この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ もし夢主に彼氏ができたら…

「最近、姉ちゃん言葉遣いとかきれいになったよね…」


夕飯時、突如そう口に出すリクオ。


『…そうかな、自分じゃ分からないけど』

「いや、変わったよ。」

「そういやぁ…雰囲気も柔らかくなったよな。」

「お父さんもそう思うよね……何で?」


無自覚な本人に何でと聞かれてもなぁ…


「もしかして、彼氏ができたとか?」


キラキラと目を輝かせて会話に参加するのはお母さん。


『……まさか、そんなわけないよ』


ケロッとして言いながら、肉じゃがをつまむ。うん、美味しい…今日は毛倡妓の味付けだな。


「お嬢、携帯が鳴ってますよ」


ブーブー鳴る私の携帯を持ってきた小妖怪にお礼を言いつつ、それを受け取る。
着信相手を見れば…


『………ちょっと失礼。』


皆に断りを言いながら箸を置き、部屋を出る。





『…もしもし』

「あ…オレ。今大丈夫?」


本当はご飯中だが…まぁ長話じゃないならいいか。


『うん、大丈夫だよ。どーかした?』

「あー…、今週末…空いてっか?」

『…今の所は、空いてる。』  

「じゃあ土曜、一緒に映画観に行かねぇか? 前観たいのがあるって言ってたよな」

『うん、いいの? ユウは他に観たいのない?』

「おぅ!お前の観たいのでいいよ」

『そっか…ありがとう。じゃあ土曜日の昼くらいでいい?』

「あぁ、じゃあ12時くらいに、いつもン所な!」

『12時ね!楽しみにしてる…じゃあ、おやすみ。』

「ん、おやすみー」


土曜の12時…か。楽しみだな。


「ユウ……か……」

『っ!!』 


びっっっっくりしたーーー!!!
急に後ろで聞こえた声に肩が上がる。


「ユウ君…ねぇ………?」

『……なによ。』

「誰なんだろうなぁ…ユウ君て…」

『…うっざ。誰でもいいでしょ、別に。』

「なっ…誰でもいいってこたぁねーだろ?」 

『ご飯たーべよっと』

「あっ、こら鯉菜!」


うるさいお父さんを無視して、食事を食べに戻る。後ろで「土曜の…12時…」とお父さんが呟いてることに気づかずに…。




そして土曜日が来る。


「あれ? 姉ちゃん出掛けるの?」

『うん、友達と遊んでくるね! 夜には帰ると思うから。いってきまーす。』

「いってらっしゃい!」


リクオに見送られながら家を出る。待ち合わせ場所は駅の近くの公園だ。


『……? ……気のせい、か』


ふと違和感を感じ、辺りを見渡すものの何もない。そのまま…首をかしげつつ、公園へと向かう。


『ごめん、待った?』


待ち合わせ場所に着けば、ユウがベンチで座っていた。


「いや、オレも今着いたばかりだから。」

『そっか、なら…行こっか!』

「お、おぅ…!」


尻すぼみになりながらも、私の手を取り歩き出すユウ。繋がれた手をギュッと握り返しながら、そのまま駅へと向かう。


『……!』

「ん、どうかしたのか?」


またもや変な感じがして振り向くが、何も異常はない。


『…ううん、なんでもない。』


……何だろう。嫌な予感しかしない。

そして、
映画館にて……


『…………。』


いる。確実にいる。


「おい…あいつらまだ手ぇ繋いでねぇか?」

「いや、手くらいいいじゃないですか…」

「待て!ここは暗闇だぞ…逆に手を繋ぐだけで終われるンですかね!?」

「しかしここは映画館…お前が考えるような破廉恥な事なぞしないだろう…」

『…………(アイツら…殺す)』


コソコソと後ろの方で雑談するお父さん、首無、青、黒。何か違和感を感じると思ってたら、アイツらだったのか。


「何か後ろの方うるさいなぁ…」

