この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 雨ニモマケズ風ニモマケズ

ピンチに陥った私とゆら。でも、運良く私達は助けられた。私はお父さんに、ゆらは三羽烏に。三羽烏凄いな、あっという間にあのデカイ妖怪を潰したぞ。


「…若はいないのか」

「! お嬢…」

『! シーっ!』


こちらに気付いた三羽烏に、慌てて人差し指を口元にやる。知り合いだってバレると面倒だ。
…あれ?黒羽丸とトサカ丸がプイってしたんだけど。反抗期?もしや私、嫌われてんのか!?
内心焦っていれば、ささ美が二人の頭に拳骨を落とした。ゴッ!って今凄い痛そうな音したけど…大丈夫ですか。


「ぶはぁ!
何しやがるー!てめぇら何者だァー!?」


お湯の中に落ちた馬頭丸がザパァアと出てきて言う。馬頭丸って可愛いよね。


「小僧、自分が誰に口を聞いているのか分からんのか。我らは鴉天狗一族…知らぬわけではあるまい。」


馬頭丸と三羽烏のやり取りを不思議そうに見ているゆら、鳥居、そして巻。いや、みんな無事で良かったよ、うん。
場を見守っていれば、後ろから肩に手が置かれる。やめて欲しい。肩を触れられると、くすぐったいんだよね。


『?』


後ろを振り向くやいなや、誰かから羽織をかけられた。そういえば私今タオル一枚と番傘しか装備してなかったな…
そっか!
だからさっき黒羽丸とトサカ丸が顔を背けたのか!はいはいはい…成程ね。にしても、RPGの勇者もビックリだよ。全裸にタオル一枚で戦うとか…スライムにも負けそうだよ。


『あり…んぐっ』


お礼を言おうとすれば口を抑えられる。後ろにいたのはお父さんで、さっきの私みたいにお父さんは口元に人差し指を持っていってシーッとジェスチャーした。


『……』


すぐ近くにいる巻をチラッと見れば、三羽烏達の光景に目が釘付けだ。どうやらお父さんの存在には気付いていないらしい。お父さんに手首を引っ張られ、そのまま脱衣所に連れてかれる。


『…何?』

「いや、何? じゃねえだろ…ったく。
リクオはどこだ?」

『…さぁ。温泉入ってたから知らないけど、近くにはつららが護衛としているはずだよ。
…それよりもさぁ、着替えていい?』

「あ?あぁ。」


いや、何だこいつ。変態なのか?
それともただの馬鹿なのか?こっちを見てたら着替えできないだろう!


『娘の着替えを見るつもりなの?訴えるよ?』


そう言えば、ようやく気付いたようで、悪ぃ悪ぃと言いながらこちらに背中を見せる。…部屋は出ないのかよ。


「牛鬼だって…知ってたんだよな?」

『そうなるわね』

「知ってた上で、ここに来たのか?」

『まぁ…成り行き上、ね。』


着替えをほぼ済ませたところで、ゆら達が脱衣所に戻ってきた。やっべ、お父さん見つかるじゃん。どう言い訳しようかと考えていれば、手首をお父さんに掴まれる。…何だその得意顔は。


『…あ、』


私とお父さんに気づかずに、それぞれ着替え始める3人。なるほど、その手があったか。


『明鏡止水…。』

「スゲエだろ?」

『…便利だね。そしてお父さんみたいな変態にはとてもありがたい技だね。』

「誰が変態だ。」

『女子中学生の着替えを見るやつは変態だぞ。』

「にしても、現代っ子は膨よかだな…あの年でアレだけとは、毛倡妓にも負けず劣らずだ。」


うんうんと真剣な顔で頷くけど、視線の先はエロい体をした巻ちゃん。


『お母さんに報告しなくっちゃ。
どっかの誰かさんが女子中学生の着替えをニヤニヤして覗いてたって、ね?』

「なっ…ニヤニヤはしてねぇだろ?」


大体オレは若菜一筋だ、とキリッとしながらノロケ話をしだしたお父さん。めんどくさい。
明鏡止水が解けないよう、お父さんの手を掴んだまま脱衣所を出る。


『わぁお…』


三羽烏に視線を向ければ、馬頭丸が吊るされているじゃあありませんか。


『やほ〜馬頭!久しぶり』

「えっ…あ、あれ?もしかして鯉菜?じゃあさっきの刀の奴って鯉菜だったの!?」

『え、気づいてなかったの…まぁ、久しぶりだから仕方ないか。』


もしかすると、さっき山道で会ったときも私のことに気付いてなかったんじゃ…だからあんなにワタワタしてたのかも。知らんけど。
それより降ろして鯉菜〜!と嘆く馬頭丸に笑顔で無理!と即答する。だって見てみ?ささ美のオーラがパねぇっす!怖いっすよ!


「若はどこにいる!?さっさと吐け!」


と鞭を振るう眼鏡美人女子、ささ美は立派なドS女王である。


「いってぇ!どうせもう手遅れだもんね!
今頃牛頭丸に殺されてるよ!」


アハハと笑いながら言う馬頭丸に、またもや鞭がとぶ。痛そうな音…。


『…牛頭丸の方が重症だと思うけどね。』


ボソッと呟きながらも、それでも不安は消えない。


『ささ美、この場を任せてもいい?
もう大丈夫とは思うけど、一応あの子達人間も護っててくれる?
リクオのためにも…』

「ハッ!」

『それと…黒羽丸とトサカ丸は私とお父さんを連れて牛頭丸を探してくれるかな?
重いかもしれないけど、いい?』


問題ありません、と返事する二人の背に早速乗る。そして後悔。


『…! ……!! ……………!!!』


こっえーー!!!!
きゃー空飛んでるー♪なんてモンじゃない!!
ギャアァァァァ━━━死ぬぅううレベルだよ!!
ちょっ、背中に乗った過去の私を全力で殴りたい。何故お姫様だっこをしてもらわなかった!!マジで怖い。


雨ニモマケズ風ニモマケズ…
向かう先は、牛頭丸に襲われているであろうリクオのもと…。




(『・・・・・・・・・・・・』)
(「お、お嬢・・・少し首がっ・・・苦じいでず」)
(「・・・お前にも虫以外で怖いものあったんだな、鯉菜」)




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