▽ 怒り
ザワザワ・・・
『…?』
何だか外がうるさいな…。
武器の手入れを中断し、庭に出てみれば
『……牛頭、馬頭!』
三羽烏に助けられ、満身創痍な二人がいた。
そうか…あれは今日だったのか。
「鴆殿は来ているか!! 牛鬼殿も…呼べ!!」
二人の元へ寄ってみれば、馬頭は完璧に気を失っている。
『牛頭、ちょっと待っててね。
先に馬頭を治すから。』
馬頭に手をやり、治癒の力を使う。取り敢えず今は重症な所だけを治そう。
「牛頭丸! 馬頭丸!!」
『…リクオっ』
真っ青なリクオを見て、現実を突きつけられる。
あぁ…こうなることは原作で分かっていた。
分かっていたのに、何も出来なかった。
いや、しなかったんだ。
リクオをただ見てるだけで、私は何もしなかったんだ。原作を言い訳にして、私は辛いことを全てリクオに押し付けているんだ……。
「敵の本拠地へ潜入したそうだ。」
「何だ…奴らのアジトは分かっているのか」
「幹部に黙ってなーに勝手なことしとんじゃ」
「下手に刺激したら傷口を広げることになるだろーが、バカか」
屋敷中から非難の声が聞こえる。
…何でだよ。
「誰の策か?」
「牛鬼だろう…しかし愚かな事を…」
違う。牛鬼じゃない。
「牛頭丸…ごめん…僕のせいだ。
君は…僕の命令で動いたのに、こんな、こんなことになるなんて……」
「リクオ様の命令だったんですか!?」
違う。リクオのせいでもないんだよ。
リクオの言葉に辺りがまた騒ぎ出したが…周りやリクオのその言葉に、プライドの高い牛頭が怒る。
「うるせぇっ、てめぇの傷を…人のせいにするとか思ってんのかオレが! オレの…力不足だ…!」
力不足? …それも、違うだろ。
牛頭丸、リクオに対するお前のそのプライドを押さえていたら…こうなることはなかったんじゃないのか? だが…こうなることを分かってて対策を取らなかった私に、牛頭を責める権利はあるのか?
「リクオ様の…作戦だったのか…」
「リクオ様ではダメなんではないか?」
「この組は妖怪集団、率いれるわけが無い…」
「結局は人間のガキなんだ…」
「牛鬼や達磨は器を、見誤…」
数々のリクオを非難する声に、私の頭が瞬時に真っ白になる。
そして、気が付けば…もう叫んでいた。
『ごちゃごちゃウッセーんだよ!!
文句しか言えねぇクソどもが!!!!』
私の怒鳴り声に、場が一気に静まり返る。
ふざけんなよ…
リクオは一生懸命頑張ってるじゃないか。
なのに何で……!! 助けようとも、手伝おうともしねぇのに文句ばっか言ってんじゃねぇよ!
『今回の責任は牛鬼のでもない! リクオのでもない! だからリクオ、軽々しく頭を下げんな!
それに、今は謝ることよりも先にする事があるでしょう!?』
「えっ…ぁ、治療…っ」
『違う!
牛頭丸! アンタは…どうせ牛鬼やリクオの言い付けを守らずに深追いしたんだろ!?』
「…なっ…」
『…馬頭丸はもう気絶してる。
起きてるのはてめぇ一人だ。お前もここで寝るか!? 満身創痍になりながらも得た情報を! 気絶した馬頭丸の努力をも無駄にするつもりか!?』
「ま、待てよ鯉菜! コイツも早く手当し…」
『黙れ鴆!
…牛頭丸、アンタは今てめぇの下らねぇプライドが起こしたミスで、結局は牛鬼とリクオに迷惑かけてんだよ。それどころか、馬頭丸も重症だ。
…せめてものケジメとして、馬頭丸のためにもする事があるんじゃねぇのか! ここまで言っても分からないようなら…勝手に寝とけ!』
「ちょっ! ね、姉ちゃん…!!
そんな事言わなくたって、ふた…」
「報告します!!」
私を止めようとするリクオの言葉を遮り、牛頭丸が叫ぶように言う。
「敵は…変な刀を持っています。アイツの百鬼夜行は罠です! ゲホッ あの百鬼は…ボロボロの刀を強くするための…グッ、材料にしか過ぎません!!」
「罠…? 刀を、強くする?」
「ボロボロの…刀……」
牛頭丸の報告に混乱するリクオ、そして目を鋭くするお父さん。
…これくらいでいい、よね。
『…報告ありがとう、牛頭丸。後はゆっくり休んで。それとリクオ…』
「…な、なに…?」
『…少し寝たら?』
後ろに周り、リクオの首に手刀を落とす。
体調管理もできないで〜って説教しようかと思ったけど、めんどくさくなったのは此処だけの秘密だ。
『私は馬頭と牛頭を診るから。
鴆、リクオをよろしくね。』
倒れるリクオを鴆の方に投げ渡す。
扱いが乱暴? 仕方ないよ、女の子だから男の子を抱えるなんてできません。
「はぁ……お前、少しやり過ぎだろ。」
『そう? 我慢した方だけど…私的には。』
鴆にそう言われるが、私はやり過ぎだなんて思わない。…偉そうなことを言う権利は私にはないと思うけど。
ああ、そうだ。
ついでに釘を刺しとこう…これ以上リクオの悪口を聞かされたら、私は我慢出来ないだろうから。
『だって、本当だったら八つ裂きにしてやりたいところを我慢したんだよ? まぁ、次は我慢出来る保証はどこにもないけどね〜。』
リクオの陰口言っていた庭にいる妖怪達に、殺気を飛ばしながら言う。上手くできてるかどうか分からないけど。
…私の悪口言うのはいい。
でも一生懸命頑張ってるリクオの悪口を言う奴は許さない。…自分でもビックリだよ、まさかこんなにも腹が立つなんて。
静まり返る中、
じゃっ牛頭丸を運んでくれる? と牛鬼に頼み、牛鬼と共に部屋の中へと入っていく。
……私を睨む、数々の視線を背に感じながら。
(「鯉菜様は血も涙もない方ですな・・・」)
(「怪我をした牛頭丸に報告をさせるなど!」)
(「しかもリクオ様に手刀して・・・。」)
(「我々を射殺すような目付きで睨んでいましたなぁ・・・おそろしい。」)
prev /
next