▽ 雨
「申し上げます。浮世絵町より璞町ー各方面にて妖怪が暴れているとの情報です。」
リクオと共にご飯を食べていると、一人の妖怪が報告しに来た。
『あいつらの仕業だね』
「うん…まさか僕らを直接攻撃するんじゃなくて、人間を襲うとは…」
『「ボクの方が畏れを得るから」…か。奴良組が畏れを得ている方法でも知ってんのかねぇ…。』
「え…? それってどういう…ってうわぁ!!
そんなとこで何してんのカラス天狗!!」
リクオの視線の先には、お椀の中から出てきたカラス天狗が…。まるであれだ、サ〇エさんのオープニングみたいだ。いつか果物の中から出てきそうでホラーだ。
「総大将がどこにもいないんですよぉ〜!!」
『いや、少なくともお椀の中には居る筈ないよね。むしろよくそんな所入ったね。』
「おじいちゃん? いつものことじゃん。」
「違います、今回ばかりは私が目を離したから…きっと狒々様を襲った奴らに〜!!」
「そんな馬鹿な…あの人に限って…」
『まぁ、カラス天狗。考えてご覧よ…生き物は何時の日か死ぬのが運命よ。』
「総大将ーーーーーーー!!!!!」
「姉ちゃん!! 何火に油注いでんの!!」
『それより、外が騒がしくない?』
リクオと顔を見合わせ、庭に向かう。
そこには多くの妖怪が狼狽える姿があった。総大将が死んで、二代目はプラプラしてるし、奴良組もオシマイだと喚いてある。
「これ!! 皆のもの!! これより奴良組はワシが代理で仕切る!! たとえ総大将がいなくともしっかりせんかー!!」
「「「やっぱりいないんだーーーー!!」」」
木魚達磨のせいで、またもや火に油を注ぐことになり、妖怪が尚更嘆き喚く。うるせぇ奴らだ、見苦しいぞ。
そんなことを思っていれば、隣から大きく息を吸う音が聞こえる。
「妖怪が!! おたおたすんじゃねーーー!!」
『…リクオ』
「人々から畏れられる存在なんだろ?
じーちゃんはどっかで遊んでるだけだ、どーせ。ハッキリしてるのは、敵が土足でぼくらのシマをふみあらしてるってこと。」
「わ…若……?」
「入ってきたんなら落とし前付けるだけだ。達磨、てめーが仕切んのは筋違いだ。奴良組は今からボクが仕切る!!」
も、萌えーーー!!!!!
おっと…失礼。ゲフンゲフン。
「おーおー。カッコ良くなりやがって…
そう思わねぇか?」
『…どこに行ってたのよ、お父さん。』
「んー? まぁ、全部とは言わねぇが…少し退治してきただけさ。」
『…護衛も付けずにそういうことするの止めろって前も言ったはずだけど。』
「そう怒るなよ。いくら左肩が動か…」
怒るな?
…人の気も知らないでよく言うよ。
『じゃあこうしようか。お父さんの命には私の命も掛かってるってことにしよう。』
「…どういうことだい?」
『寿命や病気・事故を除いてお父さんが死んだ場合…いや、殺された場合、私も後を追って死ぬことにしようか?』
「てめぇ鯉菜、なに言っ…」
『本気よ。冗談なんかじゃないわ。あんた一人の命だなんて思ってんじゃねーわよ。昔みたいに戦えないくせに…護衛をつけないでネズミ退治ですか。後先考えずに行動するのも大概にしろよ。』
「なっ…俺だってまだ戦えらぁ!」
『じゃあ何で二代目を降りた?
また、お母さんやリクオや私に…あんな思いをさせる気?』
乙女さんこと羽衣狐に刺された時のことが蘇る。
血がどんどん広がるお父さん…あの時のことは今でも時々夢にでてくるんだ。
「! …あれは……」
『こういう時くらいは…護衛をつけてよ』
行くところがあるからと言い捨てて、逃げるように去る私は端から見たら滑稽かもしれない。なんせ急に不機嫌になったのだから。
でも…
毎日護衛をつけろなんて、私もそれが鬱陶しいのを知ってるから言いはしない。でも、こういう時くらいはつけていって欲しいものだ。
『…雨、か。』
ポツポツと降ってきた空を見上げれば、一雨きそうなどんよりとした灰色の雲が広がっていた。
何だろう…何か忘れている気がする。
この後、何か起きるんじゃ…
『…土地神…千羽様。』
そうだ。鳥居が危ないんだ。
行かなくても何とか助かるだろうが、一応行っとこう。それに、どうせ助かるならもっと早い段階で助けても良いだろうし。
番傘、鉄扇、銃の鯉菜三点セットを持ち、家を出る。向かう先は病院だ。
(『やっぱ仕込み傘って便利だわ。・・・傘にしては少し重いけど。』)
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