この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 私の扱いおかしくね?

「お前ぇ…さっきから、何だァ…」


思い出したぁ…コイツの名前ぇ…雲外鏡だぁ。
今こいつのモノマネしてみたけど、めんどくせぇ喋り方だな。テンポ遅くてだりぃわ。


『そりゃあこっちの台詞だよ。
人の友達を付け回しやがって…気色わりーストーカー野郎が。全体整形してから出直してきな!!』


整形しても嫌です…って今後ろから聞こえたけど、カナちゃんだよね?君、カナちゃんだよね?
案外ズバッと言うんだね。意外だ。


「オデとカナちゃんを…邪魔するなら、お前から…消してやるぅぅううう」


襲いかかる雲外鏡に刀を構える。
だが…バン!と大きな音を立てて開くドアに、この場にいる全員の動きが止まった。


「…おらん!!」


おらんことない!! ここに私達いるから!!
現れたのはゆらちゃんと清十字団のメンバーだったけど、やはり私達のことは見えないようで、まるで焦点があってない。


「全く気配すら感じひん…」


漫画を見てたときにも思ったけど…やっぱり私達は鏡の世界にいるのかもしれない。だから校内中をバタバタと走り回っても誰も見かけなかったし、今更だけど校内の構造もまるで鏡のように場所が左右反転していた。
まぁそれはさておき…
私達の声も姿も感じられないゆらちゃん達はもちろんゾロゾロとトイレを出ていく。カナちゃんも大声で声掛けするが、やはり聞こえてないようだ。


「カナちゃん…遊ぼ…七年前の続き…」

『だぁから、カナちゃんと遊びたいなら私を殺ってからにしろってーの!!』


私の存在を無視してカナちゃんの元へ向かおうとする雲外鏡に斬りかかる。もうオイラも怒りの限界突破だぜ。
しかしー


『…ほっ?』


なんてことだ。
刀が吸い込まれていくじゃあありませんか。不思議現象についアホ丸出しな声が出ちまった。


『ちょっ、かーえーせーやー!!』


大きいカブを引っこ抜くかのように、刀を引っ張るが…全く抜ける気配がしない。それどころかズブズブと飲み込まれていく。


『…あっぶね!!くっそ』


えっ?言葉遣い?女らしさ?
そんなモン…刀と一緒にこいつに飲み込まれちまったよ!!ヒーハー!!


『あー…もしかして物理攻撃ダメとかー?
やる気でねぇ…テンション下がるー。』


でも一応切り札がまだあるんだなー。
頼りないけれども。


『てれれれってれー。使い方が分からない銃〜』

「…ぇえ!?何で銃なんか!?」

『落ち着き給え、カナちゃん。
これは清継殿に貰ったのだ。』


そう言えば、なるほど…と納得する。
彼女の脳内にはきっとヤのつく職業様方が浮かんでたのだろう。まぁ、実際の我が家はそうなんだけれど。


『でもね、これ。
弾入れるところがなくってさぁ、使い方がよく分かんないんだよねぇえっと!!』


ベラベラと喋っていれば急に襲いかかってきた雲外鏡。一か八かで、雲外鏡の縁っぽい部分を銃で殴る。
ふむ…鏡の縁だったら、吸い込まれずに物理攻撃ができるようだ。よし、リクオが来るまでこの縁攻撃で頑張ろう。


「オデのカナちゃぁぁあん!!!」 

『いつてめぇのモンになったぁぁあ!!!』


右手の銃、左手の鉄扇、そして時々足攻撃で何とか防衛する。銃LOVEな人が見たら、どんな銃の使い方してんだ!!って怒りそうだよ。撃つためのものなのに、鈍器のように扱ってるよ。


「姉ちゃん!?…カナちゃんも!!」

『あ…たっけてー!!りっくん!!』

「リクオくん、助けて!!!」


うん、カナちゃんのが正解だね。
私のは緊張感がないね。でも仕方ない。リクオが来てくれたことに今一気にテンション上がったから。許せ!!


「何で…こっちが見える……ここはオデとカナちゃん…だけ…」


鏡面世界が見えるリクオに、焦りだす雲外鏡。
でもな、これだけは言わせてくれ。


『私も居ますけど?』

「…オデとカナちゃんの………邪魔するやつは…消えろぉおおお!!!」

『…しまっ…!!』


急な猪みたいな突進に反応が遅れる。
慌てて足で正当防衛しようとするも、縁ではなく鏡面を狙ってしまい、そのまま吸い込まれる。


『あれっ…ちょっ、痛い!!痛みないかと思ってたのに痛い!!予想外に痛い!!!』

「痛ぇっ…何するんだぁ…さっさと消えろぉ!」


徐々に吸い込まれて痛いと言う私と、鏡の縁をガンガン銃と鉄扇で殴られて痛がる雲外鏡。何てシュールな光景だ。カナちゃんもさっきから後ろで「お、お姉さん…!?」って心配すればいいのか応援すればいいのか戸惑ってるのが伝わってくる。申し訳ない。だが所詮、人間なぅな私と妖怪な相手。
力の差は歴然だ。顔まで吸い込まれて、息苦しくなってくる。
呼吸困難になるよぅ…!! リクオ、まだっスか!!


