▽ 鏡花水月
ボロ刀こと「魔王の小槌」を使い、次々と自分の仲間を斬り捨てる玉章。
『…よっと。
一時避難はしたものの、何とか止めないとね〜』
「そうさなぁ…
いくら敵とはいえ、これは酷えな。」
『本当よ。
にしてもさ、何か斬新よね…あの戦い方。髪の毛でぶんぶん刀振り回してさ…』
「…おーい。笑い、堪え切れてねーぞ。」
おっと…いかんいかん。
どうやら口元がにやけていたようだ。
「なあ、あの制服って浮世絵中じゃねーか?」
お父さんの指差す方を見れば…おやまあ。ゆらちゃんじゃないっすか。危ないよ。にしてもあの子は正義感強いな、本当。あのドS狸を滅そうとしてるよ。…あ、式神が一瞬で全滅した。ゆらピンチじゃん。
「死ぬぞ、お前。下がってろよ。」
刀の切っ先をゆらに向ける玉章の頭を、リクオが斬り付けることで、幸運にも助かったゆら。その斬撃で仮面が一部割れ、右目が見えるようになった玉章。…狒々もだけど、皆どうしてお面をつけるんだ。
「お、お前は妖怪の主…!
何でこ…もがあああああ!!?」
「姉貴…そいつをどけとけ。邪魔だ。」
『りょーかい、ってわけで…避難しましょうね。
陰陽師さん♪』
リクオの邪魔にならないように、ゆらの手を引っ張り安全なところへと誘導する。
「ぷっは! ちょ…誰なんアンタ!
何で邪魔すんねん、うちは陰陽師…」
『はいはい。
知ってまんがなアンタが陰陽師であることは。』
「じゃあ退いてや!
早くあの妖怪を滅さなアカンねん!」
ゆらは黙ってりゃ可愛いんだけどな…こうなると鬱陶しくて殴りたくなる。
「いったあああ!! 何すんねん!!」
『おっと。
願望が現実になってしまった、ドリカムだね。』
意味分からんわと突っ込むゆらの頬を片手で掴む。こいつに話させると話が進まねえ。
『陰陽師の仕事は妖怪を滅するだけじゃないでしょ。アンタはここらの野次馬の世話をしな。このままじゃ…巻き込まれて死ぬ人間も出るかもしれないわよ。』
「くう…言われんでもわ、わかっとるわ!」
じゃあ早く行けと頭を叩いた私は決して悪くない。私は沸点低い症候群なんだ。
ゆらが人間の方に向かうのを見やり、リクオと玉章に意識を向ける。あっれ!? ゆらを相手にしてるうちにリクオってば…ボロクソにやられてるじゃん!
『…リクオ…?』
「…さっきからずっとあんな感じだ。
1人で奴と戦ってる。」
暗に、仲間を頼らずに1人で背負っていると言っているのだろう。
「空も、白んできたな…。
どうするんだ、鯉菜。」
『…リクオが戦えなくなった時は、私が殺る。朝になったからって変化が解けるわけじゃないし。ただ…もう少し様子見よう。』
「…お前は姉馬鹿なのに、変なところで厳しいよな。それとも…戦うのが怖ぇのか?」
…ハッキリ言って図星だ。正直、戦うのは怖い。
それはこの世界に生まれてよく分かった。痛いのが大嫌いな私に…平和ボケしていた私にとって、この世界は不向きだ。…リクオもこんな気持ちだったのだろうか。それなのに逃げずに戦って、本当に偉いや。私とは大違い。
「…もしかして図星か?」
冗談で言ったつもりだったのだろう。返事をしない私に、驚いた顔をする。でも、私はやっぱり嘘吐きなんだ。
『そんなんじゃないわ。
リクオのことは確かに大事だけど、でも期待しているの。次は…何を見せてくれるのかって、ね。
…ほら、夜と昼が…混ざり合う。』
お父さんと一緒に、リクオを見守る。
一方のリクオは、ボロボロになりながらも玉章に立ち向かっている……
「僕がじいちゃんや父さんに感じた気持ちは、怖さとは違う…。〈あこがれ〉なんだよ、畏れってのは。そんな二人が作った奴良組…鴉天狗がいて、牛鬼がいて、皆がいるこの組を守りたいんだ!」
「リクオ…」
隣でお父さんのリクオを呼ぶ声が聞こえる。
…リクオは親孝行だ。
結婚も子供も出来ずに死んだから、私には親の気持ちを完璧に理解することはできないけど…自分の作ったものを子が守りたいなんて言ったら、誰だって親なら喜ぶだろう。
「ぼくは気付いた! それが百鬼夜行を背負うという事だ!! 仲間をおろそかにする奴の畏れなんて、誰もついてきやしねーんだよ!!」
「黙れ」
その言葉に玉章は刀を振り下ろし、斬られるリクオ。いや、斬られたのではなく、リクオの体をすり抜けたのだ。
「ありゃぁ…鏡花水月…!」
ボロ刀を持つ右手を切り落とし、玉章から百鬼が抜けていく。
「も、もう一度僕に刀を…!」
刀を再び手に取ろうとする玉章だが、それは夜雀の手に取られる。
「夜雀!? その刀、こっちによこせー!!」
だがその刀を玉章に渡すことなく夜雀は飛ぶ。
『……待ちな。』
この時を待っていた。
私は妖銃を構えて撃った…今度は反動で飛ばされないよう足を踏ん張りながら。
「!」
当たる…!
誰もがそう思ったが、急に現れた五芒星によってそれは弾かれる。
『んなっ!?』
「危ねぇ!!!!」
五芒星により跳ね返って来る妖力の弾。予想外の出来事に反応が遅れるが、お父さんに突き飛ばされ、間一髪で助かる。
『いてて…お父さん、大丈夫?』
私の上で倒れているお父さんに聞けば、死ぬかと思ったぜと返事が来る。どうやら怪我はないようだ。
「刀、持ってかれちまったなぁ…」
そう言うお父さんの視線の先には、夜雀が飛んでいった空。もうどこにも姿は見えない。
「んで…ばかな、どこで間違ったって…言うんだ…玉章の方が力は遥か上! 何が違ったというんだ!」
信じられないと嘆く玉章に、リクオは歩み寄る。
「組を名乗るならよ…自分を慕う妖怪くらい…しゃんと背負ってやれよな…。お前の畏れについてきた奴はいたんだ。お前が…裏切ったんだ。」
リクオがさとそうとするも、玉章の心には届かないようだ。狂ったかのように笑って反省の色を見せない玉章に、猩影が動く。
「若…もうコイツには何を言っても無駄ですよ。
……約束は守らせてもらう。親父の敵だ!」
そう言って玉章の首を取ろうとする猩影だが、
「ふぅ〜間に合ったわい。」
急に現れたおじいちゃんに邪魔される。…元気な爺さんだ。そこにまた現れたのは、隠神刑部狸。
『……金玉デカイな(ボソッ)』
「…………」
…嗚呼、これはタンコブができるな。痛い。
「お願いじゃ…何卒命だけは…それ以外ならどんなケジメもとらせますから…」
「リクオ……どうすんだ、お前が決めろ。」
息子の命だけはとお願いする隠神刑部狸に、おじいちゃんは決断をリクオに委ねる。
さて…どうなることやら。
(「金玉は見えんのに棒は見えねぇよな」)
(『・・・・・・・・・・・・』)
(「・・・・・・イッテェ!!」)
(『これでおアイコね。』)
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