この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 眼福

『ゃ…ッ、ちょ…ちょっと待って! あっ…!』

「観念しな…もうここまで来たんだ…」



視界に映るのは天井…と、お父さん。



『ま…まだっ…心の準備が…ッ!!』

「大丈夫だ、直ぐに…慣れる。」



解かれる帯……乱れる着衣……肌ける肩……



『は…恥ずかしい……ンだけど…』

「……おいおい、あんま焦らすなよ…」



1枚、また1枚と……身に纏う物がなくなっていく。そしてー
ついにお互い、一糸もまとわぬ姿になる…



「……いくぜ、鯉菜…」

『…………ッ』



ガララッ



「オメェら!!
鯉菜も一緒に風呂入るぞォォォ!!」

「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」

『やっぱオレ無理ーーーーー!!!!』



ハイ、皆さま、おコンニチハ。
冒頭からびっくりした? びっくりしただろ!?
……実を言うとオレもびっくりだ。
ところで今「オレ? 私の間違いだろ」って思った方…間違っちゃぁいませんよ。


『だって今…男の子だもん☆』

「おーい、頭大丈夫か?」

『大丈夫な訳ねーだろ。』


そう…
オレは今文字通り、男になっているのだ。あの可憐な女子力高い乙女チックな鯉菜お嬢様はもういない……!!
今ここにいるのは…リクオの髪色を鯉伴のものにしたような、ガチでお色気ムンムンでイケ面な鯉菜王子だ!!


