この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ ストーカー〈下〉

『ッいやあぁっ!!!!』


鯉菜…?
部屋で烏天狗に見張られながら仕事をしていれば、2階から悲鳴が聞こえる。


「む? 鯉菜様の声ですかね…?」

「…あぁ、取り敢えず行くか」


虫が出たのだろうかと思いつつも、念のため部屋に向かう。


「姉さん!? 入るよ!? ……なっ、コレ……」

「お嬢!? どうしたんで……、!!??」


2階に上がれば、鯉菜の部屋の前でザワザワと群れが出来ている。その群れの隙間を通り、部屋を見に行けば…


「…おぃ。こりゃあどうゆうことだ…?」


床に散乱する大量の鯉菜の写真…
傍にはダンボールと不気味な絵が描かれてある紙…
その中央には茫然と立つ鯉菜。


『…っゲホッ……ぁ?』


突如咳込み、鯉菜は掌を見て驚く。


『…ち……?』


その言葉を最後に、グラッと体が崩れ落ちる。


「鯉菜!?」


慌てて受け止めるが、起き上がる様子はない。頬には涙の伝った跡が、掌には血が付いていた。鴆を呼ぶように指示する烏天狗の声を聞きながら、オレは周りを見渡す。最近疲れている様子だったが…これと関係あるのだろうか。


「おい…てめぇら。
準備しとけよ…今晩は出入りだ。」


声の主は夜のリクオ…その顔は怒りに染まっている。どうやらリクオは事情を知っているようだな…。


「出入り!? どこの誰にですか!?」

「この写真とか変な絵は誰の仕業なんです!?」

「そもそも何ですコレ…悪戯ですか?」


口々に疑問を口にする皆に、リクオが説明する。
鯉菜が一ヶ月以上前からストーカーに困っていたこと…
相手は学校の隣のクラスのやつだということ…
鯉菜もリクオもやめるように脅したがやめなかったこと…
そして
心配させるから皆には黙っていて欲しいと言われたこと…。


「…バカヤロウ…言わねぇ方が心配するだろうが」


気を失っている鯉菜の頭を撫でながら、聞こえてないと分かりつつも悪態をつく。


「許せねぇその山田ってやつ!!」

「お嬢に手を出さねぇよう、妖怪の真の怖さを思い知らせてやらァ!!」

「鯉菜様をこんなになるまで苦しめやがって…後悔させてやろーぜ!?」


小妖怪から側近らまで皆が皆、鯉菜を思ってカンカンに怒っている。
…この光景を見たら鯉菜はまた泣くんだろうな、今度は嬉しくて…。


「親父。」
「なんだ?」
「親父も行くだろ? 出入り…」


オレも行くかって? そんなの…


「当たりめぇだ。娘を泣かせられて黙ってるなんて、父親失格だろ?」


奴良組の大事な姫を泣かせたこと…死ぬ程後悔させてやる。








「ひぃぃぃいいいいいっっ
や、やめてくれ!!オレが悪かった!!もうあの人には関わらねぇから、殺さないでくれっ!!」


そう泣き叫ぶのはストーカー野郎こと山田。


「す、すまなかった!!息子がまさかそんなことしてるなんて…知らなかったんだ!!」

「ごごごごめんなさい…っ!!引っ越すから!!一家全員ここを離れるからっ命だけはー!!」


このクソガキの部屋に割り込めば、部屋中に鯉菜の色んな写真が隙間無しに貼られてた。こんな時になんだが、どれも上手く撮れていて可愛い…流石オレと若菜の娘だ。


「オメェら夫婦には興味ねぇがな…アンタらの息子はたった一人の俺の姉貴を、倒れるまで苦しめたんだ。」

「我らが姫をよくも!!」

「そうだそうだー! 奴良組の看板アイドルをー!!」

「お前らは少し黙っとけ。」


せっかくリクオがいい事言ってんのに…怒るのは分かるが少し大人しくしていようか。


「殺しはしねぇ…。
だが、もし姉貴がソイツのせいで再び涙を流したら…
命はねぇと思えよ」


畏を発動させて言うリクオに、ストーカー野郎はもちろん、その両親も恐怖のあまり気絶する。
これでもう鯉菜に関わろうとは思わねぇだろう。


「…これで姉貴はもう大丈夫だよな」

「あぁ…早くあいつの笑う顔が見てぇなぁ」

「…そーだな。」





後日談

『久しぶりに学校行ったらさ、山田が引っ越してたんだけど…。』
「よかったね!姉さん!!」
「これでもう安心だな!」
『…うん……出入りでもしたの?』
「ちょっと脅しただけだよ」
「そうそう、ほら、この写真…万が一の時のために一応持っときな。」
『…山田、白目剥いてチビってんじゃん!本当何したの!?ありがたいけどさ!!』
「「当然の事をしただけだけど?」」
『(ダブルブラックスマイル…!!)』




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