この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 保護

「ナンダ…誰ダ オマエ……」

「学校でこんな姿になるつもりはなかったがな…とっとと舞台から下りてもらうぜ。俺もお前も…ここには似つかわしくねぇ役者だ。」


その言葉を合図にリクオは動き出す。犬神の攻撃を避け、次々と斬りつけていくが…犬神の毛並みに足を滑らす。どんだけアイツ毛並みいいんだよ。


「チッ」


出来た隙を見逃すわけもなく、犬神は尻尾でリクオを吹き飛ばす。一方リクオは…どうやら受身はとったものの、頭に怪我を負ったようだ。頭から血が流れている。
だがその血を拭い捨て、ただ一言……


「やるじゃあねぇか」 


…犬神の負けだ。リクオを畏れたから。


『腹立つほど仕草が無駄にカッコイイよな…リクオのやつ(ボソッ)』

「当たり前だろ? オレの息子なんだから。」

『まぁね〜。………………ぅえっ!?』


何でお父さんがここにいるんだ! てかさ、いつからいたの!? それとアンタはどんだけナルシストなんだよ!
どこから質問をしようと悩んでいれば、私の唇に人差し指を当て「しーっ」と言うお父さん。
まぁ…確かにこんなイイ場面で質問攻めするのもね、不粋だわ。


「うおおおおおおおおおおおお」

「出たな! 妖怪!!」


雄叫びをあげる犬神に、絶妙なタイミングで清継がスクリーンに映る。……変な格好。


「学校で暴れおって、そこの不届きな大妖怪!!
この僕…清継ふんする〈陰陽師の美剣士〉が来たからには…悪事はもう許さんぞー!!」


その言葉に生徒達はホッとしだす。
どうやら、リクオも妖怪も全てが演出だと判断したようだ。ちなみに犬神は思考停止中のようだ。スクリーンをガン見して、手が止まってる。
仕方ないなぁ……


『「なんだこのワカメ…ワカメが服を着ているだと!? しかも剣まで持って!!?」』

「いや、流石にあの犬コロもそんな失礼なこと考えちゃあいねぇだろ…。」


犬神の気持ちを代弁してあげたのに、何故かお父さんにハリセンで叩かれました。
なんだよ、まだ持ってたのかよソレ。


「よみおくりスノーダスト退MAXーー!!
くらえーーーー!!」

『ネーミングセンス……』

「言うな…言ってやるな!
ワカメ君が幸せそうだからいいじゃねぇか…!!」


フォローしてるつもりかもしれないけどさ、お父さん…彼、ワカメって名前じゃないからね?


