この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ ハッピーハロウィーン〈上〉

「いやだァぁああああああ!!!!」


とある日の昼頃…奴良組本家に大きな悲鳴が響き渡る。その声の主はー


「何でボクが魔女の格好をしなくちゃいけないんだよ!! ボク男だから!!」


顔を真っ青にして全力逃走するリクオである。


『仕方ないにゃ。
氷麗は小悪魔だし、毛倡妓はマミー。お母さんは…吸血鬼の鯉さんに咬まれた可哀想な女の子役をやってるにゃん。
となると…私の御主人様をする役はリクオしかいない!!』

「だからって何で女装しなくちゃならないんだよ!!」

『黒猫のご主人と言ったら魔女っ子にゃん☆』


…そう。
実を言うと、今日はハロウィンなのだ。既に妖怪な私たちは仮装しなくても良さ気だが…まぁそこは奴良組なので。騒ぎが大好きな奴良組故に、皆何かと仮装をしている。


『せっかく私が猫になったんだから!! 隣に可愛い魔女がいないと勿体無いじゃん!!』

「何が勿体ないの!? そのままで充分だよ!!
てゆうか魔女じゃなくても魔法使いになればいいことでしょ!? それならボクだってできるし、わざわざ女装しなくてもっ!!」

『魔女じゃなきゃダメにゃん☆』

「にゃん☆じゃないよ馬鹿!!」


誰か助けてくれと叫びながら逃げるリクオだが、いかんせん…皆リクオの女装姿を見たくてスルーである。


「つぅか姉ちゃんが魔女やればいいじゃん!! ボクが猫やるからさっ!!」

『何言ってんだにゃ…
男が猫耳しても萌えないし、女が魔女っ子の格好しても何も面白くないでしょうが! にゃん♪』

「最後にニャンって付ければ何でもOKだと思うなよ!!…って、うわあぁっ!!?」

『ふはははは! この私から逃げられると思うてか…この愚か者め!!』 


結局、妖怪姿に変化した私の勝利!
いやぁ〜、私は日夜関係なく妖怪に変化できてよかった!! 心から嬉しく思うよ!!


『…というわけで、レッツチェンジ!!』

「た、助けてええぇぇぇ!!!!」


助けてええぇぇぇ…
助けてぇぇ…
助け…ぇ……


リクオの虚しいこだまが響き渡る中、
こうして奴良組のハロウィンパーティの準備はコツコツと進められ…
そして遂にー



「トリックオアトリート!!」

「お酒をくれなきゃ悪戯するぞー!!」

『お酒じゃなくてお菓子だっての。「お」しか合ってないじゃん…ねぇ? リクちゃん。』

「…そーですね(棒)」


常世の闇に綺麗に輝く月。その月に照らされながら、小妖怪にツッコミを入れたのは黒猫の格好をした私、そして私の隣には…
 

『…元気ないよ? リクミちゃん。』

「…ははは、本当、誰のせいだろうね。」


可愛い魔女の格好をした弟のリクオが、生気の抜けた顔をして立っている。


『せっかく似合ってて可愛いのに…ほらっ、笑顔笑顔! 女の子は笑顔が大事って言うでしょ?』

「女じゃないし。それに、その言葉…
女である姉ちゃんにそのまま返すよ。」

『どういう意味だにゃん。』


失礼な奴だな。
まるで日頃の私が常に仏頂面してるみたいな言い方じゃないか。ニコニコはしてないけど、ブスッともしてないつもりだぞ。
 

『まぁいいや…今宵はハロウィンだからこの不満を悪戯で発散するにゃん。』

「…ハロウィンの定義間違えてね?」 

『取り敢えず、適当にどっか歩こう。そんで会った人に悪戯しよう。』

「悪戯するの前提になってるけど!?」


全く、キャンキャン煩い魔女っ子である。男の娘なら細かい事は気にするなよ。これじゃあどっちが女で猫だか分かんないじゃないか!
…と言っても猫はキャンキャン鳴かないけれど。


「そうだね。
猫はキャンキャン鳴かないし、それにボクは男の娘じゃなくて男だから。」

『…人の心を勝手に除くな思春期ボーイ。』

「声に出てたから! それとボクがまるで変態みたいな言い方やめてくれない!?」


ワイワイと騒ぎながらも二人並んで廊下を歩く。あちらこちらにいる仮装した小妖怪の手にはお菓子が握られており、喜んでいるその姿は随分と可愛らしい。


「おう、リクオに鯉菜じゃねぇか。
楽しんでるか?」

『うん! 楽しんでるよ、おじいちゃんは?』

「フッ…見よ、この通りじゃ!」


そうドヤ顔で見せてきたのは…沢山のお菓子が入ったカゴ。トリックオアトリートを言わずに、ただひたすら明鏡止水で皆のお菓子を盗ってきたとのこと。


『…つぅか、
トリックオアトリートなくしてそれはもうハロウィンと言えるのか!?』

「それよりさ、ボクはおじいちゃんの格好の方が滅茶苦茶気になるんですけど。」

「なんじゃリクオ…何か変か?」

「いやいやいや…それっていったい何の仮装!?」

『「ゴブリン。」』 


我等が祖父…ぬらりひょんも実を言うと仮装しているなぅ。木こりみたいな服装をし、頭に三角帽子を被り、そして肌の色は緑色にペイントしてある。
 

『似合ってんしょ。私がやってあげたんだよ。』

「ふふん、カッコイイじゃろうが〜!」

「(…ボクは魔女でよかったかも。)」


わしも何かしたい、
そう言って来たおじいちゃんには絶対ゴブリンが似合うと思ったんだが…似合い過ぎて逆に怖い。
本当はぬらりひょんじゃなくてゴブリンなんじゃね?
そんな事を思いつつも、取り敢えずおじいちゃんと別れて再び廊下を歩く。

さて…次に会うのはいったい誰なのか。




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