『…ぶはあっ!!! げほっ…』


途端に呼吸ができるようになり、雲外鏡からも解放される私。


「てめー
オレのシマで女に…手ぇ出してんじゃねぇぞ」


見上げれば、肩で鞘を抑えながら刀を抜くリクオの姿があった。
カッコイイ…!!
しかも左手で鏡をメキメキ割ってるぞ!! 青田坊みたいだ!! 鏡を割り、やっと雲外鏡の恐怖から解放された私とカナちゃん。
え、私は怖がってなかっただろって?
何を言うか!!私だって怖かったぞ、刀を取られたんだから!!あっ、そういえば…


「ありがとう」


リクオに感謝をしているカナちゃんに反して、私は辺りを見渡す。


「気をつけな」


やっぱり…


『ない…』 

「「え?/あ?」」

『護身刀…なくなってる。番傘の。』


そう呟けば、リクオとカナちゃんも辺りを見渡す。だがやっぱり見つからない。ちなみに銃と鉄扇は吸い込まれてないため無事だ。


「…大事な物なのか?」

『いや、大事な物…なのかな。お父さんに貰ったんだけど。あ、助けてくれてありがとね。夜さん。』

「…おう。」

「夜さん?」

『うん、夜さん。夜に現れたでしょ。ネズミの時も。だから夜さん。』


適当につけたあだ名だけど、まぁいいや。


「じゃあな、気をつけて帰れよ」

「待って!!あの…あっ」


追いかけるカナちゃんだが、いかんせん、足をくじいているため転んでしまった。
いや、正確には転びそうなところをリクオに受け止められたって感じだね。にしても何だその受け止め方。ダンスでもすんのかお前ら。特にリクオ。


「足、ケガしてんのかい…」

「きゃっ!!」


お姫様だっこキターーー。
ええなぁカナちゃん。リクオにお姫様だっこだよ!しかも女の子だねぇ「きゃっ」だなんて。羨ましい。私はいつも「うおっ」系しか出ないよ。
ワイルドだろ〜?
…古いから止めよう。


「ひぇええええ!?」


またもや急にブルブル鳴り出した鞄にドッキリなカナちゃん。ちなみに原因はあの例のキモコワな通信機のぬいぐるみだ。さっき妖怪じゃないって分かったのに…どんだけ妖怪が嫌いなんだ、まぁこんな事あった後だから仕方ないけど。


「どーなったー? 無事かー家長さーん」


…心配した割にはのんびりした声だな。


「あ…ごめん清継くん…大丈夫。全然大丈夫よ。妖怪じゃなかった」

「えー?本当か…?疑わしいなぁー」


疑われて焦るカナちゃん…ふふん、ここは私が手助けしようではないか!!


『大丈夫よー。本当は雲外鏡って妖怪だったんだけど、鉄パイプで鏡を割ったら死んだーアハハ!』

「え…ええ!?その声、鯉菜先輩!?」

「な…何やっとんねん!!危ないやろ!!」

「そーですよお姉さん!あともう少し待ってたら…あのお方が現れたかもしれないのに!!」

『あっは!
…清継くん、今度私に会う時覚悟したまえ。』

「え…えええええ!!??」


通信機の向こうでは、馬鹿だなーお前、怒るに決まってんだろ、などという女子のブーイングが清継に殺到している。ざまぁ。
そして、通信機を切ったのを見計らい、リクオが口を開く。


「オレァ…カナちゃんを家まで送るが、アンタはどーする?」

『私は…』

「いや…!お願い…もうちょっとだけ一緒に…。あなたのこと…もっと、教えてください!!」

『…じゃあ帰ろうかな。邪魔しちゃわる…』

「お、お姉さんも!!一緒に来てください!!」


えええええ……何でだー……


『流石に2人は運べないだろーし?私は…』

「カナちゃん…怖い思いしてもいいんだな?」

「えっ?」

『わっ…!?』


ちょっ、何やってんのかなリクオくん。
私は帰る言うたよね?いや、まだ言うてないけど、言おうとしとったの分かってたよね?なのに何で私も連れていくねん。


『リ…夜さん。お腹が苦しぅございます。』

「我慢しろ。」


我慢てアンタ…お腹にアンタの腕が食い込んでるんぞ!!カナちゃんは片手お姫様だっこ的な感じなのに、何で私はこれ?…姉貴は辛いよ。



(『ちょっ、高い所苦手なんですけどー!』)
(「我慢しろ。」)
(『ちょちょっ、振動が、腹にダメージを!!』)
(「我慢しろ。」)
(『...おまっ、後でみとけ...よ』)




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