この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 宣戦布告

『皆さ…おかしくない?』


私の一言で皆がこちらを見る。



おはようございます。鯉菜です。電車に乗って登校なぅです。今日も護衛が豪華ですよ〜、つららと倉田に加えて、毛倡妓、首無、河童、黒田坊が居ます! ぶっちゃけ多過ぎだろ。


「何がおかしいんです?」


コテンと、無い首を傾げる首無。


『可笑しいよ。つららと青と河童以外はみーんな可笑しいよ。学校に行くサラリーマンって何よ。キャバ嬢とか刺激強すぎ。そして首無はもはや不審者に見えるから。』


そう指摘すれば、確かに…と呟くリクオ。
そう、皆は今突っ込みどころ満載な変装をしているのだ。これじゃあ、悪目立ちし過ぎで変装の意味がないと思う。それでも服を変えずに、なんやかんやでそのまま学校に向かった。

そして私とリクオが授業を受けている間、彼らは皆どっかで待機。時々教師の「あの不審者はどこに行ったんだ」発言が聞こえてきたが…、まぁ、まさか皆じゃないたろう! 妖怪任侠なんだから、まさかね、一般人に見つかるヘマしないよね!


『……いや、あいつらなら有り得る。』

「おーい、奴良」

『私は爽◯美茶派です。』

「ざんねん、オレは麦茶……
じゃなくて、奴良にお願いがあるンだが。」


ようやく1日の授業が終わり、帰ろうとしていた時、坂本先生に声をかけられてしまった。嫌な予感しかしない。


『ろくな頼みじゃなさそうですね。』

「そんな事ないぞ。栄誉ある仕事だ。生徒会立候補の演説が今度あるだろ? あれの司会をやるはずだった奴が、急に欠席することになったんだ。親戚の不幸ごとでな。だから……」

『代わりに私がやれ…と?』

「あぁ。いいか?」

『…明日まで待ってもらえます?
少し考えさせてください』

「ん? いいが…珍しいな、お前が悩むなんて。
別に嫌なら無理しなくても…」

『嫌じゃありません。ただ……』


立候補者演説って確か…犬神が暴れるやつだよな。戦うのはリクオに任せるとして、犬神はできたら死なせたくない。奴を何とか救うのに…司会を務めててそれが出来るだろうか。
もしくは司会の立場を利用できるか…?


「…よく分からんが、とにかく、嫌じゃねぇなら考えておいてくれ。」

『…はい。』


司会の仕事内容などが纏めてある資料を受け取り、鞄に入れる。


『どーしたもんかねぇ……』


悶々と考えるが、なかなか答えが出ることはない。


「姉ちゃん、今帰るところ?」

『リクオ…と清十字団。』
 

部活が終わったばかりなのだろう。下駄箱でリクオだけでなく清十字団のメンバーにも会う。


「鯉菜先輩だー」

「先輩、坂本先生と出来てるって本当っスか?」


久しぶりに会ったと思いきや、いきなり変な事を言い出す巻と鳥居。 


『私と坂本先生が? まさか! 何で?』

「今噂になってますよ〜。二人が付き合ってて、でも先輩が博愛主義だから浮気してるって。」

『私浮気してんのか。』

「健全主義な先生が泣いてたって。」

『私の方が健全だろ。』

「よく痴話喧嘩もする程ラブラブだって!」

『わぁー不愉快極まりないわねー(棒)』

「「で、真相は!?」」

『付き合ってません』


そう答えれば、なんだーつまんなーい!とブーイングする2人。元気だねぇ若いわぁ〜。
清継や巻達と校門で別れ、駅までたわいもない話をしながら歩いていく。


『にしても、こんな遅くまで清継のやつ話していたのか。どんだけ妖怪が好きなんだ。』

「本当、勉強になりますよね! 知れば知るほど怖くなる。でもそれが妖怪なんだもの! それが当たり前。逆にそれが魅力…」


夜リクオにゾッコンだな。
急な妖怪に対するカナちゃんの態度の変わり具合に、つららが女の感を働かせる。


「アレは完全に夜のリクオ様に…ホの字にレの字にタの字でございます!」


そうですよね!?とこっちにふる氷麗に頷く。リクオは、あの日の夜何があったんですかと氷麗に責められタジタジになっている。…いいけどさ、カナちゃんがめっちゃアンタらを見てますよ。そろそろ気付こうよ。


