この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 夜の姉貴(リクオside)

「人間が嫌いなのか…姉貴は」


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邪魅のカラクリ騒動を解決し、菅沼の家に戻る。お風呂を沸かしたというから有り難く頂戴して、ふと姉貴の言っていたことを思い出した。
『人間の方が嫌い』と言った姉貴のその時の顔は、怨んでるような顔ではなかった。絶望したような顔でもない…

……強いて言うなら「やっぱり、そうか」っていうような顔だ。


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今オレは、姉貴にあの時の言葉の意味を聞いている。


「昔…姉貴が言ってたンだぞ。人間も妖怪も同じ…良い奴も悪い奴もいるってな。」

『へぇ…覚えてるんだ。』


意外って思ってるような顔じゃない。
これは……オレを警戒している目だ。


「当たり前だろ。
…何でそれが、今は人間の方が嫌いなんだ?
何かあったのか? 学校とか…友達と。」


もしそうなら、相談して欲しかった。
オレじゃあ役に立たなかったかもしれねぇが…何か出来る事もあったかもしれねぇ。


『いや、何もないよ。』

「じゃあどーしてだ。」

『…確かに昔、私はそう言ったよ。でも、私の人間嫌いは昔からだよ。』


……『昔』から?
じゃあ、あの言葉は何だったんだ…アレはその場凌ぎの嘘だったのか?


『人間と妖怪は確かに一緒。でも、それでも私は人間の方が嫌い。これは…昔から変わらない。』


…矛盾している。
一緒なら、何故人間の方を嫌うんだ。人間と何かしらの嫌な事があったからだろ? 人間と関わることっていやぁ…学校でしかねぇだろ。家は妖怪屋敷なんだから。
どういうことだと考えていれば、姉貴がポツリと呟く。


『……妖怪が見える。』


……何を言い出すんだ…?


『だから、〈人間の方が嫌い〉になった。』

「……どういう事だ?」


聞くが、これで話は終わりだと言うかのように、羽織りを翻して姉貴は去って行く。巫山戯てるのか本気なのか分からねぇ…しかも逃げるのが上手いのが姉貴だ。
だが、いつまでも逃げられてたまるか。
今回は逃がさねぇ…


「おいっ!! 姉貴!!」


技で消えられねぇように慌てて姉貴の腕を掴めば、困ったような顔をして笑っている。

…オレは知ってる。

こういう…
困った状況で、
困った顔をして、
そしてそれでも笑う時、
それは、コイツが…

ーなんとしてでも逃げる気の時だ。


『姉貴…!』


ギリっと少し姉貴の腕を強く掴めば、痛がる顔をするが、それも一瞬で終わる。


『夜…?』


驚いたように急にそう呟いたと思えば、姉貴の身体がふらついた。


「おいっ…!?」


慌てて支えれば、意識を取り戻したのか姉貴は俺の両腕に手を添える。
そして…



『…昼のアタシをいじめないでくれる?』



俺の目を睨み付ける姉貴の目は、

兎の様に赤く綺麗で

ただただ…恐ろしかった。


「お前……誰だ?」


手を振り解き、距離を取る。
よく分からねぇが…コイツは〈危険〉だ。


『…ふーん。
姉であるアタシの事、忘れたの?』


妖艶に笑うソイツは綺麗で、油断したら…のみ込まれそうだ。


「…………もしやテメーが夜の姉貴、か?」

『…初めまして、とでも言おうかしら。』

「…昼が心配してたぜ?
外に出たがらねぇってな。」

『あらま。ちゃんとメンドイからって言ったんだけどねぇ? 心配症なんだから…フフ』


クスクスと笑ってるが、コイツの目はさっきから全く変わってない。…殺気に満ちている。


『どうしたの? 黙っちゃって。
もしかして…アタシが怖い??』

「正直…な。その殺気をおさめてくれたら少しは楽になるんだがなぁ?」


そう言えば、ケラケラと笑っていたアイツの動きはピタッと止まる。


『…無理な願いね。だってアタシ、あんた達のこと…みーーーんな、嫌いだから。』 


そう言いながら、ゆっくりと俺の頬に添えられる冷たい手。そして、ポツリポツリと話し始めた。


『アタシは、昼のアタシだけの味方。
あの子を傷付ける貴方達が…アタシは憎い。
でも、貴方達を傷付けたらあの子は悲しむ。
だから…アタシは外に出ない。
それでも、もし貴方達があの子を傷つけるって言うなら…アタシはあの子を、
二度と外には出してやらないから。』


覚悟なさい、
その言葉を最後に姉貴の身体は倒れた。
…アイツが内に帰ったのだろう。
スヤスヤとあどけない顔で寝る昼の姿に少しホッとする。


「ますます分からなくなっちまった…」

「あれ…リクオ、さん?」

「! 菅沼…」


そこには風呂上りなのだろう、少し湯気たっている菅沼がいた。


「! 鯉菜さん!?
どうして倒れて…具合でも悪いの!?」


焦る菅沼に「変化が解けて寝ただけだ」と告げる。そして寝てる昼の姉貴を抱き上げ、そのまま寝室に運び、布団に寝かせた。隣で「若〜…」と寝言を言うつららをチラリと見て、
「つららは雪女だ。寒かったら布団多めで寝ろよ、でねぇと凍るぜ?」
と菅沼に忠告するのは忘れない。ぶっちゃけ凍りはしないが、寒くて辛かったと昨日姉貴が言っていたからな。
それにしてもー


「傷付けるつもりはねぇんだけどな…」


その言葉は誰の耳にも入らず、鈴虫の歌声でかき消されるのだった。





(「結局昨夜何も出なかったねー!」)
(「でも品子ちゃん元気になってて良かったよね!カニもたくさん貰ったし!」)
(『カニって美味しいけど食べるのめんどいよね』)
(「坂本先生に愛のプレゼントします!?」)
(『カニの殻ならあげてやろうかな。』)
(「(良かった・・・いつもの姉ちゃんだ。)」)




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