この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 千羽様

家を出て少し離れたところで、夜の姿に変化し、傘をさしたまま病院まで走る。


「放してぇ!!」

『…鳥居!』


しまった、少し遅かったか!?


「いいいいいーーーー!!放して…放……
化け……!!」

『放してっつってんだろ?』


鳥居の袖を破り袖モギ様に渡す。
間に合ったのか、間に合わなかったのか……鳥居は気を失っている。


「あ…何だ? お前」

「鳥居ーどうした……!? 誰!?」

『巻さん…鳥居さんをお願いね』


現れた巻ちゃんに鳥居のことを頼む。
何が起こってるいるのか理解出来ず、混乱状態に陥っている巻だが…説明している暇はない。


「危ない!!」


千羽様の声に振り返れば、私の袖を掴んでいる袖モギ野郎。…こいつに様付けなくてもいいよね?
 

「そいつに気安く触れんな。」


攻撃しようと番傘を構えた途端、第三者の攻撃に袖モギは襲われる。


『…つけてきたの?』

「人に護衛をつけろなんて言っておいて、お前さんはつけてねぇじゃねぇか。」


ニヤっとして言うお父さんに少しカチンとくる。人の揚げ足を取るようなこと言いやがって。
私は沸点が低いのだ。


『それを言うためだけに来たの?』

「ちげぇよ。お前さんの護衛として来たんだよ。」


お父さんの周りを見るが特に誰もいない。


『ふぅん…護衛も付けずに、ね?』

「護衛なら目の前にいんじゃねぇか。」


そう言って私の肩をポンッと叩くお父さん。
……何を言ってるんだこの親父は。


「俺はお前を護衛するから、俺の背中はお前さんに預けたぞ?」


……まさかそう来るとは。あまりの予想外な出来事になんだか可笑しくなる。
やっぱお父さんには適わないや。


『……りょーかい。』


クスッと笑いながら、お父さんにならい…私も構える。
え? 2対1なんて卑怯だって?
いいんだよ、どうせこの袖もぎ何たらは殺られる運命なんだし。


「二代目!?…と誰だ? 、その子は……!!」


突然現れた黒田坊の視界に倒れた鳥居が入る。
……そっか、そういえば、黒は鳥居のこと知ってるんだよね。


「その子に…何をした…!?」

「ぬおおお!? こりゃたまらん。ただの坊主かと思いきや。ワシは守り神殺し専門。武闘派にゃー適わんて。」


黒田坊の攻撃をなんとか避け、袖モギは逃げていった。逃げ去る背を見ていれば、後ろで啜り泣く声が聞こえたため振り返る。
あぁ…やっぱり原作通りになってしまったようだ。


「鳥居! 鳥居ーーーーー!!」

『…巻さん、医者を呼んできてくれるかしら。
その間、この子を見とくから。』

「え、あ……は、はい!!」


医者を呼びに去った巻さんを確認し、鳥居に呼びかける。意識は辛うじてあるようだが、凄く息苦しそうだ。……それでも、原作よりはマシにすることが出来たのだろうか。分からない…。


『鳥居さん…もう少しの辛抱だから頑張って。』

「それは! 二代目と同じ…治癒の力!?」

「これが…治癒の…」


駄目元で治癒の力を使えば、驚いた顔をする黒田坊に、感心したような顔をする千羽様。
…さっきから薄々感じてたんだが、


『黒…気付いてないよね。私だよ、鯉菜。』

「え…えぇっ!? ついに覚醒したんですか!!」 

『んー…まぁそうだね。』


前から出来るけど、それを言ったら説明が面倒なので適当に合わせる。


「リクオは親父似だが、鯉菜は俺似だなぁ」


そこで、嬉しそうに満面の笑みで私の頭をわしゃわしゃするお父さん。治療の邪魔だから止めて欲しい。


「あ、あの…鯉菜様。失礼ながら、治癒の力はその子に効かないかと思われます。」

『…どーして?』

「この娘は呪いに蝕まれています。
鯉菜様のおかげで即死は免れたみたいですが…このままじゃ朝方には死にます。」

『……力が、足りないのか。』

「…っはい、その通りです。…すみません」


駄目元でやってんだし、あなたが謝ることじゃないと言えば、何の話だと話に加わるお父さん。
そうか…お父さんは千羽様を知らないのか。


「人を助けたいと思う気持ち、集められた人の想い、それが小生。だが小生はこんなにも縮んでしまった。誰も参らなくなった神は消えてしまう。私にはもう力がないのです。…何年も、鯉菜様以外ここには誰も来ていない。」

『ちょっ…』


それ内緒だっつったよねぇえええ!?


「鯉菜、お前ここに来たことがあるのか?」


その言葉に、ハッとして私に謝る千羽様。


『さぁ? 何のこっちゃい。』


とぼける私から千羽様に視線を向けるお父さん。慌てて必死にお父さんの口を押えようとするも、逆に私の口が押さえられてしまう。


『もがーーーー!!(言うなよ千羽様!)』

「さてと…千羽、話してくれるよなぁ?」


うわー…すげぇ悪人面だよ、お父さん。
そんなお父さんに勝てる筈も無く、千羽様は「すみません鯉菜様」と言って話始める。


「何年か前、鯉菜様がまだ幼かった頃、千羽鶴を持ってこちらに来たんです。」

「鯉菜が?」


驚いた様にこちらに視線を落とす。
穴があったら入りたい。


「えぇ、二代目がお怪我をなさって…なかなか起きないからって。怪我が治るようにと度々こちらに来てましたよ。しかも、二代目が回復してからも、お供え物を持って来て下さり…一緒に雑談したものです。あの頃はまだ小さかったのに…こんなに立派になられて!」

『ぷはっ、ねぇ、もう止めない? この話』


千羽様の話が終えた所でようやく解放される。
って、えええええ!!!
何このシュールな光景!! 昔を思い出しほのぼのしている千羽様に、涙を流し感動している黒田坊、そして困ったような嬉しいような…緩んだ顔をするお父さん。
皆、鳥居さんのこと忘れてるでしょ。


「こっちです!
鳥居を、鳥居を助けて下さい!」


遠くからガラガラとタンカーの音がする。どうやら巻ちゃんが医者を連れてきたようだ。


『取り敢えず…鳥居をこんな目に合わせたあのクズを探しに行きましょうか。』




(「千羽、今度その話詳しく聞かせてくれ」)
(「勿論です!」)
(『千羽様、やめて下・・・んんーーーー!!』)




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