この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 大将と部下

夜ー奴良組本家にてー

総会が開かれているなか、私は別室で犬神の看護をしている。…今サボりだって疑ったでしょ。失礼な!! 全くその通りですけどね!!


「んぁ…、どこだ、ここ?」

『あ、起きた? わんわん』

「…わんわん? って……なぁ!? てめ!! 何でここにいるぜよ!!」

『私の家だもん。』


その言葉にはぁあああ!?とテンパる犬神。
そんだけ声が出せりゃもう大丈夫だろう。


「オレを…どうするつもりだ。殺すのか? それとも情報を吐かせるための餌か!?」


私に警戒するその姿はまさに野良犬。でも警戒が高いだけじゃなくて、どこか哀しい目をした野良犬だ。


『殺しもしないし、情報もいらない。
ただ、君にチャンスをやろうと思ってね。』

「……チャンス?」

『そう。君の進む道を選ぶ…チャンスだ。』


その言葉に押黙る犬神。
多分…玉章のことを思い出してるんだろう。


『リクオは近いうちに玉章と戦う。そして、勝つ。絶対に勝つ。仲間を大切にしないような奴に、うちの組が負ける筈がない。そしてあなたには3つの選択肢がある。』

「…3つ?」

『そう。1つは、奴良組に入ること。』

「な、何でオレが……ふげえっ!!」

『2つ目は、玉章の元に戻ること。』


ん? 犬神に何したかって?
喧しいからタオルを口に突っ込んだだけだ。


『3つ目は…奴良組にも玉章の元にも入らず、新たな道を自分で切り拓くこと。』

「!」

『アンタはどーしたい?』

「…むが…オレは……できることなら、玉章の元に帰りたい。」


口から出したタオルを握り締め、自分の気持ちを吐き出す。…別に汚いだなんて思ってないよ? そのタオルもう触りたくないだなんて思っちゃあいないよ?


『アンタを殺そうとしたやつなのに?』

「っ…それでも、あいつは、玉章はオレを認めてくれたんだ! 俺はアイツのこと嫌いだけど、でも…俺はアイツに、ついていきたい…」

『本当…アンタは〈犬神〉だね…。人を…玉章を呪い、恨み、でも玉章を好いてるんだね。』

「なっ…別に好きなんじゃ……」

『別にBL的な意味で言ってんじゃないわよ』

「当たりめぇだ! お前ぇ何だ!? 腐女子か!」

『私はなんっでもイケる!』

「知らねぇよそんな事! どうでもいいぜよ!」

『ねぇ、話をそらさないでくれる?
私は真面目なんだけど。』

「なっ、てめーが先にそ……ふごぉっ!!」

『はぁ…。
犬神、部下には大事な役目が2つあるの。』


再びタオルを突っ込んで強制的にお口チャック!
ふがほご言ってるけど聞いてんのかよコイツ。


『1つは、大将を支え、大将についていくこと。まぁ、これは知ってると思うけどね…』


タオルを口から再び出した犬神の目をまっすぐ見て、私はゆっくりと口を開く。


『もう1つは、大将が間違えた時には…大将を正すことよ。』

「! …た、だす……」


動揺する犬神の目から視線を逸らさずに頷く。


『アンタも分かったでしょう?
今日の玉章を見て…。アイツは今、間違った道を歩んでいる。力を持った大将を正すのはとても勇気がいるし、怖いことだけど…それすらもできる者が、本物の大将想いの部下よ。』

「玉章を……正す。」

『ついでに言うなら、大将が全てを失った時に傍にいてあげるのも、立派な部下の役目よ。』

「………………」

『…何も、玉章を倒せなんて言ってないわよ?
そもそもアレを倒すのは私の弟だし。』


そこまで言って立ち、襖を開ける。総会が終わったのだろう、ガヤガヤと外が騒がしくなってきた。


『ただ、リクオに負けた後の玉章には…きっと何も残っていないから。そんな玉章にどう接するかは…あなた次第ってことよ。』


まぁゆっくり考えなよと言って、部屋を出る。こういうのは、自分で何をしたいかを考えてその道を自決するのが大切だから…1人で考える時間を与えた方が良いだろう。



「てっきり仲間になれとでも言うのかと思ったが…そう来たか。」



部屋を出れば、支柱に寄りかかるようにしてお父さんがいた。いやだわ〜…これがアレか。噂の…


『覗き間ですか。変態。』

「覗いちゃあいねぇ。聞いてただけだ。」

『盗み聞きも覗き見も変わらんわドアホ。』

「…いいのかい?
最悪、また殺されるぜ…あいつ。」

『っ、そこまでは私も…知らないわよ』


……考えてもみなかった。
玉章がリクオに敗れたあと、アイツは犬を滅茶苦茶大切に抱いていた。まるで…殺してしまった犬神を、今度は手放さないように、優しく、優しく、抱いていた。でも…あれはあくまで犬であって、犬神ではない。お父さんの言う通り、一度見捨てた犬神をまた斬り捨てる可能性はゼロではないんだ。


「いた! 姉ちゃん! お父さん!」

『…リクオ、』


廊下を歩いて来たのはリクオ。
……笑顔ではいるが、実際のところ顔色が悪い。当たり前だ、昼も夜も動いて寝てないんだから。


「行こう。」

『…うん』

「あぁ。」


3人並んで、同じ部屋に向かう。今から話し合いをするのだ。さっき私がサボっていた総会は表向きのものであって、いわば…茶番みたいなもの。
これからが、本当の会議だ。


 

(『(自分のしている事が正しいのかどうか・・・分からなくなる。)』)




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