『マジでオレ………イケ面過ぎるだろ!!』

「そりゃあオレの子だからな。」

『そっすか。』


ちなみに、何故このような体になったのか…話しは3日前にさかのぼる。



ーーーーーーーーーー



「なぁ、鯉菜」

『なーにー』

「これ要らねぇか? 昨日お菓子もらったけどよ…オレ、あんまりこれ好きじゃねぇんだよな。」

『…饅頭か。私もあんま好きじゃない。』

「いやいやいや、これ美味しい饅頭らしいから、食えって!」

『矛盾してるんだけど!?美味しいとか言いながらあんま好きじゃないとか言ってんだけど!?アンタが食べろよ!!』

「いや本当、オレが食べても誰も得しねぇんだよ!!でもお前が食べたらオレ得だから!!」

『何その怪しい問題発言!! 明らかに何かあるだろ!! アンタが食え!!』


お父さんは私に饅頭を食べさせようと、私は食べるまいと…ギャーギャー醜い取っ組み合いが始まる。
そして…


「…うわっ! ゴキブリだ!!」


私の直ぐ隣を指差すお父さんに、饅頭のことをすっかり忘れて、ゴキブリから離れようとする。


『いやァァ!!やだやだやだやだどこどこどこ!?どこっ!?付いてない!?付いて…なむー!?』


ゴキブリが付いてないか確認するため、自分の背中やら頭やらを必死に叩いていれば、口に饅頭を突っ込まれる。


『ふおっ!?むーーー!!』


慌てて口に咥える饅頭を取り出そうとするも、口を塞がれてそれが叶うことはない。


『…モグモグモグモグ』

「美味しいか?」

『…モグモグモグモグ』

「……やっぱ美味しくないか?」

『…モグモグモグモグ』

「どっちだよ!!」


口を押さえられてるので、諦めて仕方なく食べる。だがやっぱり饅頭は好きじゃない。唾液が吸い取られて苦しい。


『………ゴクッ……あぁー、お茶欲しいー。』

「おう、ホラよ。」

『ねぇ、ゴキブリは嘘だったの?』

「当たり前だろ?」

『…ゴキブリに喰われてしまえ。』

「ぐふっ!!」


取り敢えずお茶を飲み干し、肘鉄を食らわす。


『……っ?』


その時僅かだが身体に少し痛みが走る。だがそれは一瞬で気のせいだと思っていた…が、


ー5分後


『なんじゃこりゃぁぁあ!!!』

「おお…立派になったなぁ…」


身体全身が痛みに襲われ、床に伏せっていれば……


『なんか変だと思ったんだよ〜…手とか腕とかごつくなってさぁ! 身体も重くなったし…!! 終いには、股に何か生えたし!!! 何!? 何で私男になったの!?』


そうー、気が付いたら男になっていたのだ。



ーーーーーーーーーー



……ということで男生活が始まったのだが、


『効果が3-5日とか…マジで有り得ねぇ。つぅかオレが男になるとか…誰得だよ。オレ得だよ。』

「姉貴、案外楽しんでるだろ。」

『リクオ。兄貴と呼べ。』

「……兄貴、すっげぇ顔ニヤけてんぜ?」

『リクオ。オレはやっぱり男に産まれるべきだったんだと思う…女より男の方がしっくりこねぇか?』

「まぁ、確かにな。」

『リクオ…そこは嘘でも女で良かったと言うべきだぞ。』


のほほんとお風呂に二人並んで浸かりながら、兄弟で仲良く話をする。


「それより姉…兄貴。今まで風呂、一人で入ってたんだろ? なのに何で今日は一緒に…?」

「オレが誘ったんだよ。」


髪を洗い終えたのだろう、オレの隣にお父さんが座る。


『…誘ったって言うか、ほぼ強引だった気がするんだがなぁ。』




ー10分ほど前



「鯉菜!! 一緒にお風呂入ろうぜ!!」

『お父さん…わた、オレの中は一応女だから。流石にそれはお応えできないね』

「いいじゃねーか、こんな機会滅多にねぇんだからよ!! それに…」

『?』

「胸板を堂々と見れるチャンスだぞ…!(ボソ)」

『!』


胸板と首元フェチな私がそんな誘惑に勝てる筈もなく…


『………し、仕方ないなぁー!!』

「よし!! じゃあ行こうぜ!! リクオや鴆も…他の皆もちょうど入ってる頃合いだしなぁ」


そんなこんなで、超絶ニヤニヤしながらお風呂場に行くも…急に恥ずかしくなって、冒頭に戻る、ってわけだ。



『はぁ……まぁ、せめてもの救いは皆腰にタオルを巻いてくれてることですかね!』

「お前が付けろって言うから付けてるんだぜ? いつもだったら誰もこんなんしねぇよ。」

「兄貴も慣れたんじゃねぇのか? トイレとかするのに…嫌でも見るだろ。」

『………あくまでも自分のにしか慣れてねぇよ』

「……慣れたいならタオル取るが?」

『ンな事してみろ。へし折るぞ。』


冗談でぃとケラケラ笑うお父さん……の胸板はムキムキし過ぎてなく、でも筋肉質で、エロいです。


『…以上、父・鯉伴の胸板でした。』

「本当に観察すんのかよ!!」


ポカっと頭をリクオに叩かれる。そんなリクオの胸板は……


『いだだだだだ!!?』


観測不能。
ネックロックによってリクオの胸板が見れません!!でも…でもぉ…!!


『ガッチリとした鍛えられた筋肉を感じられ…グフぅっ!!?』

「兄貴だといいな。遠慮なく絞められる…!」


なんてこった…! リクオは…私が姉だったから今まで優しくしてたのか! 本当に私が男に産まれてたら、遠慮なく関節技を決められてたのかもしれない…!!


『…初めて女に産まれて良かったと思ったよ』

「…良かったな。」


3人でワイワイと騒いでいれば、青や黒、首無、鴆がこっちに来る。


『……ッひゃーーーっ!鴆が1番エロイね!!』

「何がだよ!!失礼な奴だな…」

『いや、褒めてんだよ。身体が1番エロかっこいいです。抱かれたい程に。いっでぇ!!』


容赦なく殴ったぞ、お父さんもリクオも!!


「いや、お嬢!!よく見てくだせぇ!!ワシの方がムキムキですぜ!?」

「待て青…お前のはムキムキ過ぎだ。この黒田坊の方が、ちょうどいい具合だ…ですよね!?」


ナニコレ…
お風呂場にてボディビルダーコンテストが始まったんですけど。結果は鴆で即決ですけど。


『それにしても…眼福、眼福…』


鴆はもちろん、リクオやお父さん、首無、黒と青の胸板やら鎖骨周りやらくびれまで見れるなんて…なんて幸せなのでしょうか!! 鼻血を出さない私は偉い!!


『ここに牛鬼がなー加わってたらなー。あと、イタク!!イタクも遠野でチラ見した時いい胸板してたねぇ…やっべテンション上がってきた!!』


止まらないニヤニヤをもう隠す事もせずに、この幸せを噛み締める。隠す事もしないってか、隠す事ができないんだけどね!


『…あっ?』


ニヤニヤと男裸フェスティバルを楽しんでいれば、突如、謎の違和感に襲われる。
そして…


ボンッ


『……ん??』


目の前が湯煙で包まれる。周りも急に何が起こったのか分からないようで、敵襲かと騒然する。
だがー


「!! ゴフウゥッ!!」

「なっ…!?」

「みみみ見てやせん!! 見てやせんからぁ!!」

「セーフです! 煙で何も見てません!!」

「姉貴…!?」

「………へぇ…やっぱ昼と夜じゃちげぇな」

『………ぇ…なっ、はぁぁあ!!!??』


顔を背ける男共、私を背に隠すリクオ、そして成程と1人頷く鯉伴。各々の反応でようやく何が起こったのか察する…そしてやはり、


『女に戻ってる…!!』


何でこのタイミングなんだぁぁあ!!


『つぅか1人反応がおかしいだろ!!』

「グフおおっ!!」


お父さんの顎にアッパーをかまし、取り敢えず明鏡止水でお風呂場を出る。


『……せめてタオルを腰だけじゃなくて全体に巻くべきだった。』


反省をしながら寝間着へと着替える。
最後は問題あったが、でも…


『……失った物より得た物の方がデカい…!』


これはもう一生の思い出だ…
流石任侠一家やってるだけあって、皆ガタイが良かった…!
この思い出を忘れるまいと、皆のセクシーな姿を脳内画像フォルダにしっかりと保存するのであった。



(「おはよう…って、お前いつ女に戻ったんだ」)
(『はぁ? 昨日戻ったじゃん』)
(「…そういやオレ、お風呂入ってた途中から記憶ねぇんだが…何でだ?」)
(『……………さぁ?』)




prev / next

[ back to top ]


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
×
- ナノ -