▽ あらしの夜
「さぁ、皆…いいかな?それで」
清継の言葉に、真剣な顔で頷く皆。
何をそんな真剣になってるかって?
「じゃあ行くぞ!…せーのっ!」
清継の声に、皆一斉にトランプを出す。そして清継、島、鳥居、巻の四人が嘆き出す。
「ちくしょおおおまた負けたぁぁぁあ」
「持ってけよー!
賭けたお菓子持っていけばいいだろー!」
『ちょっ、お前ら、黙りやがって下さい。』
周り見てみ?
ここ新幹線だから静かにしろよ。
週末になり、GWが始まった。
そのため、私とリクオは清十字団と一緒に捩眼山に行く途中である。そして時間潰しの為にトランプで遊んでるなぅなのだ。
「お姉さんもやりましょーよー」
『いや、遠慮するよ。
乗り物酔いするタイプだから。』
嘘だけど。ただ単に参加するのが面倒なだけだけど。音楽聴いてノリノリなだけですけど。
『リっくん。
着いたら愛しのお姉様を起こしてくれる?』
「…いいけどさ、断りたくなる頼み方をしないでよ姉ちゃん。」
ありがとうと満面の笑顔で言い、寝の体勢に入る。実を言うと睡眠不足なのだよ。牛鬼編どうしようかと悩む日々でね…頭がモヤモヤ状態だ。
にしても、今週はキツかった〜!
旧鼠のことがあって月曜は会議でしょ?
そっから昨日まで、おじいちゃんやらお父さんやらカラス天狗やら…うるさかった。
犯人は誰だ、どんな奴だ?ヒントヒント!って…言わないって言ったんだから諦めればいいのに。しつけぇオッサン共だ。
今朝の出発前も、
「…犯人、教えて欲しかったなぁ…」
「…教えてくれると…信じとったんじゃがなぁ」
「まだ…遅くないんですけど…ねぇ?」
って3人からネチ×4、クソめんどくさかった。
「姉ちゃん、もうすぐ着くよ、起きて」
ゆさゆさと揺さぶられて、いつの間にか自分が寝ていた事に気付く。周りを見渡せば、お菓子やらトランプを片付けて降りる準備をしている皆…私も用意しないと。
『…帰りたくなる光景だね。』
駅を降りて山のふもとに行けば、そこには長い長い階段が…。巻と鳥居と共に、終わりの見えない階段に愚痴りながら足を進める。実を言うと、この二人とは結構気が合うのだ。キャピキャピしてなくて、中におっさんがいるところがね…親近感湧くんだよ。特に巻紗織の方はおっさん力が高い。身体は女子力高すぎなのに。でもまぁ…ベッタリする程の仲良さではないんだけどね。
『良く分からないって?女の子は複雑なんだよ…』
「鯉菜先輩、どーしたんですか?」
「女の子は複雑って…それ先輩の言う台詞じゃないっすよねー」
『いやいや二人共、私ほど女子力が高いと悩みだってあるのよ?』
全く。分かってないなぁ!この子達は。
「あ、先輩、そこ間違ってますよ!
女子力じゃなくて、オッサン力でしょ?」
『おっと…本当だ、間違えた〜!ってコラ。』
前言撤回。よく分かってんじゃないか。
「ちょっ!水鉄砲!?何持ってきてんですか!」
「懐かしいなぁ〜!あ、気持ちい一!」
キャッキャっと水鉄砲で騒いでいれば、清継に早くしろと怒られた。
あれ?私一応先輩なんですけど、ワカメ君。
階段を上り続けると、何かがあることに気付いたゆら。梅若丸のほこらを発見したようだ。
「意外と早く見つけたな…」
そう言って突然現れたのは汚いじじい。清継が待ち合わせしていたという妖怪を研究しているらしい化原先生だ。ぶっちゃけこのじいさんは馬頭丸が操っているから、この情報がどこからどこまで合ってるのかは定かではないけれど。
それはともかく、
少し移動し、岩がいっぱいあるところにて休憩がてら昔話を聞く。その昔話を聞きながら、牛鬼の妖怪になった所以を思い出す。原作で知ってるとはいえ、もう何年も経ってるんだ。細かい所は記憶になったから、ある意味この化原先生(仮)には感謝だ。
「よくある妖怪伝説っぽいですね…?」
「昔話にありがちな話じゃんか…」
ホッとしたように、そうコメントする巻と鳥居。やはり怖かったのだろうけど、よくありがちな話にその緊張も少し治まったらしい。
そして昔話が終われば、休憩も終了。そんな中、再び歩き出した一行のうち難しい顔をする者が1人…
「若、お嬢!行く前は不安でしたけど旅行って楽しいですね〜。梅若丸なんて妖怪、知ってます〜?」
『…知ってるよ、リクオも、つららも。』
「えっ」
「つらら、姉ちゃん…
ここ少し危ないかもしれない。」
「え?」
晴れていた山が、いつの間にか霧に覆われている。そして奥にどんどん進めば、何やらデカいものをいくつか発見。
「…何だこれ。」
「それは爪だよ」
「爪!?」
「ここは妖怪の住まう山だ。
もげた爪だけで驚かれちゃ困る。」
本当にいると思っていなかった皆は恐れ始める。
「山に迷い込んだ…旅人を襲う妖怪。
名を…《牛鬼》と言う。」
今宵は新月…あらしの夜だ。
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