▽ タオル一枚でバトルとか辛すぎる。
服を脱ぎ、タオルと番傘を持って温泉に向かう。戸を開けようとすれば、勝手に開いた。
あれ、自動扉なの?
「お姉さん!」
『ん、あぁ、カナちゃんか。』
自動扉じゃなかった。
いや、カナちゃんが開けてくれたからある意味自動ですけどね。
「あの、及川さん…見ませんでした!?」
『あぁ、つらら?
あの子なら男子達と妖怪探しに出掛けたわよ』
「あ、ありがとうございます!」
そう言って部屋に入り、着替え始めたカナちゃん。止めるべきか悩んだけど、もしつららが怪我した時…カナちゃんにはアソコにいてもらわないと困る。怪我したつららを一人にして放っておけない。
「鯉菜せんぱーい、温泉きもちーですよ!」
「早くぅ!って…あれ?何で傘?」
『これはまぁ…なんてーか、護身刀的な?』
ちらっとゆらを見れば、ちゃんと式神を入れた財布を持っている。良かった〜、っつぅか…どういうセンスしてんねん、何その財布。太陽?
『にしても、サオリン…胸でかいな。』
「へっへー!羨ましいでしょう!」
「でも先輩も別に小さくないってゆーか…むしろ身長の割にはでかい?」
『む…チビで悪かったわね』
「え?何センチなんですか?」
153cmと答えれば、意外だとか見えないとか言われた。
「身長、高く見えるからええんやないですか?
…っ?」
『どうした?ゆらちゃん』
女子トークをしていたら、ゆらちゃんが不意に立ち上がる。視線を感じたと答えるゆらに、怒る巻。完璧に島を疑っている…可哀相に。アイツ信用ないんだな。
「いるなら出てきなさいよ〜島ー」
とズンズン進む巻に応えるように出てきたのは、残念ながら妖怪だった。しかもデカイ。
現れた妖怪に直ぐに反応したのは、流石陰陽師と言えよう。直ぐに式神を出すゆらに続き、私も番傘を手に握る。
「禄存!!
…入浴中の陰陽師を襲うなんて、ええ度胸やないの。」
『…陰陽術なんて使えないけど、助太刀するよゆらちゃん。暴れる事ぐらいなら…できる。』
番傘の柄を引けば、刃がでる。妖刀でも何でもない普通の刃だが、手入れをしてるから斬れ味は抜群だ。
式神の禄存と貪狼を出して操るゆら、そして刀で取り敢えず斬りまくる私。
「ええい!陰陽師と刀は後回しだ!
そこの二人を先にやっちまえ!」
「助けてぇーゆらちゃん、鯉菜先輩〜」
「なんとか…食い止める!」
『ゆらっ、私はあの2人を何とか護るから!
アンタは妖怪を蹴散らせ!』
「わ…分かった!」
予想以上に多くてデカイ敵に苦戦する。
しかも巻と鳥居がうろちょろするから大変だ。お願いだから勝手にちょこまかと動かないでおくれ!
『あの二人、どこに…!』
不意に「侵入者〜侵入者〜」という音声と共にシャッターの閉まる音が聞こえる。清継の言っていたセキュリティボタンを巻達が押したのだろう。お祓い済みという紙が貼られたシャッターが降りる。ボロボロで所々錆び付いているシャッターに、いつ貼られたのか分からないほど黄ばんでいる御札。
『…ありゃ効くわけねぇ。』
そして予想通り、いとも簡単に壊されてしまったシャッター。慌ててシャッターを壊したデカイ妖怪に斬りかかるも、図体がデカいからか…致命傷を与えることができない。力がないのか、それとも刀の切れ味が悪いのか…平気そうにしてる大きな妖怪らに段々とイライラしてくる。
『くっそ、全く攻撃効かないじゃん…!』
そして脱衣所からまた外に出た巻と鳥居を、今度はまた別の妖怪が狙う。
『伏せっ…てぇえ!!』
その妖怪に勢い良く斬りかかるも、やはり、致命傷は与えられない。
…妖怪に変化してないからか?
「武曲!」
『…!ゆらっ、ごめん…』
「いや、ええんや…先輩があの2人を護ってるおかげで、私も少し動きやすい。」
ゆらの助けになるつもりが、逆に助けられてしまった…。本当に情けない。
そして、私が妖怪を倒せないでイライラしているように、馬頭丸もなかなか倒せないゆらちゃんにイライラしてきたようで…
「なんだよ!クソっ!行け!うしおに軍団!根香!宇和島!てめーらの怪力見せつけろー!」
「ええ加減にせぇ!!爆っ!!」
ゆらが投げた札が爆発する…すげぇな陰陽師。
そして、ゆらの出してくれた式神・武曲と共に私も襲いかかる妖怪を斬りまくる。
だがー
『んなっ…』
「おわっ…と…」
後ろから巻に抱き着かれる私、そして鳥居に抱き着かれて温泉に落ちるゆら。どうやらいつの間にか馬頭丸に呪文によって2人は操られているようだ。
てか何この子、力強っ!!離せないんですけど!!
『巻っ…ちっ…!』
「なん…どしたんや鳥居さん!邪魔せんといて!」
ゆらちゃんの意識が削がれ、全ての式神が消える。ゆらと鳥居もまずいけど、巻も危ない。もちろん、私もだけど。
「いけ!あの陰陽師と刀のやつ、二人にそれぞれ集中攻撃だー!!」
「……あかん!!」
『…くそっ…』
ゆらの前だけど仕方ない、覚醒するしかない!
覚悟を決めて、変化しようとした時だった。
「てめぇ、誰の娘に手ぇ出してんだい?」
私が良く知る人で…毎日聞く声が耳に入った。目の前に迫ってきていた妖怪の爪はなく、視界いっぱいに広がるのは黒と緑の縦縞の柄模様。
『…お父、さん…?』
「よぅ、息災かい?鯉菜。」
(『・・・元気なわけないでしょ・・・?』)
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