この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 酔っ払い

奴良組本家ー


『ふぁ〜…太陽マジ好かんわー』


眩しすぎる朝日にただ下がりなテンションのまま、学校に行く準備をする。


『…おやまぁ…』


さっきまでのローテンションが嘘のように、あるものを見た私は目を輝かせる。
そのあるものとは…


『なんとまぁ…リクオが!
明鏡止水に挑戦しようとしているではないか!』


こうしちゃいられない。草履を履き、静かに庭に出る。盃を構えて集中しているリクオに、後ろからゆっくりと近づく。


「(明鏡止水!桜!!)」


偶然か必然か、鴉が反応するように飛びさってゆく。成功したように見えたが失敗に終わり、バランスを崩したリクオはお酒と共に池に落ちる。
…キターーーーー!


『リックオーーー!
お姉ちゃんも酒浴びするーーー!!!』


助走をつけて、池にダイブ!


「ちょっ、ギャアァァァァ━━━━━!!!!!!」


あ、痛い。鼻ん中に酒水が入った。痛い。


「なっ何やってんの!?姉ちゃん!!」

『いや、酒浴びって何か健康に良さそうだからさ…ね?』

「ね?じゃないよ!
馬鹿なの!? 姉ちゃん馬鹿なの!?」

「…お前ら何やってんだい。」


そこで寝起きのお父さんが登場。
この流れは…


『お父さんこそ、何やってんのよ…っと!!』

「うおうっ!!?」


お父さんの足首を掴み、勢い良く池に引きずりこむ。


『アハハ!お父さん、どう?酒浴びは〜』

「…いいかもしんねぇ。」


何か嵌りそうだな…なんて言いながら、お風呂に浸かるように池の中でのんびりするお父さん。


「もう…何やってんだよ朝から。」


付き合いきれないとでも言うかのように、池から出るリクオ。いや、正確には出ようとしたリクオ、だね。お父さんに足首を引っ掴まれ、池にリターンバック!!


「…もう!!何すんだよ父さん!!!
姉ちゃんも何爆笑してんだよ!!!」


3人で仲良く…とは言い難いが、池の中で戯れているとおじいちゃんとカラス天狗が来る。


「なーにやっとんじゃお前ら。」


残念だったなじいちゃん。もうスペースはないから混ざれないぞ。


「リクオ、さっきのァ明鏡止水か?
小さい頃はよく見よう見まねで真似しとったの〜。まーたあん時みたいに、おじいちゃんみたいになりた〜いとか言って継ぐ気になってくれんかの〜」

「うん。まだ…遅くはないよね」


今度こそ池から出て、素面な顔でそう呟くリクオ。


『楽勝楽勝、大丈夫。』


どことなく焦って不安気なリクオに、心配すんなと言いながら私も池から出ようとする…が!
人生そんなに甘くない。
今度は私が池に…リターンバック!!


「やめとけやめとけ、人間には妖力は使え…
え?何ーーーーー!?」

「じいちゃん…僕三代目を継ぐ!
これ以上組の皆を惑わせない。」


そうハッキリ告げるリクオから視線をお父さんに向ければ、嬉しそうに笑う父の顔がそこにはあった。


『良かったね、お父さん。』

「あぁ、立派になったもんだ。嬉しいねぇ…」


一方、素直に喜ばない者が2人。
いや、一人と一匹?


「そ、総大将…これは…」

「うぬー、わしは夢を見ているのか。牛鬼は一体何を吹き込んだのか…」


おじいちゃんの言葉に、あれ牛鬼の件知ってるの、と驚くリクオ。カラス天狗一族はクソがつくほど真面目なんだから…報告しないわけないじゃないか。それにしても、


『お父さん…』

「…なんだい?」

『寒いね…』

「…パパが暖めてやるよ」


いや、違う。そうじゃない。
私の求めてる答えはそれじゃない。池を出るっていう選択肢を私は期待していたの。


「カラスの息子に口止めしたらしいが、牛鬼と戦ったらしいな!!あいつめー、目をかけてやったのにとんだことしてくれたわい!!あんなやつ!!破門じゃ!!切腹じゃ!!」

「ちょちょっと総大将…まだ詳しいことは分かりません故そこまでは…!」

「そーだよじいちゃん!牛鬼は組みのことを思ってクーデターを起こしたんだ!いわば僕のせいなんだから!だから変な処分とかしたらダメだからね!絶対だよ!」

『や〜〜め〜〜ろ〜〜よ〜〜!!!助けてー!!』

「あっ、もうこんな時間!学校行かなきゃ!!
姉ちゃ…って何やってんのーーーー!?」

「お〜うリクオ〜、お前も混ざるか〜?」

『リクオッ!助けて!!この人酔っ払ってるの!!』


今庭にはとてもシュールな光景がひろがっている。池の中で手を繋ぐ父と娘…しかし、娘の右足は父の顎を全力で遠ざけようとしている。


『早く!!助けて!!さっきから頬すりすりしてくるんだよ鬱陶しい!!』

「あー………うん!頑張って☆ 僕応援してるから!じゃ、先に用意して学校行っとくね!」

『リクオオオォォォォォ!!???』


悲しきかな…リクオは自分の身の安全を選び、姉を見捨てたようだ。


『ちょっ、誰か…ヘーーーールプ!!!』


結局、助けてくれたのは首無でした。




(「鯉伴、てめー何やってんだ!お嬢が風邪引くだろう!!」)
(「ヒック・・・だーから、パパが暖めてやろうとしてたんだってばよー・・・ヒック」)
(『あぁ・・・完璧遅刻だ・・・別にいいけど。』)




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