▽ 親子喧嘩
『いい加減にしてよっ!!!』
「何でお前は言う事をきかねぇんだ!!」
『そっちこそっ、何でもかんでも自分の思い通りにしようとしないでよ!!』
「言う事をきけねぇならもう…出てけ!!」
そう喧嘩したのは5日前……
そして私は今渡り鳥をやっている。
前世なら「出てけ」と言われ出て行ったことなど一度もない。母が私を探すなんてこと絶対にしないのを分かっていたし、出ていったとしても頼れる所が何処にもなかったからだ。だから、追い出されても玄関先でスタンバってたことがしばしば…。
でも今は違う。
『……今日は狒々様の所にお邪魔しようかな』
家出をしてから転々と移動をしている。化猫屋に行ったり、鴆の所に泊まったり…牛鬼のところにも行った。相手からしたら家出娘が来て迷惑かもしれない…でもそんな事今は知らん!!
『お邪魔しまーす』
声をかければ、1人狒々の組の者が出てきた。そのまま事情を話し、中へと入れてもらう。
『おっつー、狒々様。元気?』
「やや?これはこれは…鯉の坊の嬢じゃねぇか。どおしたんじゃ?」
『家出したから泊めて欲しいの。』
「キャハハ!相変わらず、嬢は面白いのぅ!
何があったか話してみぃ!!」
『何でそんな楽しそうなんだよ…』
一応ツッコミを入れつつも、お父さんと喧嘩した理由を話す。
『最近、スカートが短いとか…ちゃんと第一ボタンまで止めろとか…服が派手とか…うるさいのよ。毎日毎日そんな小言を言われてて、こっちもその度に言い返してて…ここのところずっと微妙な空気だったの。』
「……確かに、うるさそうじゃな。」
『でしょう?
それがこの間…耳にピアスあけて帰ったら、ブチギレられたの。終いには、治癒で穴塞ぐからピアス取れとか言い出したのよ!?』
「…ピアスか…学校側は大丈夫なのか?」
『大丈夫よ。元からそんな厳しくないし。
髪染めたりしてピアスジャラジャラしてる奴に比べたら全然可愛いもんじゃない!?マシだよこんなの!!』
まぁ…高校で開けるのはどうかと自分でも思うけど、でも学校が大丈夫だからノープロブレム!
『オシャレしてるだけなのに、チャラチャラしてるって言うんだよ!?私のこのレベルで、チャラチャラよ!?じゃあ世間一般のチャラチャラは何なんだよ!!チャラが何個つくんだよ!!』
「あれ…鯉菜様?」
『猩影…!猩影君なら私の気持ち分かるよね!!ぶっちゃけ私よりチャラいじゃん!!』
「なんの話っすか!?」
猩影に、狒々に話した事を再び説明する。
すると…
「オレ…分かりますよ!!お嬢の気持ち…!!そもそも親父たちは時代遅れなんスよ!!」
『!!
だよねぇ!?そもそも、江戸やら平安やら知らんけど、何百年も前の感性で現代っ子を非難するなよって話だよねぇ!?』
「それっス!!