『うん…(うちの者が本当すみません!!)』 


ユウに心の中で謝りながらも、映画に何とか意識を持っていく。結局あまり集中できなかったが…。

そして、
カラオケにて……


『…………ユウ、』


映画が終わり、カラオケへと移動した私達。
だが…さっきから扉の窓からこちらを除く者の影がちらほら映る。


『私、ちょっとお手洗い行ってくるね!』

「ほーい」


曲選びに夢中なユウを確認し、部屋を出る。


『…ねぇ、アンタらさ…死ぬ覚悟できてんでしょうねぇ…?』


曲がり角に慌てて隠れる4人に、ゆっっっくりと近づきながら言えば…


「よ、よう! 偶然だな!!」

「「「二代目!?(…無理あるでしょ!!)」」」


冷や汗を流しながらニッと笑うお父さんに、残りの3人がギョギョッとする。なめてんのかこのクソジジイ。


『あのさ、迷惑だから帰ってくれない?』

「じゃ、じゃあ、誰なんだよあの男は!」

『ユウ君。』

「だから誰なんだよユウ君て!」


誰って……今までの見てたら普通に分かるだろ。


『彼氏』


その言葉に石のように固まるお父さん…
そして、


「聞きたくなかったああぁぁぁぁ!!!」

『アンタが聞いたんだろ!!』


ガクンと膝をつくお父さんに一応ツッコミを入れる。…もういいかな、相手するのもメンドイ。


『取り敢えず! これ以上ついて来ないで!!相手にも迷惑でしょ!?』


ブツブツと1人呟くお父さんに言っても仕方ないと思い、そう3人に告げる。過保護にも限度ってもんがあるだろ…。
溜め息を吐きつつも、ドアを開けてユウの元へ戻る。


『あっ、私その曲好きー♪』

「マジで!? じゃあ一緒歌おうぜ!!」


直ぐに切り替えた私…偉い。
気分を一新し、一緒に歌っていれば部屋の電話が鳴る。もう時間が来たのだろうか…


「どうする? もう少し延長する?」

『うん! まだ歌いたいな』


ニコッとして言えば、電話をとって延長するように頼んでくれた。この何でもない行動が、次の瞬間とんでもない事になる。


「よし、延長しだっ……ぞおぅ!?」

『きゃ…』


席に戻ろうとしたユウが、テーブルに足をぶつけバランスを崩す…


『「……!!」』


そして偶然にも押し倒される形になった。お互い顔が真っ赤だし、変な空気になる。そういえば…ユウと付き合って結構経つけど、まだキスとかしたことないな…。


「り…な……」

『……ッ』


心臓が跳ね上がる。
段々と2人の間の距離がなくなっていき、今にも影が重ならんとする時…


「おっとぉぉおおお!? いっけねー!!
部屋間違えちまったぁぁぁ!!!」

「二代目ー!?」

「アンタ何やってんですか!!」

「ガチで殺されますよ!!?」


突如バァァァンと勢い良く開くドア…
そしてお父さんを何とか抑えようとしている3人…
そして真っ赤な顔でポカーンとするユウ…。

だが頭が覚醒したユウが勇敢にも立ち向かう。


「な、何だよお前ら!」


敵対心が目に見えて丸出しだ。でもそれは当たり前だ…皆変装してるつもりなのか不審者の格好になってるもの。


「今すぐ出てけ…!!」


私を庇うようにして立つユウに胸キュンしながらも、罪悪感も一緒に感じる。一方、出ていけと言われたお父さんは怒ってるのかなんなのか…ジト目でユウを見ている。
いいから早う出てけよ、頼むから。
だが次の瞬間、


「おっと…」

「え」

「は…」

『!!』


上から順に、お父さん、首無、ユウ…。
何があったと言うと…お父さんの腕が(高確率でわざとだが)首無の頭に当たり、首無の頭…つまり生首がユウの所へとコロコロ転がったのだ。一般人からしたらこんなのホラー以外何でもない。しかもユウにはまだ妖怪のことを話していない。


