この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ


▽ 道標(リクオside)

「よう、リクオ…よく晴明を倒したな」

「父さん! ただいま」

「あぁ、おかえり」


部屋に行けばー
カナちゃん達皆が…ボクのためにとっておいた授業のノートやプリントが山積みになっていた。
これは授業に追いつくのが大変だぞ…
遠い目になりながらもそんなことを考えていれば、後ろから聴こえてきたお父さんの声。わしゃわしゃとボクの頭を撫でて「頑張ったな」と言ってくれた。


「……ありがとうな」

「…ううん…。…あっ、それより姉ちゃんは?
いつもなら氷麗と張り合って一番に出迎えてきそうなのに…どっかで隠れてスタンバってるの?」

「…あぁ、鯉菜か…。……着いてきな。」


顔を曇らせて歩き出す父さんに、疑問符を浮かべながらも着いていく。
着いた先には…晴明戦で共に戦った東海道五十三鬼夜行の面々がいた。そしてその大将と何らかの話をしている父さん。
内容は聴こえなかったが、話は終わりー


「おい、百目。」

「へい」

「悪ぃな、頼む。」


百目だけ連れて再び歩き出す。今度は人気の少ない方へと行き、誰もいない部屋に入った。


「父さん、いったい何をし…」

「百目…映してくれ。
リクオ、百聞は一見にしかず…だ。」


そう言って…父さんは壁に寄り掛かる。一方、百目の目は壁に何らかの映像を映し出す…


「! これは…晴明戦の時の…?」


父さんが何をしたいのかよく分からないが…取り敢えず流れる映像を見る。
おじいちゃんが若返って御門院を倒し、すると今度はおじいちゃんが突然倒れ…
そしてー


「…え…坂本先生……?」


坂本先生の胸に刺さる刀。
その後もずっと映像が流れて…姉ちゃんの前世の兄とのやり取りや坂本先生とのやり取りも見た。
そこでハッと嫌な予感が過ぎる。


「父さん…! 姉ちゃんは!?
まさかっ…後追いとかしてないよねっ!?」


清十字団がうちに来ているのだし…学校はもう終わっている筈。
なのに、家にいない…。
あの姉ちゃんが先生を慕っていたからこそ、その可能性が充分有り得る気がして…冷や汗が出る。
だがー