昔の時代からしたら、そりゃオレ達の世代はチャラチャラしてるように見えるかもしれねぇけど…オレ達からしたらこんなの序の口ッスよね!!」
神だ…もう神だよ猩影君…!!君だけだよ私の味方は!!ひょんなことから意気投合した私達はガシッと手を組む。
『猩影!!』
「はいっ!!」
『お父さんを説き伏せるの!!手伝ってくれるね!?』
「はいっ…って、えええええ!!!??」
『お父さんのところに行って、論破してきて!!私はここで狒々様の護衛をしとくから!!任せろ!!』
「いやいやいやいや!!無理っスよ!!流石にそのお願いは無理ッス!!」
『氷麗に猩影のこと勧めとくから!!…多分』
「えええ!?何でその事をっ!!てか多分かよ!!」
『お願いー!!私、お父さんとガチであんな喧嘩したの…初めてなの!!どうすればいいか分かんないんだもん!!』
「普通に謝ればいいんじゃないっすか!?」
『何で私が謝るのよ。私は悪くない。』
「(……確かに。)」
ここで会話が一旦途切れ、部屋が静まり返る。だが、その静けさは狒々様の言葉で壊される。
「…鯉菜嬢や…」
『…なによ……』
「………迎えが来とるぞ?」
そう言いながら私の後ろを指差す狒々様。どうせ烏天狗だろうと思いながらも振り返ればー
『…………………時代遅れで自分の価値観を押し付けてくるウザったい過保護親父がいったい何の用ですか』
その言葉に狒々様はキャハハと笑い、猩影はワタワタと慌てている。キャハハじゃねーよ狒々様。
「…ワリぃな、狒々のオヤジ。こいつが迷惑かけちまって。猩影もこいつが迷惑かけたろう。」
「別にぃ。ワシぁ楽しかったぞ」
「い…いえ…そんなことっ…!!」
謝るお父さんに、狒々親子は気にしてないと言う。
てか何だよ、元はと言えばアンタが元凶だろ。
「おい。帰るぞ。」
『ちょっ……離せよ!!うわぁっ…!?
……ひ、狒々様助けてっ!!猩影ヘルプ!!』
プイッと顔を背ければ、急に俵担ぎされる。暴れようにも暴れることが出来ない。慌てて狒々様達に手を伸ばすも…
「キャハハハハ! 鯉菜嬢、また遊びに来いよ〜」
「が、頑張ってください…!」
バイバイと手を振る狒々様に、ガッツポーズする猩影。お前ら今度嫌がらせしてやるからな!
『………。』
「………。」
狒々様の屋敷を出れば、お互い何を言うでもなく、沈黙のまま朧車の元へ向かう。
そして…
『…痛っ…!』
乱暴に朧車の中に放り投げられる。その後普通に乗ってきたお父さんに文句を言おうとするが…
『……ッ』
そのまま私を組み敷いてきたことに驚き、声が出なくなる。
〈こわい〉
素直にそう思った。キレてはいないし、激怒しているわけではない…でも、私を見る目が冷たかった。
「……お前、自分の立場分かってんのか。」
『……子供は〈親〉に逆らうなって言いたいの』
こわい、でも…譲りたくない。今回ばかりは納得出来ないのだ。
「そうじゃねぇ。……何で出て行った。お前はオレの娘であると同時に、リクオの姉なんだぞ。狙われてるっていう自覚を持てねぇのか!」
『……でも、そっちが出てけって言ったんじゃない!』
「だからって本当に出てくバカがいるか!!大体…女がこんな夜遅く出歩くんじゃねぇ!!」
『そんなの今は関係ないでしょ!?』
「関係なくねぇ!!テメェは危機管理がなってねぇんだよ!!夜遅く出歩くのもそうだが、ミニスカートとかショートパンツ履いたり…肌露出し過ぎなんだよ!!」
『だから…着物世代のお父さんからしたら、そう感じるかもしれないけどっ!洋服が当たり前の現代っ子からしたら、そんなの普通のことなの!!街を出歩けばわかんだろ!!』
「街を出歩いたから分かってんだよ!!
あんな太腿やら胸出して…そんなの襲ってくれって言ってるようなもんだろーが!!」
何を言っても頭ガッチガチなお父さんに、段々イライラのパラメーターが鯉のぼり。
……鯉さんだけに。
『じゃねーよ!!