「う…うわあっ…! わァァああああ!!!??」


目の前にある生首に後ずさりするユウの顔は、恐怖のあまり引きつっている。
そして…


『……ユウ? ちょっ…ユウっ!!?』


青白い顔をするユウは、そのままパタッと気を失って倒れてしまった。







「ん…? ここ、は…」

『あ、良かった…起きたんだね』


私の部屋に布団を敷き、そこで寝ていたユウが目を覚ます。


「オレ…どうしたんだっけ…………」


頭を押さえるユウに少し躊躇いつつも話す。


『…覚えてない? カラオケで、首が…』

「…あっ…!! そうだよ!!首!!生首が…っ」


思い出したのだろう、また顔色が一段と悪くなる。本当に申し訳ない…


『……ごめんね。』

「…え、何でお前が謝って………
!! もしや…」


ついに妖怪であることがバレてしまった…


「お前が…あいつを殺したのか…!?」


…と思ったけど、どうやら勘違いしているようだ。


『殺してないよ。アレはそういう生き物だから…
ね? 首無。』


戸の外に声をかければ、ハイと返事しながら首無が入ってくる。


「え…首が浮いてる…。あっ、マジシャン?」


…まぁそれでもいいけどね?


『妖怪。
うちの家、妖怪任侠一家だから…』


妖怪任侠一家であること、私にはぬらりひょんの血が4分の1流れていることなど…全てを話す。ユウは私の話を遮ることなく、黙って耳を傾けてくれた。


『…黙っててゴメンね?』


布団を握り締めながら、下を向くユウの表情は全く見えない。怒ってるのか…泣いているのか…。分からないけど、もう駄目かもしれない。別れを切り出されたら別れよう…黙ってたコッチが悪いんだし。心の準備をしつつも、ユウが口を開くのを待つ。


「お前…ずっと隠してたのか…」

『…ごめん…』

「謝って済むことじゃないだろ…っ」


ギリっと布団を掴むユウの手に力が入る。言い返す言葉がなくて俯く私。
そしてー


「何で…っ

何でそんな面白いこと早く言ってくれなかったんだ!!」

『…ごめっ…………………は?』


今なんと…?


「最強の妖怪の血を受け継いでる!? しかも家は任侠一家!! おまっ…!ズリィーよ!!」

『…………なんか、うん…ごめん。』

「え、なになになに。妖怪の血が混ざってるってことはよ!進化できんのか!?」

『進化? 進化…うん、進化はできないけど変化はできるかな。』

「マジかよ!!見せて見せて!!
……おおおおおおおーーー!!!??
誰だお前!!丸っきり別人じゃねーか!!誰だお前!!面白ぇーー!!まだ進化したりすんの!?」

『いや、もうしないかな…』

「何が出来るの!?火を吹くとか!?」


出来る前提の質問かいな。


『幻覚を見せることができるみたいな?分かりやすく言えば透明人間になれます。』

「すっげぇーーー!!万引きとか覗きし放題じゃん!!」

『しないからね!?』


さっきまでの謎の雰囲気が嘘のように、ワーワーと盛り上がるユウ。私からターゲットを変え、今は首無を質問攻めにしている。


「首が無いのにどーやって食べてんですか!?」

「え、あの〜…それは…妖怪の七不思議ということでお願いします。」


なんやかんやで…
ユウには嫌われるどころか、よりもっと好かれることになり…家にも遊びに来るようになる。最初は初めて見る妖怪を怖がっていたが、直ぐに面白がるユウに奴良組の皆も快く受け入れていった。


(「あ、お邪魔してますーパパさん」)
(「誰がパパだ!」)
(「じゃあ…お義父さん?」)
(「鯉菜はやらん!!」)
(『ユウ…お父さんで遊ばないでよ。後々面倒になるから』)




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