴って友達いんのか?」
『いるよ! 少ないけど!! 失礼だな!!
……あっ…』
……バカー!! 私のバカー!!
私の発言にキョトン顔をする皆。しかし、冷麗の「もしかしてアナタ…鯉菜?」という問いに、皆のキョトン顔が一気に驚愕の顔へと変わる。
「…姉貴、なのか?」
『…まずは顎クイしてるこのイヤラシイ手を退けるのが先じゃないかね、リクオ君。』
「……鯉菜、だな。」
パシンと手を叩き落としながら言う私のセリフに、ここにいる皆が「鯉菜様だ」「お嬢に違いない」と頷き始める。
…私のイメージって何なの!?
そして私の運命やいかに!!?
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