……〜ッ めんどくせっ!! 親父超めんどくせっ!! つうかさ、いい加減退けよ!! 邪魔!!』
「じゃああんな露出した格好すん…」
『うっぜぇぇええ!! 朧車!! このクソジジイ振り落とせ!! ウザってぇわ!!』
落とせだの、落とせないだの、いい加減にしろだの……ギャーギャーと皆互いに叫びながらもようやく本家に着く。
ゼーゼー息を切らしながら、朧車を出れば…
「おかえり! 鯉菜ちゃん!!」
『お母さん……た、ただいま』
笑顔で迎えてくれたのはお母さんだった。ちなみに、何故かお母さんの後ろには女妖怪がゾロリと揃っている。
『……お母さんどうしたの? なんか…百鬼夜行を率いってるみたい。』
「うふっ!鯉菜もそう思う??私もそう思ってたの〜楽しいわね!!」
お母さん無邪気で可愛いな!
『それで…総出でお出迎えしてどしたの?』
「ん? 鯉菜のために、一肌脱いでみました!!
……アナタ、ちゃんと鯉菜と仲直りしたの?」
お父さんの元へ歩き、ニッコリと聞くお母さん。一方のお父さんは顔を背けている。
…お父さん、汗酷くね?
「……仲直り…しに行くって言った筈よね?」
あれ…ニコニコしてるのに何かこわいぞ。
「ねぇ…鯉伴さん。
私も、毛倡妓ちゃんや氷麗ちゃんも…ここにいる皆! 鯉菜を支持します!!」
『へっ?』
「なっ…!」
お母さんの言葉に驚く私、そしてたじろぐお父さん。そんなお父さんに、お母さんだけじゃなく女妖怪が皆ブーイングする。
「鯉菜様は至って普通ですよ!!」
「女の子なんだからお洒落したいに決まってるじゃないですか!!」
「お嬢が怒るのも当然です!!」
終いには…
「「「2代目が折れるまで、私達は家事を全て放棄いたします!!」」」
という女妖怪の言葉に、傍観していた周りの者も慌てだす。
「2代目!!どーするんですか!?」
「ここはもう…折れた方が…!」
「お嬢も年頃の娘ですし…仕方ないのでは…」
などとお父さんを説得し始める。
…なんかお父さんが不憫になってきたわ。
「鯉菜、あなたの好きなアイス買ってあるわよ♪」
『食べる』
お母さんに背中を押されながら、皆と一緒に部屋の中へと足を運ぶ。
すると…
「り……鯉菜!!」
お父さんに呼ばれ、足を止める。
『………』
残念ながら私は無敵なうです。生活と家計を支える母および女妖怪が味方についてるから…初代から三代目まで誰にも負ける気がいたしません!
「…………悪かった(ボソッ)」
『………で?』
「はっ?」
『私は別に謝って欲しいんじゃない。その異常な過保護をやめて欲しいだけ。だからもう口出ししないで。』
「………ああ。」
絶対この人納得してねぇよ!!口尖らしてるし、声が不満気じゃん!!周りの男共も「2代目!!」って咎めてるよ!?
どんだけ手がかかる親父なんだ…。
『……ハァ。
大体、襲われるだのなんだの言ってるけどさ…襲われそうになれば相手をぶち殺せばいいだけでしょ。理性の欠片もないオスに大人しく襲われる程…私弱くないから。
……それとも…試してみる?』
鉄扇を取り出して言えば、お父さんは一瞬キョトンとしたものの笑いだす。
「…ククッ……確かに。お前さんはそんな大人しくやられるタマじゃねぇな。じゃじゃ馬娘だってこと、すっかり忘れてたぜ。」
『……じゃじゃ馬は余計だっての。』
ようやくいつも通りの雰囲気になり、周りもホッとする。
お母さんや女妖怪に改めてお礼を言えば、「私達も女ですから!」と答えてくれた。嬉しい。そしてかっこいい。
この日以来、完璧ではないものの…
お父さんのうるさいファッションチェックはなくなったのである。
(『そもそも…中学の時はそんなにうるさくなかったのに、何で急にうるさくなったの?』)
(「……別に。」)
(「ふふっ、鯉菜が女の子から女性っぽくなったから…心配なのよねー?」)
(「……若菜…そりゃ言わねぇ約束だろ…」)
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