▽ マタタビジュース
昼過ぎになり、ようやくリクオは目を覚ました。
「本当…心配したんだよ!
傷だらけになってたんだから!」
『ごめーん。でも私も今リクオのこと心配してるから、これでおあいこだね!』
ふっふっふ。いいだろう!可愛い弟とのほのぼの会話が羨ましくて堪らないだろう!?
「そういえばこれ、枕元にあったんだけど…」
『マタタビジュース…元気になったら飲もうね!』
「…それ、お酒ですよ?」
会話を聴いていた毛倡妓がそこで口を挟む。
でもまぁ、私達は妖怪年齢では成人してるからね!大丈夫っしょ!リクオはまだだけど、どうせ数ヶ月後で成人するんで問題ナッシング!
「ほらよ、薬持って来てやったぞ。」
飲む気満々で1人むなしく脳内自己解決を繰り広げていれば、鴆がやや不満気な顔でやって来た。何故不満気なのかはまぁ…リクオがまだ頼りないからかな。夜は3代目になるなんて言うけど、昼はまだ否定してるしね。でも本当の理由は自分が出入りに参加できなかったからだと思う。さっき「いつの間に出入りがあったんだ」って悔しげに嘆いていたから。ぷぷっ。
「情けねーのな昼のオメーはよ。
ちょっと気負いすぎて発熱か。」
「……鴆君に言われたくないよ。」
ムッとして言い返すリクオに悶える私。
え?私の情報はいらないって?
つれなくすんなよ〜
「今はオメーの方が重病だろーが。
期待してたんだよ…朝になればまた元通りか…。
なぁ、本当に出入りに行ったことも覚えてねーのか?」
「それは…」
「あぁ、いい、いい!
全部聞いてるよ、カラス天狗から。俺はな、あのお前に三代目を継いで欲しいどぶふっ!!」
「「姉ちゃん/お嬢っ!?」」
「てめっ、何しやがる!」
『気持ちは分かるけど…
昼も夜もどっちともリクオでーす。そんな酷いこと、私の可愛い可愛いとっても可愛い弟に言わないで下さーい。』
「姉ちゃん…ぼく男だから。可愛いって言われてもそんなに嬉しくないから。」
「…ちっ、悪かったよ。つーかお前も今日は会議に出るんだろ?そろそろ行くぞ。」
そう言って立ち上がる鴆。
だが、鴆が部屋を退室しようとするのと同時に、遠くから物凄い足音が聞こえてくる。
あぁ、これは…彼女が帰ってきた証だ。
『…前方注意だ、鴆くん。』
「はあ?…ってグフオッ!!」
「若〜!すみません!若が学校に来てないことを知らずに普通に登校してましたー!」
放課後になるまで気が付かないのも凄いけどな。でも今はそんなことよりも…
『鴆くん…』
つららのタックルをまともに喰らったせいで、床に血を吐いて倒れている鴆の前に花を置く。
そして、
『私のー お墓のーまーえでー
泣かないでくださいーーーーっ♪』
「てめ…勝手に、人を…殺すな…っゲホッ」
そこの部分だけ熱唱する私に、血反吐を吐きながらも突っ込む鴆。そしてそこにやってきては、「…何やってんだ、2人とも。行くぞ。」と呆れながらそのまま通り過ぎるお父さん。待ってよーぅ。
それにしても、
あぁ…ついに会議に出る時間になってしまったか。ぶっちゃけ参加したくねぇーと思いながらも、鴆とお父さんと共に足は会議のある広間へと向かう。
部屋に入れば私達以外はもう皆揃っている様だった。急いでおじいちゃんを私とお父さんで挟むようにして座れば、早速始まる総会。
「〈回状を廻せ〉という指示は…破門した組の者が言っても何の意味もない。恐らく旧鼠は誰かに飼われていたんでしょうな。」
そう切り出した木魚達磨に
「それはリクオがまた妖怪になったというのに、それを良しと思っとらん奴なんじゃろーのぅ…この中にも…おるんじゃろうなぁー」
と返すじいちゃん。
「そりゃーそうでしょ。いくら覚醒しても昼間は人間。しかも覚醒時の記憶が無いとなれば…」
「だるま貴様誰の味方じゃい!」
「旧鼠のような奴が本家のシマで暴れていたんですぞ!早急に組みを立て直さねば!」
じいちゃんと木魚達磨の言い合いが始まり、周りはそれを嫌な笑みを浮かべて見ている。
それをボーッと空を見ていれば、懐かしい声が聴こえてきた。
「反乱を起こそうとしたガゴゼを切り、蛇太夫を切り、旧鼠を葬ったのは紛れもなく若…彼の能力は疑いようがないのです。しかし覚醒しても1日の4分の1しか妖怪になれないというのもまた事実。このまま続くのであれば、不満が溜るのもまた事実。」
「リクオ様のことが気に入らねエように聴こえるなぁー?」
…あり?
牛鬼と一つ目って、グルみたいなもんじゃなかった?二人揃ってビルの上から、リクオが旧鼠を倒すの見てなかったっけ…。
…駄目だ。よく思い出せない。
「いや、今はまだ様子見の段階…ゆっくりと考えていきましょう…」
もしグルなら、一つ目はあんな虚を衝くようなことしなくていいだろうに。それも、牛鬼が怪しまれないようにするための演技か?
うーん…分からなくなってきた。めんどくせっ!
にしても…牛鬼は上手いなぁ、怪しいところが全然無いわ。ぼへーっと今度はマタタビジュースのことを考えて時間を潰していれば、まさかの矛先が私に向いた。
「鯉菜様は…どうお思いで?」
『…へっ?私?』
マタタビジュース飲みたいとしか…今は考えてなかったんですけど!
周りを見渡せば、皆がこちらを向いている。初っ端から見下したような目をする奴もいれば、品定めをするような目を向ける奴もいる。
ーさて…どうしたもんか。
取り敢えず、原作通りに行って貰わないと困るのだから…牛鬼の仕業だということはバレちゃいけない。なおかつ、私はリクオよりも劣って見えないと駄目だ。
三代目候補から確実にいなくなるために。
(『(原作を邪魔しないで、馬鹿なコメントをしなくちゃ…う〜ん…)』)
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