▽ ハッピーハロウィーン〈下〉
「およ。
お友達かい? 鯉菜。」
『…何言ってるの。これリクオだよ。』
「……リクオ?」
鴆をしばいた後、廊下を歩いていればお父さんに出会った。どうやら女装したリクオに気付かず、私の友達だと勘違いしているようである。
…余談だが、
リクオを魔女っ子にさせる前に、既にお父さんには私の黒猫姿を見せている。そのため、私の黒猫姿にお父さんが親バカを発揮することは今はもうない。何故なら既に発揮したからだ…(非常にウザかったのはまた別の話)。
「……………」
「…父さん?」
『……あー、リクミちゃん、逃げた方がいいかもしれないにゃん。』
リクオの魔女っ子姿を見て固まっているお父さん。そんなお父さんに、ふしぎそうに声をかけるリクオだが…
次の瞬間、
「リクオおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「ぎゃああああああああ!!!!」
『(やっぱり…)』
光の速さでリクミちゃんに抱き着くお父さん。「可愛い」「萌える」と連呼するお父さんの鼻の下は完全に伸びている。
「リクオ! お前何で女に生まれなかったんだ!!」
「ちょっ、気持ち悪い! 離れて!!」
「グフッ!!」
あぁ、あれは鬱陶しいぞ。お父さんが殴られるのも無理はない。そして可哀想なリクミちゃん…巻き込まれたくないから助けてあげないけど。暖かい目でその様子を見ていれば、突如手首をグイッと引っ張られる感覚に襲われる。
そしてー
「…り、リクオも可愛いが鯉菜も可愛いぞ!!」
『寄るな鬱陶しい。』
「グハッ!!」
私を引っ張り込んだのは勿論お父さんで…私とリクオを抱き締めて頬ずりしてくる。そんな暑苦しいお父さんにアッパーをかました私だが…
「…くっ、オレは吸血鬼なんだぜ。
こんな可愛い娘達をただで返すわけがねぇだろ? 大人しくオレに噛まれ…」
『「やめろ変態吸血鬼ぃぃぃ!!」』
「グボァァァァァァ!!」
私達の攻撃をものともせず、八重歯をチラつかせながら噛もうとしてくるお父さん。どんだけメンタル強いんだよ!!…と、内心思いながらも、リクミちゃんと協力して変態吸血鬼にプロレス技をかます私達。
『……ハァ…ハァ…つ、疲れた…』
「…ッ…鴆と言い、父さんと言い、何なんだよ奴良組のハロウィンは…」
ようやくおちた父さんに、私とリクミちゃんはゼェゼエ言いながら息を整える。お菓子を貰うことも出来ず、ただひたすら逆に悪戯されただけな本日のハロウィン。ストレス発散どころかストレスたまったじゃないかコンチクショーめ!
『…悪戯するつもりだったのに…全然悪戯できてないじゃん!』
「ホントだよ…………、あ。」
『どうかした? ………あぁ、いいね。』
ムスッと口を尖らせて嘆く私を他所に、突如何かを思い付いた様子のリクミちゃん。不思議に思い、リクミちゃんの目の先を見れば…屍状態のお父さんがいた。ピクリとも動かないお父さんに、私もリクミちゃんの口角がニヤリと上がる。
『Trick or Treat…お菓子をくれなきゃ、』
「悪戯するぞっ!!」
勿論、屍状態のお父さんに声をかけても返ってくるはずもなく…私とリクミちゃんは今迄のお返しとばかりに悪戯をしたのだった。
ーえ? どんな悪戯したかって?
それは…
(「…おい、オレの顔に落書きしたの誰だ。」)
(「…何でオレのタンスん中がビー玉で埋まってんでぃ。」)
(「オレの手ぬぐいが全部虹色に染められてやがる…」)
(「オレの…(以下略)」)
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