この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ できたどーー!!

陽がだいぶ沈んでしまい、徐々に暗くなってゆく。


『…朧車、少し急いでくれる?』

「へ…へい…。」


もう少しで狒々の家に着く私だが…きっと本家では総会が始まっている頃だろう。


『…リクオは、上手くやってるかしら。』


誰にでもなくポツリと独り言をこぼせば、朧車の声が聞こえてきた。


「お嬢、そろそろ着きますよ」

『ありがとう。』


狒々の屋敷の目の前で停めてもらい、耳を澄ます。灯りが漏れる屋敷に、時々ワイワイと騒ぐ狒々組の者達の声。
…よかった、まだアイツら来てないようだ。


『朧車、少しここから離れた所で待っててくれる。そうね…あそこのデカイ木の所とか。』


そう頼めば、不思議しそうな顔をしつつも言う通りにしてくれた朧車。一応朧車も避難させないとね…襲われたらいけませんもの。
一方の私は門をくぐり、勝手ながら家にお邪魔する。


『狒ー々ー様ー!! あ、いた…』

「こりゃどーしたもんか…鯉の坊の嬢じゃねぇか!こんな所まで来てどーしたァ?
あ、大将にオレを呼ぶようお使いを頼まれたんだろう…大変だなぁ。」

『まっ、そんな所です。
ほら、今ならまだ間に合いますから行きますよ!これ被って!!朧車が外で待ってるんですから、早く〜』

「待て、鯉菜嬢。……こりゃあ、何だ?」



そう言う狒々の手には、プ〇キュアのお面が握られている。


『私からのプレゼントです。たまには現代っ子の女性のお面でも被っていきましょうよ!ね!?』

「お主が被れ。ワシはこれで充分じゃ。」


ちぇー…狒々がプリキ〇アの面を被る姿、見たかったのに。


『そんなことよりホラ、行きましょう?』

「ふぅ〜…風邪じゃから休もうと思ったんに、仕方ない。行くとするかのぅ…。」


総会に参加することを決意した狒々だが、どうやら遅かったようだ。


「!
おい…お前ら、鯉菜嬢を隠せ。」


その言葉に、狒々の組の者が私をどこか奥に連れていこうとする…が、


「ん!? 何だ!?」

「消えた…!?」

「今、すり抜けなかったか?」


口々に騒ぎ出す狒々組の者。そして、部下の騒々しさを不審に思って振り向く狒々。


「!?
お主…鯉菜嬢か?」


彼らの視線の先には、覚醒した夜の鯉菜の姿があった。


『…構えなさい。奴さんのお出ましだよ。』


言い終わるや否や、鋭い攻撃が一気に襲いかかる。瞬時に傘を開き、自分と狒々を守るように盾にするが、この傘は決して大きくはない。この屋敷にいるもの全員はもちろん、狒々一人でさえ隠せないほど小さい。いや、小さいというか狒々がデカすぎるだけなんだか…取り敢えず、傘で庇うには限界があるってことだ。


「なにやつじゃ…? 妙な技を使いよる。」


そんなわけで、狒々をチラリと見れば所々切り傷ができている。やっぱ防ぐのは無理だったか。相手は確か…〈ムチ〉という妖怪で毒があったはず。だからさっさと終わらせて、早く治療をしなければならない。
砂埃が起きる中、何人かの影が浮かび上がった。先程の攻撃でまだ生き残っている狒々組の者は、その影に警戒態勢を取る。


「…死ね」


その言葉と共に、風が鞭のように吹く。そして次々と、速くて見えない攻撃に倒される狒々組の者達。
その様子に狒々は圧倒的不利を悟ったのだろう…私に背を向けたまま「逃げろ」と言った。


「鯉菜嬢…ここはワシが時間を稼ぐ。
だから行け。」

『…馬鹿言うな、狒々。
何の為に私が変化したと思ってるの。
私だって、ぬらりひょんの孫なのよ?』


そう言いながら、技の構えをとる私。


『明鏡止水〈桜〉!』


ムチの1人を火が覆い尽す。
で、できたどー!!私もできたどー!!リクオー!!
いや、リクオは今ここにいないけどね!!


「何だ…てめぇ…」


アイツは…確か原作で狒々を殺した奴だ。


『…奴良組三代目補佐予定の奴良鯉菜よ。
貴方達は…化猫屋で暴れた奴ね?
あの時も、この風の切り口があったわ。』

「…だったら、何だってんだー!?」


再び攻撃を開始してくる奴らに、何とか応戦する。だがこちらの部が悪い。徐々に狒々組の者が倒れていっている。


『…試してみっか。明鏡止水〈桜火龍〉!!』


途端、盃から大きく炎が燃え上がり、それは2匹の炎の龍へと姿を変える。
…まさか本当にできるとは思わなかった。
いや、日頃からできるかなーってイメトレしてたけど…まさか、ねぇ?
にしても、この2匹の炎龍はいつまで持つのだろうか。初めてだから全く分からん。
そんなこんなで、
私や狒々組+炎龍2匹とムチとの攻防戦が続く。こちらは防御で精一杯ですけどね!


「ぐぅ…っ!!」

『っ狒々!!』


たった一瞬、されど一瞬。
狒々に気を取られた瞬間、炎龍が二匹とも消える。防御ががら空きだ…そしてそれを見逃す程弱い敵じゃあ、ない。


『しまっ…!!』

「あばよ!」


倒れている狒々と、それを庇うように立つ私に容赦なく攻撃を繰り出そうとするムチ。殺られると思ったその時…



「やめろ。」



そう言って出てきたのは意外にも玉章だった。
止めた玉章にムチは食って掛かるが、全く無視されている。どういうつもりなんだろう。


「君、いいね。どう?
奴良組なんか捨てて…僕と一緒に来ないかい?」

『…悪いわね。残念ながら、貴方は私の好みのタイプじゃないの。断らせて頂くわ。』

「…くくっ、それは残念だ。でも、僕は諦めが悪いんだ。必ず君を…手に入れてみせる。」


行くよ、と言って去っていくお上りさん達。
何かスッキリしない終わり方たが、致し方ない。助かってラッキーだと思おう。


「うぅ…っ」

『狒々っ、しっかりして。本家には鴆がいるから、朧車に乗って行こう。』


治癒で狒々の傷を治しながら、大声で朧車を呼ぶ。
聞こえてるといいなぁ、と思っていると…ガラガラと音を出しながらやってきた朧車。


「な、なんですかぁコレは!!
ってか鯉菜様、覚醒したんですか!?」

『驚いてる暇何かないわよ。
いい? 狒々を乗せて今すぐ本家に向かえ。そんでできるだけ早く鴆を連れて来い。まだ何人か息があるから。急げ!!』

「は、はぃぃいいい!!!!」


狒々を乗せた朧車が本家に向かうのを見送る。
本当は同行したいところだが、狒々はある程度治療したから大丈夫だろう。今は生き残っている奴を優先して治療したい。


『……どこまで私がもつやら。』


目の前にいる怪我人の多さに、少し眩暈がした。






(「(鯉菜のやつ、どこ行ったんだ)」)
(「(姉ちゃん、またサボタージュかな)」)
(「(全く、とんだ問題児じゃわい!)」)




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