「今です、若」

「犬の動きは止めました」


清継のスノーダストという言葉を逆手に、遠慮なしに犬神を凍らすつらら…そして更に糸で縛る首無。


「つらら…この雪 ちょっとやりすぎだぜ」

「リクオオオオオオ」


犬神を斬ったリクオ…そして倒れる犬神。


「うわっ!? 血だらけの生徒が…」


壇上には、変化が解けて血だらけになった犬神がいる。だが、それでも諦めない犬神…自分が負けた事に気づいていないのか、はたまた気づかない振りをしているのか。


「オレをここまでやったんだ!
もう、終わりぜよー!! おらっ…飛べよ!
…首がっ! なんで、何で変化しねぇーーー!!」


その時、夜雀が現れて照明を割る。


「なんだ…何しやがった夜雀ぇ……
これから殺るとこなのによー!!」

「失敗したんだね、バカな犬神……」


だが、犬神の言葉に答えたのは夜雀ではなく玉章だった。
…そろそろ出番かな。
番傘から刀を抜き、刀だけをお父さんに手渡す。


「?
おいっ……?」

『持ってて。すぐに戻るから。』






「残念だよ。
君の能力は人を呪い恨み強くなる。なのに、君は畏れてしまった。君はもはや役立たずだ…。」

「な…何言って! オレを認めてくれたのはお前じゃねぇか!! オレはまだやれる!!」


玉章の辛辣な言葉に、犬神が悲痛の声をあげる。
しかし、玉章は犬神の話を聞くつもりはないようで、ゆっくりと手を挙げて犬神を消そうとする。


「いや、もう終わりだ。
散れ、カスい……」

『させない。』


犬神を玉章から遠ざけ、代わりに開いた番傘を玉章に向ける。そして、玉章の手に触れた傘は瞬時に葉となり…散っていく。
あの柄、結構お気に入りだったんだけどな…。


「おま…どーして、オレを?」


さて、刀はお父さんに渡してきたし…手元にあるのは鉄扇と銃。犬神のことは諦めてさっさと帰って欲しい…ここで戦うことになったら面倒だ。


「…分からないな。
その犬は君にとって敵だろう? なぜ助ける。」

『…分からないわ。
この犬は貴方の仲間でしょう? なぜ殺す。』


質問を質問で返せば、玉章は一瞬眉をひそめたものの…鼻で笑って答える。


「ふ…仲間? そいつらは皆ボクの駒だ。
役立たずなら…捨てるのみ。」

『…やっぱり私アンタのこと嫌いだわ。
このワンちゃんはウチで保護します。』


言い終わるやいなや、攻撃されないうちに明鏡止水で犬神と共に姿を消す。
逃げるが勝ち!! ってこともあるもんよ。


『…お父さん、犬神を見張ってて。』 

「おまっ、何して…て、あれ?
白目むいてんぞ、コイツ。」

『暴れたら面倒だから寝てもらってるだけ。じゃ、私司会の仕事があるからよろしくね。』


急いで人間の姿に戻り、舞台裏からコソコソとリクオと玉章の会話を見守る。


「ボクはー 四国八十八鬼夜行を束ねる者。そして八百八狸の長を父に持つ者。妖怪・隠神刑部狸、名を玉章。君の畏をうばい、ボクの八十八鬼夜行の後ろに並ばせてやろう。」

「それは、こっちのセリフだぜ…豆狸。」

「それでは、さらばなり。また会おう。」

「芝居かかった狸だ…。
……早く消えるぞ、終幕だ。」


玉章が消え、リクオも去り…
そして清継が現れる。
スクリーンを突き破りながら。…つぅかさ、学校の部品壊すなよ。


「妖・怪・退・散ー!!」


お前は妖怪好きなんじゃなかったのか…退治する側に回ってるぞ。


「僕に任せれば万事OK!!
生徒会長には演出力! 企画力! そして実行力のこの清継へ清き一票をーーーー!!」


途端に会場が盛り上がる。
ありえねぇ、すげー、だのなんので大反響だ。
……こいつって運がいいよな。


『皆さーん、お静まりくださーい。…おーい。皆ー……そろそろ黙りやがってくださーい……おーい…。』


私、急いでるんですけどぉ!!
首無とか犬神が暴走したりしてないか…確認しに行かなきゃなんですけどぉ!!


『…なーる……あいつが居るからか。』


未だに壇上でドヤ顔している清継。
あいつのせいで皆静まらないんだな、うん。


『…フライングキーック(棒)』

「ぐはっ!!」


後ろから飛び蹴りを食らわして、壇上から蹴り落とす。結構高さがあるが、まぁコイツなら平気だろ。そして一気にシーンとなった会場を満足げに見渡す私。


『それでは生徒会長候補者の演説、および、応援演説はこれにて終了です。最後に本日の候補者の中から1名を選んでー…』


はぁ…疲れた。
生徒の人数がそんなに多くないので結果は30分程度ですぐ分かる。取り敢えず、司会の仕事はもう終わりだ。
そしてダッシュで向かう先は…屋上!!


「やっぱバレるかな〜、清継くんの演出ってことでギリギリセーフじゃない?」

「絶対バレますよ!」

「むしろバレていいのかと思ってましたよ!!」

『いや、ギリギリセーフだったよ。』


その言葉に、えええええぇぇぇ!!??と響きわたる屋上。


「本当!? よかった〜」


何故バレない…という、リクオを除いた皆の心の声が伝わってくる。最もだ。


「はっ…それより鯉菜様!!
どーするんですか、犬神を助けて!!」

『どーするもこーするも…そんなの犬神次第でしょ。』


あいつは敵ですよ!?と口うるさい首無を無視して、犬神の居場所を皆に問う。


「ここにいるぜ。」

『あ、お父さん…見張りありがとね。』

「おぅ。…お前、どんだけ強く殴ったんだ。まだコイツ白目むいてんぞ。怪力娘め。」

『…うるさい。』


夜の姿になると力加減がわからなくなるんだよ!





(『取り敢えず、帰ろうか・・・』)
(「いーの?司会の仕事とか。」)
(『もう終わったから大丈夫。』)




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