▽ タイプ
『…はぁ? 好きな異性のタイプぅぅ??』
縁側で茶菓子を食べていれば、突如そんなことを聞いてくるお父さん。
タイプねぇ…タイプ…タイプ…
…そんなこだわりないけどな…余程変な奴じゃない限り。
「やっぱアレか…オレみたいなイイ男だよな…うん…(ブツブツ)」
顎に手を添えて1人ウンウンと満足そうに頷くお父さんはどんだけナルシストなんだ。
『…お父さんとは正反対な人かな!』
ニッコリと笑顔で言えば、お父さんはピシリと石のように固まる。まるでメデューサに睨まれたかのようだ。
『真面目でー、物静かでー、クールでー、でも大切なモノにはあつくてー、でもどこか不器用な人とかがいいなー。
……あっ、これって牛鬼じゃん!』
「………牛鬼?」
『うん、牛鬼ってカッコイイよね!男らしいし、一見草食系男子だけど中身は肉食みたいな……そうっ!!ロールキャベツ系男子だよ!!
あぁっ!牛鬼にならいじめられてもいい!!』
「……………牛鬼ねぇ〜…ふぅーん…」
『……お父さん?』
この時釘を差しとけば良かったのだ…
まさか、後にあんな事になろうとは思わなかった。
「最近、二代目の様子がおかしいのだが…」
牛鬼とお茶会なぅ。急にお茶に誘われたから、どうしたかと思いきや…何の相談?
『どんな風に? 家では普通だけど。』
「そうだな…
鯉菜様を誘惑するなと言ってきたり、早く結婚しろとお見合い写真を送ってきたり、本当にロールキャベツなのかと聞いてきたり、私の本性を暴くと宣言してきたり…」
『ごめん、牛鬼。それ完璧私のせいだわ。』
急にそんなことされたら誰だって驚くわな…よく怒らなかったね牛鬼。そして何やってんだあのバカ親父は!
『お父さんに異性のタイプを聞かれてさ、
〈お父さんとは正反対の牛鬼みたいな人〉って答え…』
「ブフッ!!…ごっほ…………げほっ…」
『ちょ、大丈夫? 牛鬼。』
急にお茶を噴き出す牛鬼に驚きながらも、持っていたハンカチでこぼれたお茶を拭いてあげる。
「り…鯉菜様…大丈夫ですから!!」
『……そう?』
牛鬼も照れることがあるんだな…まさかお茶を噴き出すとは思わなかったぞ。
『取り敢えず、お父さんにはちゃんと叱っておくから! もしまだつっかかってくるようなら直ぐに教えてね!!』
「あぁ…そうしてくれると助かる。
では、気を付けてお帰りください。」
牛鬼にまたねーと手を振り、朧車に乗り込む。向かう先は家だ。
『…どう叱ってやろうかねぇ』
家に着き、居間へと取り敢えず向かう。
『ただいまーお父さんは?』
そこにいる者に聞くが、答える前に張本人がやってくる。
「おかえり、呼んだかい?」
『ちょうど良かった。あのさ…牛鬼に八つ当たりすんじゃないっての!! 喰らえっ! サソリ固め!!』
「ぐあっ!?いででででで!!腰っ腰折れる!!」
『牛鬼がタイプってだけで…何牛鬼につっかかってんのよガキかてめーはよぉ!!?』
「わ、分かった分かった!もうしねぇから!!もうしねぇから解いてくださいませ鯉菜さまぁ!!イッテェ!!」
バンバンとギブアップの合図で床を叩きまくるお父さん…仕方ない…そろそろ解放してやるか。
何より私が疲れた。
『「ハァー…ハァー…」』
お互い息を切らし、ぐったりとする。
これでもう牛鬼にはつっかかったりしないだろう。
この時、事の光景を見ていた周囲の者は…
牛鬼へ同情したと同時に、鯉菜が結婚できるのかどうか一同不安になったと言う。
(『お父さん……』)
(「…なんだ……」)
(『タイプの例として牛鬼を挙げたけど、私…』)
(「………?」)
(『……お父さんも…好きよ(ポソッ)』)
(「!! 鯉菜ーーーーー!!」)
(『ぎゃあぁぁぁ!?くっつくな暑苦しい!!』)
(「ぐほうっ!!?」)
prev /
next