「及川さん、家こっちなんだ。」

「何にも知らないのね、家長さん。」


…二兎追うものは一兎得ずだよ、カナちゃん。
まぁ、リクオの場合結局は一兎だけどさ。
つーかさ、
 

『…氷麗はウチん家に住んでるって言わなかったっけ?』

「「え」」


と凍りついたリクオと氷麗に対してカナちゃんは、バツの悪いような顔をする。そして


「遠い親戚…でしたよね。それにしても、仲良すぎません!? ただの親戚ですか!?」


と凄い剣幕でコソコソ言ってくる。恋する乙女って恐いなぁ。一方では


「姉ちゃん!? いつ、どうしてバラしたの!?
てか何て言ったの!?」


とこれまた凄い剣幕で言ってくるリクオ。お前は質問が多過ぎだ。ちなみに氷麗は氷麗で、「バレちゃ仕方ないですね!!」と勝ち誇ったような喋り方で照れるふりをする。何だよこいつら…面倒くさっ!!
道中でギャーギャーと騒ぐ私達……そんな私達に近づく者が1人。



「リクオ君だよね?」



……出た。玉章だ。
どうしよう。シリアスなシーンなんだろうけど、すっげぇ気になる。突っ込みたい。でも…いや、駄目だ。限界だ。


『あなたのその気を付けの姿勢…凄いわね。』


何言ってんだと言わんばかりに「姉ちゃん!?」と叫ぶリクオ。耳元で叫ばなくてもちゃんと聞こえてるよ。精神年齢がババアでも身体はピチピチなんだから。


「お姉さん…?」


リクオの言葉にピクっと反応する玉章。
それでもお手本のような気をつけを崩すことはない。手がちゃんと真横にあるんだぜ?? スゲェな。軍に入ることをお勧めするよ。


「君は…そうか、あの時の……」

『…久しぶりね?
と言っても、2日ぶりぐらいかしら。』

「そうだね……へぇ、もう動けるんだ。」


その言葉に警戒態勢に入る青と雪女。


『…本当、ヤな奴…』


ボソッと呟き、カナちゃんの手を引っ張って後ろに下がる。険悪な雰囲気になる中、玉章に話しかけるリクオ。


「あの…」 

「ボクと君は、こんなに似ている…若く才能にあふれ、血を継いでいる。」


だが、リクオの言葉を遮り、語り出した玉章。
正直…不愉快で仕方がない。私の愛しの弟の肩に乗せているその手をへし折ってやりたい。


『うちの弟とアンタを一緒にしないでくれる』

「ふっ…それは失礼。確かに一緒ではないね。
リクオ君…君は最初から全てを掴んでいるけど、ボクは今から全てを掴む。ボクもこの町でシノギをするから。」

「ま…待って…」

「両手に花か〜!?やっぱ大物は違うぜよ〜」


突如現れたのは…カナちゃんの頬を舐めようとする犬神。だが甘い!!


『失礼しまーす』


右手はハンカチで犬神のベロを掴み、左手は犬神の顎にやる。そして……全力で引っ張る!


『どこまで伸びるのかなー!?』

「ひててててててて!!」


何やってんのこの人ー!!という視線を皆から貰うが、受け取り拒否します。カナちゃんのためにやったんだから、仕方ないでしょ! 別に前から試してみたかったなんてことは…ない、こともない!!


「何て横暴な女ぜよ!! くそっ」


そう言って去っていく犬神。


『ん…?』


……犬神だけじゃない。七人同行や夜雀など、多くの妖怪が後に続く。


「何で………何よあれ…今まであんなのいなかったのに…」


そう恐怖に怯えるカナちゃんの背をさする。どうでもいいけど、針女ってやっぱりメデューサみたいだよね。


『カナちゃん…今日は真っ直ぐ帰って家に居な。怖い目に会いたくないならね。それと…ピンチになってもあの人が助けてくれるなんて考えないようにね? 最悪…本当に死ぬわよ。』


リクオに聞こえないよう、声を抑えて言う。お願いだから、あの馬鹿ワカメみたいに妖怪に捕まろうだなんて思うなよ。





(「姉ちゃん・・・アレって宣戦布告だよね。」)
(『そうね、今夜ぐらいから暴れだすかもね。』)
(「そういえば・・・お嬢はアイツのこと知ってたんですか?」)
(『狒々の所に襲撃に来たの、アイツらの下っ端だもん。そん時に会った。』)




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