▽ 噂の奴良姉弟
「ぼく、もう絶対に学校で妖怪の話なんてしない!立派な人間になるんだ!」
学校への登校の道中、そう堅く決意をするリクオ。
『立派な人間…ねぇ。』
「うん!姉ちゃんも立派な人間にならないと、妖怪だってバレるよ!?」
私は別にバレても困らないけど…。
「む…ねぇ、誰か付いて来てる気がしない?」
当たり前だ。青田坊と雪女が人間に変装して護衛してくれてるんだから。リクオは気付いてないけど…。
「こらっ!鴉天狗!
いくら心配だからって学校まで…」
『ぅおうっ!?』
「わっ」
おま…何するんだ!
急にバックを振り回しやがって!危うく私だけじゃなくてカナちゃんにも当たるところだったじゃないか!そしてもう少しで鞄が当たりそうになったカナちゃんは、目を据わらせてリクオに詰め寄る。
「リクオ君〜?何のつもりなの…私を殺す気!?」
「そ、そんな…ゴメンなさい!!」
大体鴉じゃなくて青と雪女だし。
「奴良〜どーしたんだよ朝っぱらから喧嘩かー?
てかアレやった?アレ〜。」
そこに、朝っぱらからハイテンションでリクオにまとわりつくのは島君。お前はどこからわいて出た。
「えー?何だよー?なーんて…もちろんだよー!」
そう言ってドォオン!と、誇らしげに取り出したのは…宿題。リクオの分じゃなくて、島の分の宿題だ。
「任しといて!お昼も買っとくから!焼きそばパンと野菜ジュースね!」
リクオを褒めるちぎる島に対して、これまた喜んでいるリクオ。ちなみにカナちゃんはその光景を若干引き気味で見ている。
『…そうゆうのやめたら?』
「何で!?立派な人間てことは妖怪の真逆なんだよ?バレないじゃん!」
『アンタにとっちゃいいかもしれないけど…相手にとっては為にならないわ。』
「何言ってんのさ!さっきの見てなかったの?喜んでたじゃん!褒めてくれたし!」
『…良いように利用されてるだけよ』
なんにも分かっていない。
リクオのやることは相手をダメな人間にしている。相手の宿題や日直の仕事を代わりにやったら、その人に学力や責任感、観察力…その他諸々のスキルが身に付かなくなるだけだ。その分リクオには付くかもしれないけど。
『私、先行くね。』
リクオのことは確かに好きだけど、こうゆう所はちょっとイラつくんだよね…。まぁ…逆に、リクオの言う〈立派な人間〉になろうとしない私に、リクオも不満を持っていそうだけど。
教室に入れば、そこそこ仲のいいクラスメイト2人が「おはよう」と声を掛けてきた。
『おはようさん。』
「ねぇ、鯉菜ちゃん!旧校舎って知ってる?」
『あぁ…近くのボロい校舎よね。』
「え…何。みんな知ってんの?
私知らないんだけど。」
「そこはね、鯉菜ちゃんの言う通りボロい校舎なんだけど、誰にも行けない場所なの」
「? どゆこと?」
「そこでは夜な夜な死霊たちが暴れていて、もし迷い込んだら二度と帰ってこれないんだって…」
「嘘ぉ…でもそれ、本当にあるの?気になる…」
「じゃあ教えてあげる。
でも…絶対に…近づいちゃダメよ。」
『いや、そんな念押しするなら教えんなよ。素知らぬ顔してわざわざフラグ立てるなって。』
「えー!何処にあるのか知りたいじゃん!」
「昼休みになったらさ、一緒屋上に行こうよ!
そっから見えるからさ」
『…まぁ、いいけど』
そんなこんなでお昼休みになり、3人で屋上に向かう。にしてもさ、何で屋上普通に行けるの。前世の私の中学、高校の屋上は普通に立ち入り禁止だったよ。屋上に出れる学校って…実際そんなにないよね。全く…青春の敵だ。
「あれ、姉ちゃんだ。」
『あら、奇遇だね。リクオも旧校舎見に来たの?』
聞けば、頷くリクオ。
てか横にいる今朝のお前。なぜ私をそんなガン見する。
「え…この人奴良の姉さんだったの!?」
え…逆に知らなかったの?
朝リクオと一緒に居たのに!あっ、君にとって私は空気だったのね。てかちょい待て。今、「あの噂の人が奴良の姉だったとは…」って言ったよね。何その噂って。私、変な噂されてんの!?ショック!
「あ!この子が噂の弟くん!?可愛い〜。」
「え、噂…?」
そう冷や汗をかいて、こちらを見るリクオ。別に妖怪の話なんてしてないよ。どんだけ信用されてないんだ私は!姉ちゃんは悲しいぞう!
『文字通り〈良い奴〉って噂だよ、バーカ。』
「んなっ…何いじけてんの!?」
『お前のせいだ馬鹿野郎。』
えぇー!? …と驚くリクオのおでこを小突けば、ナイスタイミングでチャイムが鳴る。
「あっ、チャイム鳴った!早く戻ろう!」
「君達も早く戻りなよー!ほら、行くよ鯉菜っち。」
『何そのあだ名。たまご〇ちみたいで可愛い。』
島の言っていた私の噂が物凄く気になるが…仕方が無い。ここは一旦引いてやるか。次に会う時は貴様の命はないぞ。…だなんて1人脳内厨二病ごっこしながら階段を駆け下りる。
(『(帰ったら、リクオに噂のこと聞いてみよう。)』)
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