この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 通常運転で(鯉伴side)

「姉ちゃんって…昔何かあったの?」


そう言うリクオに、オレは親父と目を合わせる。
昔って…どんくらい昔だ?


「何かって言われてものぅ…例えば?」


顎をさすりながら言う親父に、リクオは少し言いづらそうな顔をする。


「…例えば、人間と何かもめたとか…」

「いや…そんな話聞いたことねぇけどな。
幼稚園にまず行ってねぇし、」

「え!? 幼稚園行ってなかったの!?」

「おぅ。行こうかって言ったんだが、全力で拒否したからなぁ…入園させなかったんだよ。」

「……何で嫌がったの?」

「さぁな。幼稚園レベルマスターしてるからいい、ってよく意味分かんねぇこと言ってたぜ?」

「若菜さんも、嫌ならいっか!って笑ってたしのぅ?」

「そういうことだ。」


懐かしくてウンウン親父と一緒に頷く。
アイツは昔から変人で面白かったなぁ。


「じゃあ…小学生の時に何かあったとか、聞いてない?」


そう聞かれて、鯉菜の小学生の頃を振り返る。


「ワシは聞いたことないが……。」

「……オレもねぇな。そもそもアイツ学校でのこと自分から話すことねぇしな。」

「学校のことを聞いてもいつも〈暇〉とか〈退屈〉とかしか言わなかったしのぅ……」

「よくよく考えたらアイツは生粋の面倒くさがり屋さんだよな!」


ハッハッハと親父と笑っていれば、リクオに真面目に考えてよと叱られました、はい。


「……にしても何でそんなこと聞くんだい?」


先にそれを言ってくれなきゃ真面目スイッチ入らねぇよ。


「昨日姉ちゃんが言ってたんだよ…〈人間の方が嫌い〉って。」 

「……あいつがか?」

「4分の3は人間のあいつが?」


きょとんとして聞き返すオレらにリクオは頷く。それでさっきの質問に繋がんのか。なーる。


「んで、お前は何て言ったんだい?」

「……『人間と妖怪は一緒だ』って昔言ってたのに、どうしてって…聞いたんだ。そしたら、『確かに一緒だけど、昔から人間の方が嫌い』って。」


人間と妖怪は一緒、か。懐かしいな……それ言ってたのって小学生の頃だろ?
つぅか、その時点で昔って…
何百年も生きてるオレからしたら、鯉菜の言う〈昔〉ってのが何時なのか全然分からねぇんだが。


「でもまぁ…鯉菜に何があったのか知らねぇが、皆それぞれ考える事が違うんだからよ。鯉菜にはアイツなりの考えが…」

「分かってるよ!! そんなの!!」

「…落ち着け、リクオ。何をそんなに焦っとんじゃ。」


違うんだ!と叫ぶリクオに、落ち着くように言う親父。


「昨日ボクがそのことについて問い詰めてたら、夜の姉ちゃんが出たんだ…。」

「? アイツは前から変化できたじゃろう。」

「そうじゃなくて…夜のだよ!
いつも内にいるって言ってた夜の姉ちゃんが、出たんだ!」


そういや……親父は知らねぇのか。


「親父、鯉菜は夜の姿になれるが、性格はリクオみたいに変わんねぇだろ? あれは昼の鯉菜が夜の姿を借りてるかららしいぜ。夜のアイツはメンドクセェって外に出ねぇらしい。」


そう説明すれば、なるほどなと頷く親父。


「じゃが、その夜のアイツが出たと……」

「……うん、夜の姉ちゃんに会って思ったんだけど、あの人は…〈危険〉だよ。」


危険? 夜の鯉菜が……?


「あの人が出ない理由はめんどくさいってのもあると思うけど、本当は……僕達を傷つけない為なんだよっ」

「……オレたちを守ってるってことか?」


それじゃぁ危険ってのと繋がらねぇよな…むしろいい子ちゃんじゃないか。


「正確には、昼の姉ちゃんを守るために。」


……やべぇ……ついていけねぇ。
親父はさっきから眉一つ動かさねぇし、俺だけか?俺だけ遅れてんのか!?


「リクオ……」


ついに親父が口を開く。親父……先に進めるな!
俺まだ全然理解してねぇから頼む! 食い逃げしたの黙っといてやっから!!


「ワシにも理解できるように話せ。
全くついていけんわい!」


良かったぁぁあああああ
俺だけじゃなかったァぁぁぁぁああ


「え、何で分かんないの!? 頭長いのに、それ飾り!? 知能は変わんないの!?」

「な、なんじゃとぉぉお!?」


良かった……本当に良かった!
俺が分からないって言ってたら、俺があんな事リクオに言われる所だった!! 息子にあんな事言われたらオレ泣くぞ!!


「夜の姉ちゃんは、昼の自分を傷付ける僕らのことを嫌いって言ったんだ。でも万が一、夜さんが僕達を傷付ければ…姉ちゃんは悲しむ。だから夜さんは大嫌いな僕らの前に…表に…出ないってことだよ。」


分かった?と、ホワイトボードに丁寧に図式して確認するリクオ。お前の図でよく分かったが…お前の絵、斬新だな。


「だがよ、昼を傷付けるオレたちって…オレたち鯉菜を傷付けてたのか?」


びっくりだ。
そんなつもり全くなかったんだが……


「夜さん曰く、そうらしいよ。姉ちゃんがどう思ってんのか知らないけど。」


うーん……と3人で唸る。
思い返すが、別に傷付けた覚えはねぇ。


「むっ!!
……アイツのお気に入りのアイス…ワシ、食べちまったんだが。」


いや、そんなことで傷つかねぇだろ!!とリクオとハモる。もしそれが正解ならオレほぼ毎日鯉菜を傷付けてるぞ。


「……本人に聞いてみるか?」

「え!? なんて!?」

「……お、〈オレたち鯉菜を傷つけちゃった? ごめんね☆〉」

「「き……気持ち悪っ」」

「…言うな。言うなよ! 分かってるから!!」


何なんだよお前ら。
こういう時に限って無駄に息がピッタリだな。


「じゃあ…どうすんだ?」

「どうするもこうするもねえじゃろ。放っておけ。鯉菜は昨夜のこと覚えてないんじゃろ?
じゃあ急にワシらが態度変えたって、かえって混乱させてしまうわい。いつも通りにしろ、リクオ。」

「わかった……。」


確かになぁ……親父の言う通りだ。


「一応オレも親父も鯉菜のことを気にかけとくが…リクオもいつも通りにしてやれよ?
お前のせいでオレは鯉菜に八つ当たりされたんだからな。」

「ご、ごめん……」

「まっ、オレは鯉菜のショボンぶりを久しぶりに見れて癒され……」

「話はこれだけだから!
僕もう行くね、じいちゃん!」

「おぅ、また何かあったら言えよ」


……最後まで聞けよ、つれねぇな。




(「夜さんは大変な問題児ときたか。」)
(「それにしても、リクオのいう危険な夜さんに会ってみたいのぅ〜!」)
(「・・・そんなにか?」)
(「何でも雰囲気が妖艶になるらしいぞ」)
(「・・・・・・・・・そりゃ会ってみてぇな」)




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