この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 盃(鯉伴side)

「…ボロボロの刀……ねぇ。」


密偵の牛頭丸と馬頭丸が帰ってきてひと悶着があった後、俺は今庭で牛鬼と話している。


「悪ぃな。鯉菜が二人を無茶させて…。」

「いえ…むしろ怪我を治してくれたので、助かりました。……リクオ様は?」


まだ寝てると答え、二人で押黙る。
そこに、鯉菜が廊下を歩いているのを見かけて声かける。


『…なに。』

「お前なぁ。怒るのは分かるが…やり過ぎだ。」


そう言ってデコピンすれば不満そうな顔をされた。まぁ、俺も少しスカッとしたけどよぉ、でもあんなことしてたら……


「お前さん、孤立しちまうぞ?」

『……』


あれ、珍しく言い返してこねぇ…地雷踏んだかと少し焦る俺。終いには牛鬼に「二代目…」と呆れた顔で責められた。


『…しょうがないよ』


内心焦っていれば、そう返事が来た。
何だよそれ…。


「しょうがないって…そりゃ、どうゆう……」

『そのまんまの意味だよ。あんな事してたらまぁ…嫌われて孤立してもおかしくないわね。』

「まるで…独りでもいいって言い方だな。」

『……本当、どうしようもないな。』


……分からねぇ。その言葉の意味も、その困ったような苦笑いが意味するものも。
お前は……何を考えてんだ?


『ん、何か騒がしいね。リクオの部屋。』


その言葉に3人でリクオの部屋をこっから見る。あまり中が見えねぇが、「盃」やら「七分三分」とか聞こえるから…きっと盃を交わすのだろう。


「鯉菜様は行かなくていいのですか?」


牛鬼の言葉に、ガチできょとん顔をする鯉菜。


『へ? 私? 何で?』


様子見なくても元気そうだから大丈夫っしょ!と笑顔で答えるが、そうじゃない。


「お前は盃を交わさなくていいのかい?」

『……は? 誰が。』

「お前が。」

『誰と。』

「…後ろにいる奴らとか。」


そう言えば後ろを振り返って固まる鯉菜。そこには青や首無、毛倡妓、河童など、リクオとの盃をし終えた者が集まっていた。


「お嬢! ワシらと盃を交わして下せぇ!」

「俺達、リクオ様と鯉菜様率いる百鬼夜…」

『断る。』


ーは?
俺だけじゃねぇ。牛鬼や盃を交わしに来たコイツら皆、思ってもみなかった反応にフリーズする。


「ど、どうしてです!?」

『アンタら今リクオと盃を交わしてきたんでしょう?』


その言葉に全員頷く。


『だったら、私は邪魔になるからしない。』

「邪魔って……どいうことです?」

『例えば、リクオと私が同時に命を落としそうな状況になった時どーするの。どっちかしか助ける事ができない。でも悩む暇なんてない。二人共盃を交わしたお方だ!
……さぁどうする?』


その言葉に一瞬押し黙る皆。鯉菜はまるで答えを聞かずとも分かってるような顔で、口を挟むことを許さないかのように、直ぐまた話始める。


『そうならないためにも、私とは盃を交わすな。リクオを、支えて、守って、時には怒ってやって欲しい。でも、皆の気持ちには感謝するわ…ありがとう。……弟をよろしくね?』

「鯉菜…様……」


昔っからそうだ。リクオが生まれてからコイツは、全てリクオを優先してきた。


「本当にアレで良かったのですか?」


アイツらが去った後、牛鬼が渋い顔をして聞く。


「鯉菜様は…これからどうするつもりなのですか。人間として歩むのですか、それとも、」

『私は…三代目補佐としてこれから動くつもりよ。ただ、それだけ。』


牛鬼の言葉を遮ってそう言ったのは、さっきまでの昼の姿ではなく、夜の姿の鯉菜。


『…そうだ、お父さんは今回の出入りに参加するの?』

「んー、確認したい事もあるし、行くつもりだが…どうかしたか?」


俺の言葉にニヤッとする夜の鯉菜。
心配だ、こんなに色気があったら変な虫が寄ってくるんでは……。
そんな親馬鹿なことを頭の隅で考えていれば、


『ボロボロの刀…でしょ。』

「!」


俺の考えをピッタリと当てた鯉菜。
驚いた…まさか、あの刀を覚えているのか?


『お父さんを刺したのもボロボロの刀だったもんね。でも刃こぼれしまくりなボロ刀がこんなアチコチにいっぱいあるもんかねぇ…。』

「奇遇だな…オレもお前さんと同じことを考えていたんだ。」

「誰かの差し金かもしれぬ、ということか。」


3人で見合って、互いに頷く。


「内通者が本格的にいる可能性がでてきたな。」

「えぇ、あまり重要な話は総会でしない方がいいですね。」

『まぁ取り敢えず今回は…狸の駆除とボロ刀のチェックをするとしますかねぇ。』


そして、タイミングが良いのか悪いのか、敵襲の知らせがくる。


「て…敵襲ー!! 敵来襲ーーーー!!」


その言葉に騒ぎ、慌て出す妖怪達。情けねぇなぁ……おっ、リクオが出てきた。しかも、夜の姿だ。


「競競としてんじゃねぇ。相手はただの化け狸だろーが。
……猩影。」

「え?」

「てめぇの親父の仇だ。
化け狸の皮はお前が剥げ。」

「は、はい…」


かっくいーねぇ…リクオの強みはここにあるかもな、この昼の姿と夜の姿のギャップに。ここで相手を畏れさせるんだろうな。


『…そんじゃ、リクオも変化したことだし…
行きますかねぇ、お父さん!』


鯉菜の言葉に頷く。


「あぁ、落とし前つけに行くぜ!」





(「姉貴・・・」)
(『リクオ・・・』)
(「さっきはよくもやってくれたなぁ・・・」)
(『え、何そのエロ悪い顔・・・っ痛ァ!!』)
(「本当・・・外は夜でも内は昼なんだな」)




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