「そんな事しねぇよアイツは…。
家族を残して逝くことの辛さをアイツは充分知ってるからな。」

「じゃあ…どこにいるの? どうして…」

「…お前に合わす顔がねぇんじゃねぇか?」

「え…?」

「先生を助けるどころか殺してしまったって責任を感じてるからなぁ…
守ることができなかったから、お前に会いづらいんだろ。…お前さんだって先生が好きだっただろ?」


そりゃあそうだ…
人見知りが激しくて警戒心高い姉ちゃんが先生に懐くだけあって、ボクもあの先生は好きだった。
でも…
確かに先生が亡くなったのは辛いけど…



「一番辛ぇのは……姉貴じゃねぇか…」

「…リクオ」

「…………」

「迎えに言ってあげてくれ、手間のかかる姉ちゃんをな」

「……あぁ!」



まだ夕方だが…日が暮れるのが早いこの時期は既にだいぶ空が暗い。
何処にいるか分からねぇが…手当り次第探すとするか。




学校に行って帰ってきてないということは…まだ学校にいるのではないか?
そう思って浮世絵中に向かえば、案の定、屋上にいる制服姿の姉貴を見つけた。


「弟の快気よりも今は亡き男…か?
 嫉妬するね」


そう声をかければ、ゆっくりと振り返る姉貴。


『…何よその顔は。泣いているとでも思った?』

「本当はメソメソ泣いてたんじゃねぇのか?」

『…最初の方だけね。
今はもう泣かないわよ…泣いたからって先生が生き返るわけでも何でもないし。』


自嘲するように言う姉貴の手には…食べかけの饅頭。


「…珍しいな、あんこ嫌いじゃなかったか?」

『嫌いよ…口がモサモサして甘過ぎるし。』

「…じゃあ何で買ったんだよ」

『…坂本のバカが毎日これ食ってたのを思い出したんだよ。だから一日一個…今日まで毎日それ食ってたんだけど…脳味噌が脳餡子になりそうで気持ち悪いわ。』

「…どんな例えだよ…。
つうか食わねぇならそれくれよ」

『ん…』


姉貴から食べかけの饅頭を受け取り、それにかぶりつく。…旨いなコレ。


『…自分でも何がしたいのか…サッパリだわ』

「……よく分かんねぇが、姉貴が気が済むまで好きなことやりゃあいいんじゃねぇか? 食べ切れねぇならオレが饅頭食ってやるよ」

『アンタは饅頭を食べたいだけだろ。』

「ちっ…バレたか。
…さてと、饅頭も食べ終わったことだし…」

『うっわ…なんかエロ…』


饅頭を食べ、最後に指をペロッと舐めたら何故かエロいとか言われる始末…何でだ。


「ったく…帰るぞ、姉貴。」

『ひゃっ…!?
ちょっ、リク! 自分で帰れるから降ろせ!!』


昼の姿の姉貴を抱きあげれば、顔を赤らめて慌てて降りようとする。
だが…


「今降りたら骨折するぞ」

『……………』


もう既に屋上を離れ、奴良組本家に向かって空を移動中だ。いくら妖怪の血が混ざってようと、人間のままじゃここから落ちれば大怪我するのは間違いない。



『…ねぇ、リクオ…
三代目補佐なんて…必要なくない?』



下を向いているため、どんな表情をして言っているのかは分からない。


「…駄目だ…」

『……何故?』

「…姉貴は…オレの隣にいろ。
オレと一緒に百鬼を率いるんだ…」

『私が…リクオと?
…リクオほど私は…皆に信頼されてないけど…』

「オレが姉貴を信頼してる。
氷麗や青、黒…奴良組の皆はオレと一緒に戦ってくれるし、きっと何処にでも着いてきてくれる。
だから姉貴は…オレの道標となれ。」

『みち…しるべ?』


ーそうだ…

姉貴は確かにところどころ変だし、やり過ぎな時もある。間違う事ももちろんあるだろうが、それでも今〈為すべきこと〉を冷静に見極める。
妖怪も人も同じだと…オレが小3の時に教えてくれたのも姉貴。四国戦で牛頭と馬頭の密偵の時にも、いち早く対処してくれた。


「オレが…いや、奴良組が間違った時や迷った時は姉貴が道を示すんだ。」


数学ではないが…難しいことや複雑なことになると姉貴は弱い。だが、一度それを理解すれば…要る物と要らない物をあっという間に線引きし、できるだけ効率よい術を見つけ出す…それが姉貴だ。


「今回…姉貴は三代目補佐としてよくやった。
先生は助けられなかったものの、ジジイを助けてくれたじゃねぇか。親父や母さんも、小妖怪だって結局無事だったし…
姉貴があそこに残ってくれたから、オレは晴明と心残りなく戦えたんだぜ?」

『…リクオ…』

「だから、これからも三代目補佐としてオレの隣を歩け。これは三代目としての命令だ。
…約束は違わねぇのが姉貴だろ?
これからも家を守って、組を導いてくれ。」

『…私が間違うかもよ?』

「そん時ぁオレ達が姉貴を正してやる。」


そう返せば、そりゃあおっかないね…と苦笑いする姉貴。それにオレも「覚悟しとけよ」と笑い返す。
そして…目と鼻の先にはどんちゃん騒ぎな奴良組。この賑やかさに、少しでも姉貴の気が紛れることを祈りながら…家へと帰った。






(『…ねぇリクオ』)
(「なんだ?」)
(『…三代目補佐としての責任が以前より重くなった気がするんだけど』)
(「プッ…頼りにしてるぜ? 姉さん」)
(『…姉さん…!?』)




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